安定成長株として、JR4社に改めて注目
世界景気の先行きに、やや不透明要因が出ています。私は、来年には米中貿易戦争がやや緩和し、5G(第5世代移動体通信)や半導体の投資が世界的に盛り上がると考えています。来年、世界景気は回復に向かうと予想しているので、日本株は「買い場」と考えています。
ただし、世界景気の先行きについて決め打ちは危険です。今から想定外のネガティブ・サプライズ(驚き)が起こり、来年も世界景気悪化が続くリスクもあります。
日本株に投資する場合、世界景気の影響が大きい「景気敏感株」だけではなく、世界景気の影響を受けにくく、安定的に収益を獲得していくことが期待されるディフェンシブ株【注】にも分散投資すべきです。私は、ディフェンシブ銘柄として、JR4社の投資価値が高いと判断しています。
【注】ディフェンシブ株
鉄道輸送は、景気変動の影響を受けにくい公共サービスの1つで、JRは代表的ディフェンシブ株です。世界景気が悪化する局面で、鉄道各社は、景気敏感株(電機・機械・自動車など)ほど業績が悪化しない特徴があります。ただし、景気変動の影響をまったく受けないわけではありません。あくまでも、相対比較で、受けにくいというだけです。
まず、JR4社の業績(連結経常利益)推移を見てください。
JR4社の連結経常利益:2018年3月期(実績)・2019年3月期(実績)・2020年3月期(会社予想)
2018年3月期は、4社そろって経常最高益を更新しました。JR東日本は2期連続、JR東海は6期連続、JR西日本は2期ぶりの最高益でした。JR九州は、上場後、初の最高益でした。
前期(2019年3月期)は、JR九州を除く3社が最高益を更新。地震や西日本豪雨の影響で、2社(JR西日本・JR九州)が減益となる見通しでしたが、JR西日本は下期に持ち直し、最高益となりました。
今期(2020年3月期)は、現時点で、JR東日本は4期連続、JR西日本は3期連続で経常最高益を更新する見通しです。JR東日本は10月の大型台風で被害を受けましたが、小幅増益の見通しです。一方、JR東海は、前期の増益率が高かったので、今期は減益になる見通しです。JR九州も、台風被害や韓国からの訪日観光客減少の影響を受け、減益の見通しです。
ただし、JR4社は、中長期的に最高益を更新していく力があると考えています。新幹線および多角化事業(不動産・レジャーなど)が成長ドライバーになると思います。
異常気象は、これからも毎年、業績にマイナス影響を及ぼす可能性があります。また、人口が減少する過疎地域の路線が業績の重荷になります。それでも、訪日外国人および日本人の観光客増加によって、新幹線の利用拡大が続き、最高益更新に貢献すると予想しています。
人口の増えない日本で、新幹線がけん引役となってJR4社は最高益を更新
人口の増えない日本で、鉄道業は成熟産業と見られていましたが、新幹線収入の拡大によって、JR東海・JR東日本・JR西日本は、安定的に最高益を更新してきました。最高益を更新していく力が評価され、JR各社のIPO(新規上場)後の株価上昇率(公募価格との比較)は、以下の通り、いずれも高くなっています。主な民営化株の上場来パフォーマンスを比較すると、NTTや日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命のように、いまだにマイナスのところもある中、JR4社のパフォーマンスの良さが目立ちます。
日本の主要な民営化株の上場来パフォーマンス比較:2019年11月13日時点
新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、今や「国民の足」として、利用が拡大してきました。そこに、外国人観光客の利用拡大がさらに追い風となっています。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与しています。
2015年11月に上場とともに完全民営化(政府保有株をゼロにすること)を達成したJR九州も、先行き、収益を拡大していくと予想しています。人口減少地域で鉄道業の収益が悪化する不安はあるものの、九州新幹線の収益拡大が期待されます。また、早くから、観光客を楽しませる多様な観光列車(デザイン&ストーリー列車)の導入を進めてきた効果も、九州地区へのアジアからの観光客増加で効果を発揮します。ホテルや不動産業などへの多角化も進んでおり、人口減少を補って、グループで収益を底上げしていく体制ができあがっていると考えています。
JR九州が導入で先行した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星」の旅は、予約倍率が10倍前後で、好調です。従来の寝台列車とは異なり、動くホテルのような快適さが受けています。JR九州の成功を見て、JR西日本・JR東日本も豪華寝台列車の旅を導入しましたが、いずれも好評です。
なお、私の勝手な予想ですが、いずれJR4社が提携して豪華寝台列車を使って全国をめぐる長期旅行が売り出されると思っています。そうなれば高い人気を集め、4社の収益拡大に寄与すると考えています。
訪日外国人観光客が天候不順や日韓関係悪化の影響で減少
訪日外国人観光客の数は、7月に過去最高の299万人を達成しましたが、8月以降、減少しつつあります。昨年(2018年)も今年(2019年)も、8~10月に外国人観光客の数が落ち込んでいます。2年連続の異常気象に加え、今年は日韓関係悪化の影響も受けています。2019年9月は、韓国からの観光客数が前年同月比58%減の20万1,200人となりました。
【注】インバウンド関連株
訪日外国人観光客による日本国内での消費支出を「インバウンド消費」と呼びます。インバウンド消費の増加で恩恵を受ける銘柄を、「インバウンド関連株」と呼びます。JR4社は、インバウンド消費の恩恵で、新幹線や観光事業の収入が拡大しているので、インバウンド関連株と見られています。
訪日外国人観光客数の推移:2011年1月~2019年9月
訪日外国人観光客数の上位8カ国:2018年9月
2018年は、6月から10月まで、異常気象や地震の影響がマイナス要因となりました。6月18日の大阪府北部地震、6月28日から7月8日にかけて続いた西日本豪雨、さらに8月から大型台風の来襲が続き9月に豪雨で水没した関西国際空港が閉鎖された影響が出ました。さらに、9月に北海道で大規模地震が起こった影響もマイナス要因となりました。
2019年は、天候不順に加え、韓国からの観光客の大幅減少がマイナス要因となっています。
ただし、外国人観光客の数は、中期的にさらに増加する余地があると考えています。インバウンド・ブームが続く、構造要因が変わっていないからです。
◆日本が観光地として魅力的であること
◆アジアで、中間層(富裕層と貧困層の中間にある層)の所得が、海外旅行ができるくらいまで増加してきたこと
◆日本政府が、観光ビザ発給の要件緩和など、海外からの観光客誘致策を取ってきたこと
外国人観光客の1人当たり買い物額は減少していくと考えられますが、日本での体験にかけるお金(コト消費)は増加していくと考えられます。JR各社は、コト消費の拡大で恩恵を受けると考えています。
今、JR東日本に注目する理由
JR4社とも、中期的な成長力を考えれば、投資価値は高いと考えています。ただし、4社で相対比較すれば、東京を地盤に持ち、不動産・小売など多角化事業で高い競争力を持つJR東日本の投資価値が一番高いと考えています。ちなみに、2019年3月末時点で、JR東日本は、賃貸不動産に1兆4,661億円もの含み益を有します。
含み益の大きさで、三菱地所、三井不動産、住友不動産についで第4位です。にもかかわらず、今年は台風19号で大きな被害を受けたことや、インバウンド減少の影響を受け、JR東日本の株価はさえません。今、投資していく良いタイミングと思います。
JR西日本は昨年、西日本豪雨の被害を受けて株価が下落した時は割安でした。ところが、今年は3期連続の経常最高益を見込むことなどが評価されて、株価が大きく上昇しています。今の投資タイミングで考えると、JR東日本の方が良いと考えます。
株主優待が魅力的なJR4社
JR4社は、運賃・料金の割引券などを、株主優待品として、3月末の株主に贈呈しています。新幹線などを利用することの多い個人投資家に、好評です。株主優待が魅力的な、安定成長株として、長期投資していく価値が高いと考えています。
JR東日本は、新幹線の乗車券・特急利用料金などが2割引になる株主優待割引券を、3月末に100株保有する株主に対し、1枚贈ります。有効期限は1年です。有効期限内に使う予定がなければ、ネットで売却することもできます。「JR東日本 優待券 売却」で検索すると、さまざまな買取価格が出てきます。買取価格は、時々の需給で変動します。有効期限が短すぎると、売却できないこともあります。
JR東日本を100株保有すると、JR東日本グループが提供する宿泊施設やレストラン、駅レンタカー、GALA湯沢スキー場リフト券・レンタル料金、リラクゼ利用料金などが割引になる株主サービス券も贈られます。詳しい内容は、同社HPまたは、弊社HPで確認してください。株主優待内容は、予告なしに変更されることもありますので、最新の情報をチェックするようにしてください。
安定成長株ではあっても、毎年の成長率は高くないので、株式市場で熱狂的に買われることはあまりありません。その分、株価はPER(株価収益率)で見て、やや割安に据え置かれていると考えています。
JR4社の株価バリュエーション:2019年11月13日
JR以外の私鉄各社も、インバウンド需要拡大が追い風
私鉄各社は、1980年代に競ってリゾート開発に進出したが、いずれも、1990年代のバブル崩壊で、失敗に終わりました。ところが、そのリゾート路線が、今、インバウンド需要の拡大を受けて、収益拡大に寄与するようになりました。
日光・鬼怒川リゾート・東京スカイツリーなどの観光資源を持つ東武鉄道(9001)がその恩恵を受けています。また、東京・赤坂の旧赤坂プリンスの再開発を成功させた西武HLDG(9024)も、インバウンド需要拡大の追い風に乗ります。京成電鉄(9009)は、成田空港と都心を結ぶ特急の利用拡大で収益を伸ばしています。
複々線工事を完了させ、輸送能力を拡大する小田急電鉄(9007)は、競合路線に対し、競争力が向上します。箱根へのアジアからの観光客誘致も、成果をあげつつあります。
近鉄グループHLDG(9041)は、あべのハルカス(大阪市阿倍野区にある日本でもっとも高い摩天楼)・奈良・伊勢志摩・熊野三山などの観光資源を持ち、「青の交響曲」などの高級観光列車が好調です。
ただし、JR以外の私鉄は、新幹線を持たないため、成長余地は限られます。投資価値は、JR4社の方が高いと判断しています。
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