日本たばこ産業(JT)の予想配当利回りは6.9%
JT(2914)は、株主への利益配分に積極的な会社です。過去、増配や自社株買いを積極的に実施してきました。ところが、株式市場で、JTは不人気株です。国内で喫煙規制が強化される話が出るたびに売られ、株価は過去4年間下げ続けてきています。
JTの予想配当利回り推移:2018年1月4日~2019年8月28日
過去1年の株価を見ても、上のチャートのように下げ続けています。2019年12月期にも増配を予定しているが、それでも株価は下げ続けているので、予想配当利回りは上がり続けています。8月28日には6.9%に達しています【注】。
【注】予想配当利回りの計算方法
JTが開示している1株当たり年間配当金(会社予想)を、株価で割ることによって、予想配当利回りを計算する。8月28日の予想配当利回り6.9%は、2019年12月期の1株当たり配当金(会社予想)154円を、同日の株価2,230.5円で割ることによって計算。1株当たりの配当金が変わらない間は、株価が下がると利回りが上がる。株価が上がると利回りは下がる。
JTの1株当たり配当金、1株当たり利益、連結配当性向の推移:2015年12月期(実績)~2019年12月期(会社予想)
JTの連結純利益は、2015年12月期に4,856億円と過去最高益に達しましたが、その後は減少が続き、今期(2019年12月期)の会社予想では、3,600億円となります。ただし、JTは財務優良で潤沢なキャッシュフローを有するので、利益が減っている間も、増配を続けてきました。1株当たり利益の何%を配当金に回しているかを示す、配当性向は、2019年12月期には75.9%まで上昇する見込みです。
JTの投資魅力
JTは、営業利益率(2018年12月期・実績)25.5%の高収益企業です。国内の喫煙人口が減少していく中で衰退していくイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実態は、安定高収益です。自己資本比率48.2%と、財務内容も良好です。ROE(自己資本利益率)で見ても14.3%と効率的に利益を出せています。
JTは、株主優待も実施しています。JTの予想配当利回りは6.9%と魅力的な水準ですが、配当金のほかに、12月末時点で1年以上継続して保有している株主に対して、自社製品などを贈る優待も実施しています。JTの自社製品というと、たばこかと思うかもしれませんが、そうではありません。「ご飯の詰め合わせ、水の詰め合わせ」などから選ぶことができます。ただし、優待内容は、予告なく変更されることがあることを、ご了承ください。
JTの株主優待>>
JTが売られる3つの理由
JTは株式市場で不人気です。以下3つの悪材料が影響しています。
【1】国内で喫煙者減少が続いている
受動喫煙(他人の喫煙で出たタバコの煙を吸入してしまうこと)を防止するための法律が強化されつつあります。2018年7月に健康増進法の一部が改正されたことにより、2019年7月には学校・病院などの敷地内が原則禁煙となりました。全面施行となる2020年4月には、すべての建物の屋内が原則禁煙となります。喫煙が可能なのは、喫煙を主目的とする店舗(バー、スナック)や公衆喫煙所、屋内に設けた喫煙スペース(喫煙室)に限られます。なお、喫煙室には標識の掲示が義務付けられ、20歳未満は立ち入りが禁止されるようになります。
東京都は国の規制をさらに強化した「東京都受動喫煙防止条例」を制定しました(全面施行は2020年4月1日)。小規模の外食店で実質的にほとんど喫煙ができなくなる可能性もあります。こうした一連の規制強化を受けて、国内の喫煙人口はさらに減少が続く見込みです。
【2】次世代タバコでJTの「プルームテック」が米フィリップモリスの「アイコス」に劣後
米国や日本などで、紙巻きタバコに代わって次世代タバコ(加熱式タバコや電子タバコ)を吸う人が増えています。紙巻きタバコではタバコの葉を燃やしてその煙を吸うため、副流煙が周囲に広がる問題がありますが、次世代タバコは、火を使わないので副流煙が出ません。世界的に禁煙や分煙が進む中で、特に米国と日本では、次世代タバコに乗り換える人が増えています。
JTは次世代タバコで「プルームテック」を国内で販売していますが、日本ではフィリップモリスの「アイコス」の方が人気で、プルームテックはシェアを低下させつつあります。次世代タバコで苦戦していることが、JTの将来の不安材料となっています。
【3】ESG投資で投資除外銘柄となることがある
日本および海外の年金基金などに、ESG投資(環境・社会的責任・ガバナンスを重視して銘柄選択する)を導入する動きが広がっています。JTは、健康に害のあるタバコを販売しているという理由で、ESG投資では除外銘柄となることがあります。
JTの投資価値が高いと判断する理由
上に挙げた3つの不安材料に基づき、株価は売られてきましたが、私は、「売られ過ぎ」と判断しています。3つの不安材料【1】【2】【3】に対する、私の見解を以下に記載します。
【1】国内喫煙者が減少しても、値上げと海外M&Aで高収益を維持してきた
国内で喫煙者減少が続いてきましたが、JTは値上げによって高収益を維持してきました。ちなみに、10月に消費税が引き上げられますが(8%→10%)、これに対応して値上げをすることも発表済みです。
JTはM&A巧者です。有利な価格で、海外タバコ会社を買収し、海外の収益を拡大してきました。タバコ人口が増えている新興国が収益拡大に貢献しています。
【2】「プルームテック・プラス」などを発売し、次世代タバコで巻き返し
次世代タバコでJTの「プルームテック」が米フィリップモリスの「アイコス」に負けている理由は明らかです。「アイコス」の方が、吸い応えが強いからです。JTは、「プルームテック・プラス」「プルームテック・エス」の2製品を新たに出し、巻き返しを図っています。ともに、吸い応えを強めて「アイコス」に近づけています。
次世代タバコの国内シェアが下げ止まれば、JT株に対する投資家の不安は低下すると考えています。
【3】ESGファンドなどで投資しない分、タバコ株は世界的に「割安」になっていると判断
ESGファンドだけでなく、個人投資家でもタバコを吸わない人には「JTに投資したくない」人もいます。私もタバコを吸わないので、その気持ちが分からないでもありません。ただし、買い手が少ない分、株価が低迷し、結果的に株価が「割安」になっていると判断しています。
参考:JT株の過去10年の株価推移(2009年1月~2019年8月28日)
JTにかかわらず今、大型株で高配当株が増えています。三菱UFJ FG(8306)(予想配当利回り5.0%・8月28日時点)、三菱商事(8058)(同4.9%)、NTTドコモ(9437)(同4.5%)、ブリヂストン(5108)(同4.0%)などです。
こうした大型の高配当株は、投資の好機と判断しています。
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