今日の見出し

  • 6月28日(水)に米エネルギー省が公表した週間石油統計(Weekly Petroleum Status Report)では、弱材料の継続と強材料の芽を確認。
  • 米原油在庫・・・全米および米国の5つの石油管理地区の中でも“Gulf Coast”と呼ばれるテキサス州、ニューメキシコ州等の内陸部のシェール生産を中心とした全米でも石油開発が盛んなメキシコ湾岸に面するメキシコ湾岸地区で原油在庫が増加・高水準を維持。
  • 米ガソリン在庫・・・前週比減少。6月28日(水)以降のNY原油市場の反発の一因と報じられている。一方、今年6月の米国のガソリン在庫は90年以降、6月として過去最高となった昨年を上回る最高水準で推移。上述の主にメキシコ湾に面する地区の在庫増加が一因。
  • 米原油生産・・・前週比減少となり原油価格の反発の一因とされる。今後も米原油生産の減少が続けば原油価格はより強含む可能性もあるか?減産体制が機能しなくとも世界の原油在庫が減少するシナリオ。

6月28日(水)に米エネルギー省が公表した週間石油統計(Weekly Petroleum Status Report)では、弱材料の継続と強材料の芽を確認

先週一時42ドル台まで下落したNY原油市場について、週間石油統計が公表された6月28日(木)は一時44ドル近辺をうかがう展開となり、その後も上昇し、原稿執筆時点(6月30日午前)では45ドル台半ばで推移しています。

その主因として報じられたのは、週間石油統計内の米国の原油生産量および米国のガソリン在庫の減少でした。(米国の原油在庫はやや増加)

また、前回までのレポートで触れたとおり、筆者は2014年後半以降の世界の石油在庫の急増の主因に米国の原油在庫の急増が、そしてその米国の原油在庫の急増の主因に米国の原油生産の増加があると考えていますが、筆者が今回の米週間石油統計を見て最も強い印象を受けたのは、これまで増加傾向にあった米国の原油生産において、このおよそ1年間で最も大きな減少(前週比、日量10万バレル減少)となった点です。

今週の週間石油統計においては、弱材料の継続と強材料の芽が確認された、と感じた次第です。

【参考】

図:米エネルギー省が提唱する5つの石油管理区、および米国内の主要な原油生産地区・パイプライン等のイメージ

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

米原油在庫・・・全米および米国の5つの石油管理地区の中でも“Gulf Coast”と呼ばれるテキサス州、ニューメキシコ州等の内陸部のシェール生産を中心とした全米でも石油開発が盛んなメキシコ湾岸に面するメキシコ湾岸地区で原油在庫が増加・高水準を維持。

米エネルギー省のデータを元に計算すれば、米国の石油商業在庫はOECD諸国の石油商業在庫の40%超を占めています。そしてその米国の原油在庫を見た場合、米国の石油管理地区の1つである“Gulf Coast”(メキシコ湾地区)の原油在庫は全米のおよそ半分を占めていることになります。(レポート「OPECの混迷と石油に強い米国」をご参照ください)

“Gulf Coast”(メキシコ湾岸地区)では、メキシコ湾の海底油田の原油生産だけでなく、テキサス州を中心とした在来型(West Texas Intermediate:WTI等)、テキサス州・ニューメキシコ州・ルイジアナ州等にあるシェール主要地区(Permian、Eagle Ford、Haynesville)の非在来型等、さまざまな地区でさまざまな原油の生産が行われています。(レポート「米国の原油事情を分解。本当に減産は世界の原油在庫を減らせるのか!?<後編>」をご参照ください)

このメキシコ湾岸地区の原油在庫と、米国全体の原油在庫の増加が続いていることが今回の週間石油在庫統計で確認されました。このことは、OECD在庫に占める米国の在庫の割合の高さから、世界の原油在庫が高止まりを続ける要因になり得ると考えられます。

図:米国の原油在庫の推移 単位:千バレル (2016年2月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

図:米国の石油管理地区の1つ「メキシコ湾岸地区」の原油在庫の推移 単位:千バレル (2016年2月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

【参考】

図:OECD原油在庫の推移 単位:百万バレル (1996年1月から2017年6月)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

図:米国の原油在庫の推移 単位:千バレル (1996年1月から2017年6月)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

図:米国の石油管理地区の1つ「メキシコ湾岸地区」の原油在庫の推移 単位:千バレル (1990年1月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

米ガソリン在庫・・・前週比減少。6月28日(水)以降のNY原油市場の反発の一因と報じられている。一方、今年6月の米国のガソリン在庫は90年以降、6月として過去最高となった昨年を上回る最高水準で推移。上述のメキシコ湾に面する地区の同在庫増加が一因。

上記のとおり米国の原油在庫が増加となった一方、原油を精製して作られる石油製品の1つであるガソリンの在庫の減少が確認されました。

図:米国のガソリン在庫の推移 単位:千バレル (2016年2月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

米国の夏場のガソリン需要期となるドライブシーズン(おおむね5月最終月曜日のメモリアルデーから9月第一月曜日のレイバーデーまで)の折、今年はなかなかガソリン在庫が減らないと指摘されていた中で、今週の統計でようやく減少したことが確認され、この点が今週後半の原油価格反発の一因となったとされています。

毎年需要期が訪れるというサイクルがあるため、ガソリン在庫の変動は季節的な要素が大きいと見られますが、一方、傾向ではなく絶対量について触れてみれば以下の図のようになります。

6月のみのガソリン在庫を見た場合、2017年は1990年以降の最高レベルに積み上がっていることが分かります。

図:毎年6月の米国のガソリン在庫の推移 単位:千バレル

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

また、同様に石油管理5地区それぞれの毎年6月のガソリン在庫を見た場合、最も在庫が積み上がっているメキシコ湾岸地区の6月のガソリン在庫は2003年ごろから緩やかで長期的な増加傾向を維持していることが分かります。

図:毎年6月の石油管理5地区のガソリン在庫の推移 単位:千バレル

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

毎年この時期からドライブシーズンのため数ヶ月間ガソリン在庫は減少する傾向があり、その意味では今回の統計で見られた減少はいわば想定内(6月前半から後半まで減少しなかった点は想定外だったが)ということになり、さらに言えば、向こう数ヶ月間のガソリン在庫おける焦点は、単に同在庫が減少すること(季節的な自然減)ではなく、平年以上に積み上がっている同在庫がシーズン終了までにどこまで減少するのか?という点に移る可能性があると見られます。

減るのは当たり前、特に今年は平年よりも大きく積み上がっている在庫がどこまで減るのか?ということです。

サプライズ感を伴って(特にメキシコ湾岸地区で)ガソリン在庫が減少していけば、今週のように原材料である原油価格の上昇要因になることもあるかもしれませんが、逆に減少幅が例年並みあるいはそれ以下の状況が続けば、(在庫は減少すれども)在庫の水準が高い点が弱材料視される可能性もあるのかもしれません。

【参考】

図:米国のガソリン在庫 単位:千バレル (1991年1月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

図:米国の石油管理地区の1つ「メキシコ湾岸地区」のガソリン在庫 単位:千バレル (1990年1月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

図:米国の石油管理地区の1つ「メキシコ湾岸地区」のガソリン在庫 単位:千バレル (2016年2月5日から2017年6月23日)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

米原油生産・・・前週比減少となり原油価格の反発の一因とされる。今後も米原油生産の減少が続けば原油価格はより強含む可能性もあるか?減産体制が機能しなくとも世界の原油在庫が減少するシナリオ。

図:米国の原油生産量の前週比 単位:千バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

図:米国の原油生産量 単位:千バレル/日量 (2014年3月から2017年6月)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

【参考】

図:米国の原油生産量 単位:千バレル/日量 (1991年1月から2017年6月)

出所:米エネルギー省のデータより筆者作成

率直なところ、今週の週間石油統計で米国の原油生産量の減少を見たとき(前週比、日量10万バレル減少)、世界の原油在庫の急増の近因と考えている米国の原油生産量の増加傾向がそろそろ終焉を迎えつつあるのだろうか?米国の原油生産量の減少はいずれ世界の原油在庫を減少させ、いつか減産体制が混とんとしていても彼らが謳う世界の在庫減少が達成される日が来るのか?かつて減産合意・原油価格上昇の折、米シェールをフリーライダー(タダ乗りする人)と指摘した減産国が逆にフリーライダーとなり高油価・発言権向上の恩恵を享受するのか・・・などという妄想が頭をよぎりました。

具体的な米国の原油生産量については、例えば、毎週水曜前後に公表される週間石油統計をはじめ、前月までの生産量および翌年末までの見通しを毎月の短期見通し(Short-Term Energy Outlook)で、米シェール主要地区の原油生産量および見通しを毎月の石油掘削稼働レポート(Drilling Productivity Report)で、5つの石油管理地区ごとの原油生産量については前々月分までを当月末に、それぞれ米エネルギー省より公表されるデータで確認することができます。

これまで同様、これからこのようなさまざまな米国の原油生産量に関するデータを見ていくこととなりますが、今回のようにややサプライズ感を伴った米国の原油生産量の減少が今後も継続すれば(筆者の個人的な感覚で恐縮ですが、数週間ではなく数か月という期間で)、世界の原油在庫を減少させることを標ぼうするOPEC・非OPEC24か国の減産体制が行う減産と異なる文脈で、米国の原油在庫の減少、引いては世界の原油在庫の減少が少しずつ進んでいく可能性はあるのかもしれません。

この点については来週以降、毎週の統計で前週比減少が継続しているかどうかを(次回は7月6日(木))、7月11日(火)の短期見通しでは6月の生産量が5月比マイナスに転じたかどうか、および来年末までの同生産量の見通しにおいて生産が減少する方向に修正されたか、2010年ごろからブームとなり今では米国国内の原油生産量のおよそ60%を担うまでに成長したシェールオイル主要地区の原油生産量について、7月17日(月)の掘削稼働レポートで同生産量が前月比マイナスに転じたかどうかなど、複数の点から継続して確認を行っていきたいと思います。

その時、原油価格はいくらか?減産体制は機能しているか?という話はありますが、とりもなおさず米国の原油生産量に関する各種統計がそろって数ヶ月以上にわたり、減少傾向になった時、その時が、季節的、あるいは突発的な一過性の要因によるものではない、かつ減産体制の施策と別文脈で、同国の原油在庫の減少の始まり、ひいては本格的な世界の石油在庫の減少の始まり、ということになるのではないかと、今回の週間石油統計を見てぼんやりとですがイメージした次第です。

6月も最終日となり海外大手通信社などから減産体制の6月の原油生産の状況が報じられるタイミングに入りましたが(EIA、OPEC、IEAなどからの産油量の公表は7月9日の週)、引き続き米国の原油生産状況について考察していきたいと思います。