トランプ発言に振り回される株式市場

 先週は、日経平均株価・NYダウ平均株価とも週前半に下落、週後半に持ち直す展開でした。トランプ米大統領の発言に振り回された1週間でした。日経平均は1週間で61円上昇し、2万3,354円となりました。NYダウは、1週間で36ドル下がり、2万8,015ドルとなりました。

先週のNYダウ・日経平均株価の動き:12月2日~6日

出所:各所データより楽天証券経済研究所作成

 日経平均は年初来高値、NYダウは史上最高値の近くで推移しています。その背景に、米中通商交渉が近く「部分合意」に達し、米中対立が一時的に緩和、抑制されていたハイテク投資が世界的に盛り上がり、来年2020年にかけて世界景気が回復に向かうという期待があります。

 ところが、12月3日のトランプ大統領の発言で、一気に期待がしぼみ、不安が高まりました。トランプ大統領は、米中通商協議の合意について「(来年11月の)米大統領選後まで待った方が良いと思う」と述べ、貿易協議長期化を示唆しました。間もなく部分合意が成立すると期待している株式市場にとって、ネガティブサプライズとなりました。

 これで、米中通商交渉の年内合意がなくなり、12月15日に米国が予定通り「対中制裁関税第4弾」を発動、中国もなんらかの報復措置を実施して、米中対立がさらにエスカレートする不安が高まりました。12月3日のトランプ発言を受けて、NYダウが急落し、4日の日経平均も急落しました。

 ところが、12月4日、トランプ大統領は発言を翻しました。米中協議について「良好に進行するだろう」と述べ、再び、合意が近いというニュアンスを出しました。これを受け、4日のNYダウは反発、5日の日経平均も反発しました。その後、先週後半は、合意が近いという期待が続き、日米株価とも反発が続きました。

12月15日が合意の事実上の期限

 米中協議に特定の期限はありませんが、事実上の期限と考えられているのが、12月15日(日)です。米国は、この日に、対中制裁関税第4弾を発動する予定です。この日までに米中部分合意が成立すれば、発動は撤回されると考えられますが、間に合わなければ発動されることになります。今週の日経平均・NYダウは、週末15日(日)の制裁関税が発動されるか否か、思惑で乱高下する見込みです。 

 もし、第4弾が発動されると、中国だけでなく、米国景気にもダメージが大きくなると考えられます。第4弾には、これまでの制裁関税第1弾~第3弾で避けてきたスマートフォンなどの消費財が多く含まれるからです。発動されれば、米国民生活を直撃します。米景気に悪影響を及ぼす上に、トランプ大統領の支持率にも大きなマイナス影響が及ぶ可能性があります。

 トランプ大統領も、習近平国家主席も、本音では第4弾発動はなんとしても回避したいところでしょう。トランプ大統領は、来年大統領選挙を控えているので、ここで米景気・米国株にマイナス影響が大きい政策を発動したくないでしょう。

 習近平国家主席も、香港の民主化デモが過激化している問題、中国景気が悪化してきている問題から、これ以上米国との対立をエスカレートさせたくないと考えているでしょう。

考えられる3つのシナリオ

 日米株式市場は、米中で何らかの合意が年内に成立することを見込んで動いているように思われます。少なくとも、対中制裁関税第4弾の発動は見送られると見込んでいます。
 現時点で、3つのシナリオが考えられます。

【1】部分合意成立
成立あるいは成立のメドがつき、15日の制裁第4弾発動は撤回

【2】問題先送り
部分合意は成立しないが、交渉決裂ではなく、交渉期限延長とする。1~3カ月、交渉期限を延長する。交渉中は制裁関税を発動しないとして、15日の第4弾の発動も、1~3カ月先送りとする

【3】交渉決裂
 部分合意は成立せず。15日に制裁第4弾が発動される。中国も報復策を出し、米中対立がエスカレート

私も、メインシナリオとして、第4弾の発動は見送られると予想しています。つまり、上の3つのシナリオの内の【1】か【2】になると考えています。

【3】になった場合は、私にとっても、株式市場にとってもネガティブサプライズとなります。その場合は、日米ともに株価が大きく下がる可能性があります。

日本株は長期的に買い場の判断を維持

 日本株は、配当利回りや買収価値から割安で、長期的に「買い場」の判断を維持します。もし、米中決裂ということになると、短期的には日経平均が大きく下がることも考えられます。もしそうなれば、長期的に、良い買い場になると考えています。

 米中決裂でも、世界的に進む第4次産業革命の流れは止められないと考えています。米中決裂でも、来年にかけて、5G(第5世代移動体通信)や半導体の投資が世界的に回復する流れは変わらないと思います。米中対立がエスカレートすれば、世界景気にとって大きなブレーキとなります。それでも第4次産業革命が進むことで、世界景気は鈍いながらも来年にかけて底打ちするとの見方は変わりません。

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