EU離脱問題で109円手前まで買われたドル/円

 先週17日(木)、ドル/円は109円手前まで買われました。英国がEU(欧州連合)との離脱草案合意との報道がきっかけでしたが、それ以上の力はなく、3日連続の陰線となりました。

 陰線とは、1日の始値が終値よりも円高の水準になることです。3日連続の陰線は通称「三羽がらす」と呼ばれ、天井圏で現れる売りサインを示しています。三羽がらすとなった背景は、これまで円安を引っ張ってきたEU離脱問題が、英国政府と議会との足並みがそろわないことから、不透明感がいまだ払拭できていないことや、米中貿易問題も部分合意したとはいえ、合意文書の署名までは警戒心が残っていることが背景にあるようです。しかし、売り圧力も続かず、1ドル=108円を割る力もありません。

ドル/円をかく乱する次の要因は?

 ドル/円は、このまま108円台でこう着状態になるのかといえば、そうでもなさそうです。10月末までに重要なイベントが控えていることから、まだまだ一波乱も二波乱もありそうです。

 10月31日のEU離脱期限を控え、この数週間で10円近くポンド/円が円安になったことを思うと、ドル/円のかく乱要因としては、ポンドやポンド/円の動きはかなり織り込まれたのではないかと思われます。

 また、米中通商協議については、11月16~17日にチリで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で、中国の習近平国家主席と会談するまで、米中の貿易合意が署名されることはおそらくないと、トランプ米大統領が語っていることから、それまでかく乱要因になるかもしれませんが、大きな方向付けとなる要因にはならないと思われます。

 従って、これらの政治イベントよりも10月最後の1週間に集中している金融政策や経済動向のイベントに焦点が移りそうです。下記がその重要イベントの日程です。

予測を上回る中国経済の減速が、世界経済に影響するおそれ

 先週18日に発表された中国の7~9月期GDPは前年比6.0%と2四半期連続で減速し、1992年以降の過去最低を更新しました。2018年1~3月期の6.8%のピークから減速が続き、1年半で0.8%の減速と、かなりの減速幅です。中国政府は2019年の目標を「6.0~6.5%」としていますが、その下限となっただけでなく、2020年のGDPを2010年比で倍増させる目標にも黄信号が灯りました。倍増達成には2019~2020年に平均6.2%前後の成長を必要としているからです。

 前回のコラムでお伝えしたIMF(国際通貨基金)の10月時点の経済見通しでは、中国の2019年GDPを6.1%、2020年を5.8%としていますが、今回の発表で2020年見通しの5.8%に近づく可能性が高まりました。中国経済の減速は、主要先進国だけでなく世界経済全体にも影響を及ぼすおそれがあります。IMF見通しでは、世界全体の2020年の成長率を下方修正して3.4%としていますが、2019年の見通し(3.0%)よりも上向くと予測しています。しかし、このまま中国経済の減速傾向が続くのであれば、2020年の見通しは再び下方修正される可能性が高まります。

 IMFはさらに、米中貿易戦争が悪化すれば中国のGDPを2%下押しするとの試算もしています。

「世界貿易はほとんど伸びがみられず、2019年の世界経済は90%近くの国・地域で成長が減速している」と警戒感をにじませ、トランプ米政権が2019年12月に制裁関税を中国からの輸入品ほぼ全てに広げた場合、2018年7月以降の関税引き上げの影響を合算すると、中国のGDPは2020年に2.0%下押しされると試算しています。米GDPも0.6%の下押しとなり、世界全体でも0.8%下振れするとまとめています。

 10月の米中通商協議の部分合意では、対中制裁関税「第1~3弾」の引き上げ(25%→30%)を見送ったものの、第4弾のうち、1,600億ドル分の15%関税上乗せについては、結論は持ち越しとなっています。つまり、IMFの試算では、この持ち越し議題が11月中旬の米中首脳会談までにまとまらなければGDPが2%下押しするということになります。中国のGDPは、6%台から4%台前半に大きく減速するということになります。世界経済は2%台前半に落ち込むことになります。

 仮に、持ち越し議題がまとまっても、過去に引き上げた制裁関税が撤廃されない限り、GDPの下押しへの影響は残ることになります。

欧米金融政策発表でドル、ユーロの動きに注視

 次回の日米欧の金融政策委員会では、この中国経済の減速と米中通商協議の不透明感をどのように判断するのでしょうか。

 10月に入って発表された9月分の米国経済指標は弱い数字が相次いでいます。月初のISM景況感指数は製造業も非製造業も悪化しました。さらに先週発表された16日(水)の小売売上高(前月比▲0.3%)、17日(木)の住宅着工件数(同▲9.4%)、建設許可件数(同▲2.7%)、鉱工業生産指数(同▲0.4%)もことごとく悪化し、米株やドルの頭を抑える方向で働いています。

 米国7~9月期GDP速報値は、FOMCの最終日30日の朝に発表されます。数字が悪化していれば、FOMCの決定に影響を与えるかもしれず、注視する必要があります。

 前回のFOMCやECB理事会では、内部の意見対立が目立ちましたが、今回、現在の状況を受けて、緩和の方向で意見が収束するのか、どのくらい反対派を抑え込めるのかが、注目点となります。

 特に内紛が目立つECBでは、今まで反旗を翻していた理事たちがドラギ総裁の最後の理事会であるため、今回は黙っておき、次回のラガルド氏まで我慢するのかどうか。

 また、前回のECBでは量的緩和再開について反対派がいたため、ユーロは反発しましたが、欧州でも経済環境が前回から変わっていれば、同じような動きにならないかもしれません。経済が悪化していれば、反対派の動きは金融政策が機能しないと捉えられ、ユーロの売り要因になる可能性もあります。