じりじり進む「円高」は、どこまで?

 日経平均株価は、為替に神経質に反応して動きます。「円高なら株安」「円安なら株高」の反応が定着しています。最近、やや円高が進みつつあることが気がかりですが、はっきり円高トレンドが出ているわけではありません。日経平均も為替も、ボラティリティ(変動性)がやや低下し、小動きとなっています。

ドル/円為替レートの動き:2018年12月3日~2019年5月27日

出所:楽天経済研究所が作成

 気になるのは、今年の1月3日に一時ドルが大暴落、あれよあれよという間に1ドル=104.01円をつけたことです。その直後に、ドルは急反発し、108円台をつけました。一瞬の急落だったので、ドルの「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれています。このようなドルの急落は、また起こるのでしょうか?

 フラッシュ・クラッシュは、特殊な環境で起こりました。2019年の1月3日、まだ東京市場が正月休みで流動性が少ない中で、ボラティリティ(変動性)の上昇に対応した機械的なドル売りが集中したことで起こったものです。正月休みでなければ、1ドル=107円台までの下落で済んでいたと思います。

 フラッシュ・クラッシュでドルは底値をつけ、その後、世界的に株が反発する中で、反発(ドル高・円安)が続きました。ところが、5月に入って、米中貿易戦争がエスカレートする不安が高まり、世界的に株が下落すると、再び、円高がじりじり進んでいます。

ドル/円のフェアバリューは1ドル=110円と考えるが、為替は短期的に理論値を無視

 私は、ドル/円のフェアバリュー(日米金利差・購買力平価から計算される理論値)は、現在、「1ドル=110円」と考えています。ということは今、ドル/円はほぼフェアバリューにあることになります。ただし、それは実は珍しいことです。為替は、短期は材料や需給で動きます。そのため、実際のレートは、フェアバリューを無視して5円、10円離れて動くのが、普通です。極端な場合は、フェアバリューから20円以上離れることもあります。

 私はドル/円の理論値が1ドル=110円と考えていますが、短期的なショック安で1ドル=100円を割れることもないとは言えないわけです。ボラティリティの変化に応じて機械的に動くマネーが増加しているので、今後、政治経済でとんでもないネガティブ・サプライズが飛び出したときパニック売りが集中すれば、1月3日のようなドルの急落が起こることもあり得ます。

 したがって、短期的な為替レートを予測するのはほとんど不可能と考えています。私が言えることは、私の理論値計算では、今は1ドル=110円がフェアバリューだということだけです。もし、短期的なショックで、理論値を無視して円高・株安が進むことがあれば、そこは、長期的にドル・日本株を買う好機になると思います。

理論値計算の前提は、米インフレ2%、2年金利2%、日米金利差2%

 ドル/円フェアバリューの計算方法について、詳しく解説すると長くなり過ぎるので、今日は結論だけお話します。

 ドル/円を動かすもっとも重要なファクターは日米金利差です。なぜならば、現在、ドル/円を動かす最大の要因が資本収支だからです。その資本収支にもっとも大きな影響を及ぼすのが日米金利差です。

 ドル/円のフェアバリューを決める、もう1つの重要ファクターが、購買力平価(企業物価ベース)です。購買力平価から20%以上かけ離れた円安が進むと、政治圧力から円高が進みやすくなります。

 日米金利差が2%に収束することを前提とし、購買力平価をあわせて計算すると、今のドル/円フェアバリューは、1ドル=110円となります。

 私は、米コアインフレ(消費者物価コア指数の前年比上昇率)、2年金利(米2年国債利回り)は、長期的に2%に向けて収束しつつあると考えています。日本のインフレ率、長期金利ともゼロが続くと考えていますので、日米2年金利差は、2%に向けて収束する過程にあると考えています。

 それを前提に、ドル/円のフェアバリューは110円と計算しています。なお、今後、私の計算で、理論値が大きく動くときは、本レポートで報告します。

米国のコアインフレ率と平均賃金上昇率の推移:2011年1月~2019年4月

出所:米労働省より楽天証券経済研究所が作成

ドル/円為替レートと、日米2年金利差の動き:2008年1月~2019年5月(27日)

出所:楽天経済研究所が作成

 繰り返しになりますが、実際の為替レートは理論値を無視して動くものです。短期的に異常値(1ドル=100円割れ)があれば、積極的にドルを買う好機になると思います。また、逆の異常値(1ドル=120円を超える円安)があれば、ドルを売っていったほうが良いと考えます。

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