良いETFとは?

 一般に良いETF(上場投資信託)とは、多くの投資家によって頻繁にトレードされ、出来高が多いETFを指します。

 なぜならば、頻繁にトレードされるETFほど、NAV(ファンド純資産)と株式市場でついているETFの価格との間の乖離(かいり)が小さくなり、結果として、その実体価値を正確に反映した値段で、投資家のイメージ通りに購入、ないしは売却できるからです。

 これと反対に、悪いETFは、取引がまばらで、ビッド(Bid)とアスク(Ask)の乖離が大きく、かならずしもNAVを正確に反映していないETF価格が、長く放置される傾向があります。その場合、投資家は気がつかないうちに実体価値より高い値段でそのETFを買わされ、逆に売却する際には不利な値段でしか処分できないことが起こります。

 たかが出来高くらいで、なぜ「良い」とか「悪い」とか、決めつけることができるのでしょうか? 

 これはETFという商品の基本設計にかかわる、根本的な問題です。逆に言えばETFの仕組みさえしっかり理解すれば、なぜETFの費用比率がものすごく低いのか? とか、どういう視点でETFを選ばなければいけないか? といったことが全て分かってしまうのです。

ETFの仕組み

 ETFはニューヨーク証券取引所などに上場され、あたかもアップル株やコカコーラ株と同じ感覚で、手軽にトレードできる投資信託です。

 普通、ETFは特定の株価指数をなぞるように設計されています。
例えばナスダック100指数をベンチマークとしたパワーシェアーズQQQ信託シリーズ1(ティッカーシンボル:QQQ)がその例です。これはナスダックの大型株ばかり100銘柄で構成される指数であるナスダック100指数をトレースすることを目指しています。

仕組み1:設定(クリエイション)

 実際に新しいETFが設定(クリエイション)される過程を説明します。

 いまQQQがベンチマークとしているナスダック100指数より、仮に1%プレミアムで取引されていたとします。

 すると証券会社(=彼らのことをAP、すなわちAuthorized Participantと呼びます)は、ナスダック100指数を構成するアップル、マイクロソフト、グーグル、インテルなどの100銘柄を同株数、瞬時に市場から買い集めます。そして、その1式のポートフォリオをQQQの指定する信託銀行に持ち込むわけです。

 QQQを運営している投信会社は「インベスコ」という会社ですが、インベスコはその1セットの株を受領するのと引き換えに、等価のETFを設定するわけです。これがクリエイション(=創造の意)と呼ばれるプロセスです。

 証券会社は受領したETFを市場で売ることにより、安値で買い集めた現物のバスケットと、1%のプレミアムで取引されていたETFとの間の1%のサヤを抜いたことになるわけです。このようなサヤ抜きのトレードのことを、アービトラージと言います。

 この100銘柄1セットのポートフォリオとETFとの交換作業のことを「インカインド・トレード(in-kind trade)」と言います。In-kindとは「現物」とか「物々交換」の意味です。

 これは現金のやりとりを介さないバーター取引であることから、米国の税法上は課税対象ではありません。もっと言えば、キャピタルゲインは発生しないのです。

仕組み2:交換(リデンプション)

 今度は、前ページの「設定」と逆の例を見てみましょう。

 いまQQQがそのベンチマークであるナスダック100指数より、仮に1%ディスカウントで取引されていたとします。

 すると証券会社は、ナスダック100指数を構成するアップル、マイクロソフト、グーグル、インテルなどの100銘柄を同株数、瞬時に市場で空売りします。それと同時に割安で取引されているQQQを買うわけです。

 そして、買ったQQQを信託銀行に持ち込み、「現物株1式と交換してください」とリクエストするのです。

 インベスコはそのQQQを受け取った代わりに100銘柄からなる現物株のポートフォリオを証券会社に渡します。

 証券会社は、そうやって仕入れた現物株を、空売りしたアップル、その他の株の受け渡しに使用するわけです。

 インベスコがこうして交換に応じた後のQQQは、ちょうど企業の自社株の買い戻しのような感じで、事実上、消滅したことになるのです。

 このように株式市場におけるETFの人気、ないしは実需に応じて、それにピッタリ見合うだけのETFが設定されたり交換されることで、プレミアム/ディスカウントが生じることを防いでいるのです。

仕組み3:コストの外部化

 さて、前ページの説明をよく考えてみると、市場で現物株をサッと買い集め、逆に空売りしているのは、あくまでもアービトラージのチャンスを狙っている証券会社であり、ETFの運用会社ではない点に気づきます。

 ETFの運用会社は、単に物々交換で1セットのポートフォリオを構成する株式の持ち込みに対して、ETFを設定しているだけなのです。言い換えれば、運用会社の側で発生する費用はゼロに近いのです。

 このように、個人投資家から預かった資金を使い、投資信託会社自らが株の発注をしてポートフォリオを構築する通常の投資信託とは、かなり事情が異なります。ETFの場合、買い注文に伴って発生する株式売買手数料は、投資家から預かった運用資産の中から捻出されるのです。

 ETFでは、そのような煩雑な作業を、サヤ抜きを行うAPたちに全部負担させているわけです。これはコストの外部化であると言えます。ETFの費用比率が、信じられないほど低い原因の一つは、ここにあります。

 さて、個人投資家が投資信託を買うと、その投信の持ち主は受益者と呼ばれます。投信会社は、誰が受益者であるかを常に把握していて、年2回、運用報告書を受益者に郵送します。

 これに対してETFの場合、株式と同じ扱いになりますので、誰が何株保有しているか? という記録は、それらの株を混蔵保管している証券会社が把握すべき事柄となります。

 言い換えれば、ETFの運用会社は受益者を常時把握するという事務作業から解放されるというわけです。受益者に対する諸々の報告作業がないということは、運用会社のコストの低減につながります。このことは、事務作業の面でもコストの外部化が実現しているということです。

乖離の解消やコストの外部化が機能するためには…

 さて、アービトラージによるNAVとETF価格との乖離(かいり)の解消やコストの外部化がきちんと機能するためには、ETFが絶え間なく活発に取引されることが必要になります。なぜなら、上で説明したようにETFは外部者にそれらを全面的に依存しているからです。

 もし、あるETFの取引が不活発で、証券会社がアービトラージに興味を持たなければ、NAVとETFの取引価格差は、広がったままで放置されてしまいます。

 規模の小さいETF、人気のないETF、出来高が貧弱なETFでは、このようなことが常態化します。

 すると、(ETFなのだから、コストは安いはずだ)と思って買ったETFが乖離という、とんでもない「見えないコスト」をはらんでいたということになりかねないのです。

 私が「良いETFとは多くの投資家によって頻繁にトレードされ、出来高が多いETFを指す」と主張するのは、このような理由によります。

ETFの比較の仕方

 では、同じようなベンチマークを対象としたETFが二つ存在したとして、どちらを買えば良いのでしょうか?

 私自身が励行していることは「より出来高の多いETFを選ぶ」ということです。なぜなら、出来高が多いETFほど活発にアービトラージも行われ、その結果、乖離も少ないからです。

 ここで気をつけなければいけないことは、種類の違うETF同士は、出来高だけで比較できないということです。

 一例としてS&P500指数をトレースするETFは、S&P500指数そのものが活発に取引されている関係で、どれも出来高は多いです。しかし、これが例えばベトナムのETFになると、そもそもベトナム市場というものがマイナーな存在なので、ETFの出来高も小さくならざるを得ないというわけです。

 新興国のETFの場合、現地市場で現物株を取引きするコストは、ニューヨーク市場などよりかなり割高です。取引コストが高いと、証券会社がアービトラージするときの「そろばん」も、かなり変わってきます。言い換えれば、よっぽど乖離が大きくなければ、わざわざアービトラージを試みても取引コストの方が高くなり、足が出てしまうということもあるのです。

 結論として、マイナーな市場の株価指数をベンチマークとしたニッチ的なETF商品の場合、ある程度の乖離が出るのは我慢せざるを得ないということです。

第3章「これがベストセラーだ」はこちら