米中両国が「第1段階合意」に署名、中国景気は持ち直す?

 トランプ米大統領と、中国の劉鶴副首相は15日、ワシントンのホワイトハウスで米中「第1段階の合意文書」に署名しました。米政府の発表によると、合意文書には、中国が(1)米国から工業品・農畜産物・エネルギーの輸入を今後2年間で2,000億ドル増やすこと(2)知的財産権の保護に取り組むこと(3)為替操作を行わないこと、(4)外資系企業に対する技術移転強要の禁止など、中国が守るべき7項目が盛り込まれました。

 これに対し、米国は中国にかけている制裁関税の一部を、2月に引き下げます。昨年9月に発動した制裁関税第4弾(中国からの輸入1,200億ドル相当にかけた15%)の関税率を7.5%とします。ただし、それ以前に発動していた制裁関税第1~3弾(合わせて中国からの輸入2,500億ドル相当にかけた25%)は、そのまま維持されます。

 合意文書の内容は、昨年12月13日に両国で合意した内容と大きく異なる点はありません。その意味では、サプライズはありませんでした。ただし、昨年12月13日の合意は、まだ口約束に過ぎませんでした。当初予定通り、15日に両国の署名にこぎつけたことは、ポジティブです。

 一方、ネガティブだったのは、米国が、対中制裁関税のさらなる大幅引き下げを発表しなかったことです。「第1段階の合意」は、部分合意に過ぎず、これから「第2段階の合意」を目指して、米中でさらなる交渉が始まります。第2段階の合意が成立すれば、トランプ大統領は、対中制裁関税を廃止すると述べています。ただし、ここからは、互いに譲れない問題が山積しているので、交渉は難航が予想されます。第2段階の合意ができるのか、不透明です。

 さらに、心配されるのは、中国が今回の合意を守れるか否かです。米国は、中国の合意内容の順守状況を監視し、違反があれば新たに制裁を加えるとしています。将来、米中対立が再び激化するタネが残っている状態です。

 それでも、米中貿易戦争は、当面やや緩和する方向に進むと思われます。そうなると、中国景気にプラスの影響が及ぶでしょう。

 これまで、米中貿易戦争のマイナス影響は、中国景気に重く、米景気には比較的軽微でした。そのため、昨年は中国景気の悪化が鮮明となりました。米中対立の緩和が実現すれば、中国景気にプラス効果が大きいと思います。V字回復は期待できないものの、中国景気は、いくばくか持ち直すと期待されます。

中国関連株に改めて注目

 日本には、中国と経済的つながりが大きい「中国関連株」がたくさんあります。「中国関連株」には、主に、以下の3種類があります。

【1】    中国関連・設備投資関連株
安川電機(6506)ファナック(6954)小松製作所(6301)など。貿易戦争の影響で、中国で設備投資が減少した影響を大きく受けています。ただし、中国景気が底入れすれば、業績は回復に向かう期待があります。

【2】    中国関連・消費関連株
カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)資生堂(4911)花王(4452)など。中国の消費は安定的に高成長が続いています。中国景気の浮き沈みにかかわらず、中国関連・消費関連株は好調が続いています。

【3】    素材・市況セクターの株
化学セクター、鉄鋼セクター、海運セクターなど。中国景気が好調だと、化学・鉄鋼・海運などの国際市況が上昇するので、その恩恵を受けます。中国向けの売り上げが大きい会社は、文字通り「中国関連株」です。ただし、必ずしも中国向けの売り上げが大きくなくとも、間接的に市況上昇の恩恵を受けるので、「中国関連株」と言われることもあります。

中国景気の持ち直しで注目されるのは、【1】中国関連・設備投資関連株と、【3】素材・市況セクターの株です。実際、中国関連・設備投資関連株には、先行きの業績回復期待から、昨年末より株価が大きく上昇しているものもあります。

  一方、素材・市況セクターの株は、中国景気の悪化・市況下落を織り込んで株価が下がったきり、まだ安値圏にある銘柄が多いです。中国景気の回復、原油市況の上昇がもっと鮮明にならないと、買われることはないかもしれません。

 これに対し、【2】中国関連・消費関連株は、まったく値動きが異なります。これまで世界景気の影響を受けにくいディフェンシブな安定成長株として買われてきました。中国景気が悪化しても回復しても、中国の消費は景気に関係なく安定的に拡大しています。中国・消費関連株の業績も安定的に好調でした。したがって、中国景気が回復するとしても、その恩恵から買われることはないと考えられます。

配当利回りの高い、化学株に注目

 配当利回りの高い、大手化学株に投資すべき良いタイミングが来たと考えています。中国の景気が持ち直せば、原油やナフサ、石油化学市況の上昇が期待されます。中国景気悪化による市況下落で業績が悪化し、株価も下落していましたが、中国景気が持ち直し、化学市況も持ち直せば、業績・株価の反発が期待できるようになります。

 大手化学株の株価は、PER(株価収益率)や配当利回りなどの株価指標で見て、きわめて割安と言えるバリュエーションまで低下しています。今期業績は減益の会社が多いですが、今期で業績悪化が止まり、来期に回復する期待が出れば、株価が上昇すると思います。

 まだ、中国景気の底入れを確認できていませんが、配当利回りが高く、PERが10倍を下回る割安化学株は、今、投資を始めて良いと考えています。

 ただし、割安な化学株は何でも買い、というわけではありません。最初に述べたように、日本の化学株は大手でも国際比較で小規模なので、汎用品ではまったく競争力がありません。小粒でもピリリと光るもの、つまり、電子材料、医薬品、農薬、その他スペシャリテイケミカルといった、高付加価値品で高い競争力を有する化学株にしぼって投資すべきと考えています。
具体的には、私は現在、以下3つの高配当化学株に注目しています。

配当利回りの高い化学株:投資の参考銘柄

コード 銘柄名 株価 配当
利回り
PER PBR
4188 三菱ケミカルHD 815.9 4.9 8.8 0.83
4005 住友化学 481.0 4.6 15.7 0.81
4004 昭和電工 2,756.0 4.7 4.4 0.80
※単位 株価:円  配当利回り:%  PER:倍  PBR:倍
出所:配当利回りは、今期1株当たり利益(会社予想)を1月15日株価で割って算出。PERは、1月15日株価を今期1株当たり利益(会社予想)で割って算出。今期とは、三菱ケミカル・住友化学では2020年3月期のこと。昭和電工は2019年12月期のこと、楽天証券経済研究所が作成

  クラレ(3405)(予想配当利回り3.2%、1月15日会社予想ベース)、信越化学(4063)(同1.8%)も化学株として、高い競争力があり高収益体質なので、投資魅力は高いと考えています。ただし、配当利回り4%台が見込める三菱ケミカル、住友化学、昭和電工より、配当利回りでの魅力はやや劣ります。

 旭化成(3407)(予想配当利回り3.0%、1月15日会社予想ベース)も、化学株としての収益力は評価できますが、住宅事業(ヘーベルハウス)の収益が、消費税引き上げ後に低下する可能性があるので、今は投資タイミングが良くないと考えています。

▼もっと読む!著者おすすめのバックナンバー

2020年1月9日:年初から大荒れの日経平均。利回り4~6%の高配当株から、コツコツ投資
2019年12月26日:1~3月の人気優待トップ10:アナリストの視点でチェック
2019年12月19日:利回り4.1%!「6万円以下」で買える高配当利回り株と投資したい銘柄6選