東洋経済新報社が発行する『会社四季報』。日本に上場しているすべての会社の基本情報、株価、さらには記者の業績予想まで掲載しているため株式投資の“銘柄選びのバイブル”とも言われています。上場しているすべての会社の情報が一冊にまとまっている雑誌は、世界でも唯一とされ、さらに四半期ごとに発行されるなんともまあ有難い情報源。
 今回は、岡本享編集長が登場! 直々に銘柄選びのヒントを教えてもらいました。

株式会社東洋経済新報社編集局 会社四季報センター『会社四季報』岡本享編集長

会社四季報編集長の岡本氏

一橋大学社会学部卒。

1991年東洋経済新報社入社。
1993年第一編集局週刊東洋経済編集部所属。

その後『会社四季報プロ500』編集長を経て、「決定版 最強の会計力」編集長等を歴任。2017年10月から現職。

“業種別業績展望”でマーケット全体の傾向を見る

――初心者が銘柄選びをする際のポイントを教えてください。

 最初に言えることは、「いきなり個別銘柄へ飛びつかない」です(笑)。この本、さっき重さを量ったら、990グラムありました。
 よく「時刻表」とか「枕」と言われます。文字通り「重いデータ」なので、全体像から入って行くのがオススメです。

参考:四季報データ

出所:楽天証券
ログインのやり方:国内株式→銘柄検索→四季報

初めにチェックしてほしいのは、「今期どんな業界が伸びるか(成長性)」

――全体像を知るには、どのようにデータを見ればよいでしょうか。

 雑誌の『会社四季報』では巻頭「夏号のポイント」に、市場別に業績の実績と予想をまとめています。3,332社の売上高は、今期平均2.3%増収で、2.9%の営業増益と分かります。この平均を基準にすれば売り上げや営業利益の伸び率が大きい程、成長性が平均より高い」と分かります。続いて、具体的にどんな指標に注目すべきか見てみましょう。

最も注目すべきは“稼ぐ力”

――注目の“具体的な指標”を教えてください。

 ぜひチェックしてほしいのが、企業の“稼ぐ力”。「売上高営業利益率」で、具体的には、“稼ぐ力”=営業利益÷売上高 で求めます。全産業の“稼ぐ力”は、今期は平均6.42%。これより“稼ぐ力”が高い企業が「有望銘柄」と言えるでしょう。

 例として、世界首位の精密小型モーターメーカーの日本電産(6594)を挙げます。

 2020年3月期は営業利益180,000(百万円)÷売上高1,700,000(百万円)=11%と、“稼ぐ力”は平均を大きく上回っています。

――投資してみたいな、と思う企業のチェック方法がさらにありますか?

 ありますよ。企業の “稼ぐ力”が良さそうに見えても、ここで立ち止まって、その会社の「今後伸びそうな事業の“稼ぐ力”はどうか?」とさらに確認を進めましょう。

「連結事業」欄の「精密小型モータ」の後ろの(12)は、この事業の「売上高営業利益率」が約12%と、平均の倍近い“稼ぐ力”を持っていることを示しています。

――さすが、主力事業ですね!

 注目すべきは、次の「車載(11)」です。これは、「特色」欄に書かれているように、今後日本電産は自動運転が拡大する自動車の車載モータへ注力する予定ですが、既に車載モータ事業の“稼ぐ力”は11%もある、と分かります。将来に期待できそうですね。事業欄のカッコ内だけをチェックするだけでも、今後の“稼ぐ力”の行方を見通せることになります。

編集長直伝! その1:最初に見るべき「四季報4つの重要ポイント」

――もっと簡単に、これさえ見れば!のポイントはありますか?

 

『四季報』をチェックする際の最重要ポイントは、【特色】【連結事業】【海外比率】【本文記事】の4つです。各項目を見てみましょう。

【特色】に「世界首位」、「シェア○%」、「独自技術」などあると、有望と推測できます。

【連結事業】では「事業構成」をチェックしてください。カッコ内の「売上高営業利益率」は、平均と比較するのがポイントです。

【海外比率】は、これから世界で化ける株かどうか、が分かる指標です。国内から、海外に市場を広げる「グローバル企業誕生のタイミング」は、海外比率が50%を超える時です。一気にグローバル化が進むと、売り上げが急拡大することがあります。
 例えば、調味料の味の素やキッコーマンは、国内市場株と思われていますが、アジアを中心にジワジワ人気が上がって、マーケットが拡大しているようです。

【本文記事】で、会社の経営姿勢の変化に触れている際は是非、注目してください。(例:「守りから攻めに転換」など)。株価が大きく動くのは、“変化”する時です。

編集長直伝の裏技! その2:同業比較を見える化せよ!

――四季報を知り尽くしている編集長。ぜひ「ウラワザ」を教えてください。​

 ある業界にしよう…と決めても、どの会社にすればよいかと迷うはず。そこで、同業他社と比較する際には、データの“見える化”をしてみてください。例の日本電産では、比較会社の欄に三菱電機とマブチモーターを挙げています。3社それぞれの、時価総額、総資産、売上高、営業利益をグラフ化することをオススメします。

 グラフで“見える化”すると、日本電産は時価総額が大きく、投資家人気が高いのだと分かります。一方で、マブチモーターは規模が桁違いに小さく、三菱電機は売上高に対して時価総額が控えめだな、と分析できるわけです。

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株主にどれだけ利益をもたらしたか、という新しい指標の「TSR(株主総利回り)」や、四季報名物、【見出し】について。さらに株価10倍になる“テンバガーが見つかるかも”という「TSR」の使い方を大公開です。