今日は、日経平均先物で短期トレードをしている方に向けたメッセージです。中上級者向けの内容です。ただ、先物売買をやらない方、初心者の方にも、参考までに読んでいただきたい内容です。

裁定売り残の変化から、日経平均先物の「踏み上げ」が起こっていると推定できる

 私は過去25年、日本株のファンドマネージャーをやっていました。ファンドマネージャー時代、日経平均先物で短期トレードをする際に、一番重視してみていた指標が「裁定残高」です。

 10月からの日経平均の上昇局面では、日経平均先物の「踏み上げ」が起こっていたと考えられます。それが、以下のグラフからわかります。

日経平均と裁定売り残の推移:2018年1月4日~2019年11月19日(裁定売り残は2019年11月8日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 詳しい説明は割愛しますが、裁定売り残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「空売り(からうり)」の変化が表れています。空売りが増えると裁定売り残が増え、空売りが減ると裁定売り残が減ります。

 上のグラフを見ていただくとわかりますが、裁定売り残高は、2019年7月から8月にかけて約1兆円から2兆円まで急増しています。投機筋が、日本株に極めて弱気の投資判断をして、日経平均先物の空売りをどんどん積み上げていったと推定されます。

 ただし、2019年9月から11月(8日)までで、裁定売り残高は、急減しています。9月6日に約2.1兆円あった裁定売り残高は、11月8日には約9,500億円まで急減しました。1兆円以上減ったことになります。この間、空売りを積み上げていた投機筋が、日経平均先物を買い戻してポジションをクリアしたと推定されます。

 その間、日経平均は上昇しています。空売りを仕掛けた投機筋は、日経平均の上昇によって含み損が拡大していきました。じりじり上昇が続く日経平均に我慢ができず、損失拡大を防ぐために、空売りの買戻しを出していったと考えられます。このように、空売り筋に買い戻しを迫る相場の上昇を、「踏み上げ」といいます。9~10月は、日経平均先物の踏み上げによって、上昇が継続したと考えられます。

裁定買い残は低水準、投機筋の買い建てはほとんど整理された状況と考えられる

 日経平均先物でトレーディングする際、裁定売り残高と、裁定買い残高の変化を両方見ておく必要があります。そこに投機筋の先物ポジションの変化が表れているからです。
詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「買い建て」の変化が表れています。買い建てが増えると裁定買い残が増え、買い建てが減ると裁定買い残が減ります。

日経平均と裁定買い残の推移:2018年1月4日~2019年11月19日(裁定買い残は2019年11月8日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 上のグラフを見ていただくとわかりますが、裁定買い残高は、2018年から2019月にかけて急減しています。2018年初に3兆円以上あった裁定買い残は、19年11月8日には、約5,000億円まで低下しています。投機筋の先物買いポジションはほとんど整理された状態と推定されます。

 11月8日時点で、裁定売り残は約9,500億円、裁定買い残は約5,000億円です。まだ、売り残の方が大きい状況です。

日経平均先物の買戻し圧力は今後、徐々に低下へ

 現在の裁定残高(11月8日時点:売り残約9,500億円、買い残約5,000億円)から、何が読み取れるでしょうか?

 先物の売り建ては含み損を抱えていて、買い建ては含み益を抱えている状態と考えられます。まだ、売り残の方が大きいですので、しばらく、先物の買戻しが続くと考えられます。ただし、売り残はピークの2.1兆円から既に1兆円以上、減少していますので、先物の買戻し圧力は、今後、徐々に低下していくと考えられます。

 裁定残高からわかることは、それだけです。日経平均の動きは、短期的には需給(踏み上げなど)によって動きますが、最終的にはファンダメンタルズ(景気・企業業績)によって決まります。

 先物空売りの買戻しが一巡したあとは、米中貿易交渉の行方、来年の景気見通しにより、新規の先物買いが増えるような環境になるかどうかが、鍵を握ると考えられます。
 

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