2019年の10月に消費税率が現行の8%から10%に引き上げられる予定です。消費税増税に伴い、政府は軽減税率と中小規模店舗におけるキャッシュレス決済時のポイント還元策を実施する見通しです。また、増税により買い控えが起きないよう、小売大手などが独自のキャッシュレス決済ポイントを付与する可能性もあります。

 10月以降、買い物をする際はこの3点(軽減税率・中小店舗でのキャッシュレス決済時のポイント還元策・企業独自のキャッシュレス決済ポイント)が、消費者の負担を緩和できるかのポイントになります。

 

消費者として押さえるポイントは3つ

 消費税増税後、消費者として賢く買い物をするポイントとなるのが、

  1. 軽減税率の活用
  2. 中小店舗でキャッシュレス決済をした場合のポイント還元の活用
  3. 大企業独自のキャッシュレス決済時ポイント還元の活用

 です。

 1の軽減税率について、生鮮食品など調理用食材の他、家に帰って食べる惣菜や宅配食品の税率は8%に据え置かれる見通しです。

 2のポイント還元については、政府は、中小規模の小売店舗でキャッシュレス決済した場合は5%ポイント還元、コンビニや外食などのフランチャイズ店でキャッシュレス決済をした場合は2%ポイントの還元を実施する予定です。コンビニや外食のフランチャイズ店は個人経営が多いため、個人経営者をサポートすべく、政府の支援の対象になったと考えられます。

 3については、足元で、政府の支援対象から外れている大企業の直営店でも、自社負担によってフランチャイズ店舗並みの2%ポイント還元を実施する流れが出てきています。現時点では大手コンビニエンスストア3社の他、吉野家HD(9861)の主力業態「吉野家」がその方針を取っています。今後も外食企業を中心にこの流れが広がる可能性があります。

 どこで買い物をするかという視点からスタートして、図にまとめたものが以下です。

軽減税率とキャッシュレス決済ポイントまとめ

ケース1:小売大手などの店舗で買い物する場合

 

ケース2:コンビニや外食など、個人が経営しているフランチャイズ店で買い物する場合

ケース3:中小小売店で買い物する場合

注:2019年4月23日現在の情報であり、政府や企業の戦略によっては内容が変わる場合がある
出所:各種資料より楽天証券作成

上場小売企業、消費税増税の今期計画に対する影響は限定的か

 2月決算の主要小売企業が既存店売上高をプラス成長で計画していること、そして政府の消費税増税対策支援額の大きさを考慮すると、今回の増税の影響は限定的とみられます。

2月期決算主要小売企業の既存店売上高(前期比)

コード 銘柄名 2019年2月期実績 2020年2月期計画
コンビニエンスストア
3382 セブン&アイ・HD 101.3% 101.5%
8028 ユニー・ファミマHD 100.4% 100.6%
2651 ローソン 99.5% 100.5%
百貨店
3086 J.フロントリテイリング 101.6% 101.9%
外食
9861 吉野家HD 100.8% 100.4%
7611 ハイデイ日高 100.7%
専門店
9843 ニトリ 102.7% 102.3%
7453 良品計画 104.1% 104.1%
食品スーパー
9974 ベルク 102.7% 100.9%
(※)ハイデイ日高:前年と同額を基本とし各店の状況を考慮した金額を基に算出
J.フロントリテイリング:「大丸松坂屋百貨店」基準
吉野家HD:「吉野家」基準
ニトリ:「ニトリ」+「デコホーム」+「通販」基準
出所:会社資料より楽天証券作成

 小売企業の2月期決算では、各企業がどのように消費税増税の影響を織り込むか注目されましたが、既存店増収率が伸びると計画する企業が目立ちました。企業側のコメントも、ニトリ(9843)は「警戒しているがチャンスでもある」と発言、J.フロントリテイリング(3086)も「富裕層の需要に期待」している姿勢を示すなど、見通しは必ずしも悲観的なものではありませんでした。

 会社のトップラインを弱気に示せないという理由も考えられますが、今回の消費税増税については、小売企業の2020年2月期売上高への影響が緩和されるポイントが3つあります。

  1. 軽減税率やポイント還元を含む、増税に対する政府の巨額予算確保済み
  2. 2020年2月期は改元や10連休など消費活性化につながるイベントがある
  3. 2019年2月期の天候不順・災害の影響が一巡

 このうち1について、先述の通り、酒類・外食を除く飲食料品が、軽減税率の対象となる見通しです。生活と関連の深い飲食料品の税率が8%で据え置かれることにより、消費者心理の悪化が緩和される他、飲食料品の増税前の極端な買い溜めや、その後の深刻な落ち込みも軽減できるでしょう。

 政府支援策は以下の通りです。2019年3月に、想定される消費税増税の負担額と同程度の対策額が、2019年度の予算として成立しています。軽減税率以外にも、幼児教育無償化やキャッシュレス決済のポイント還元などが予定されています。幼児教育などは一部の人にしか恩恵がありませんが、ポイント還元については家族構成などに関係なく多くの人が恩恵を受けると考えられます。

2019年度予算、消費税増税の影響想定額とその対応策

出所:財務省「平成31年度予算のポイント」および各種報道より楽天証券作成

軽減税率の恩恵を受ける関連銘柄は、食品スーパー、宅配、コンビニエンスストアなど

 軽減税率の対象は持ち帰りの食品や宅配となる見通しのため、食品スーパー、宅配、食品製造、コンビニエンスストアはその恩恵を受けると考えられます。関連銘柄は以下になります。

 食品スーパーについては、相対的に消費環境が有利な地域を基盤にしているヤオコー(8279)ベルク(9974)に注目しています。食品スーパーは競争が激しく、人件費の高騰にも直面していますが、この2社は付加価値商品の販売など、既存店を活性化させる施策を展開しています。

 宅配関連としては、共働き世帯をターゲットにしたミールキットなどを展開するオイシックス・ラ・大地(3182)の他、もともと持ち帰りニーズが高い日本マクドナルドHD(2702)も当てはまると考えられます。日本マクドナルドは既存店売上高が堅調に推移しており、過去最高の営業利益が視野に入る状況です(詳細は「日本マクドナルド、過去最高の営業利益が視野に。「未来型店舗」で何が変わる?」

 コンビニ大手3社は、店舗数の飽和感や人手不足の問題に直面している状況ですが、いち早く直営店もキャッシュレス決済ポイントの還元対象にするなど、顧客の獲得に積極的に取り組んでいます。

 キャッシュレス決済自体の取り組みも2019年中に進むとみられ、7月に、セブン&アイ・HD(3382)からは「7pay」、ユニー・ファミリーマートHD(8028)からは「FamiPay」という独自キャッシュレス決済サービスがスタートする予定、ローソン(2651)もポイント還元率を意識した新しいクレジットカードを発行する見通しです。