毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄

東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)

1.調整局面が続く半導体デバイス市場

 今回の特集は、半導体製造装置セクターです。半導体デバイス市場と半導体製造装置市場の最近の動きを概観し、各銘柄の業績動向を再検討します。2019年3月1日付け楽天証券投資WEEKLY「特集:半導体製造装置(半導体設備投資の回復シナリオ)」のフォローアップでもあります。

 まず、半導体デバイス市場の動きから。世界半導体出荷金額は、2018年4-6月期はおおむね前年比20%前後の伸び率でしたが、2018年7-9月期になると前年比10%台に伸び率が低下し、2018年12月単月は前年比7.7%減とマイナス成長に転じました。その後は、2019年1月前年比13.1%減、2月同11.4%減と二桁減が続いています(表1)。

 地域別に見ると、南北アメリカが昨年12月から前年比20%前後の減少率となっていますが、これはアメリカのデータセンター向け半導体需要(主にメモリ需要)の減少が響いているものと思われます。また、最大需要地である中国を含むアジア・太平洋も昨年12月から減少しています。

 メモリ需要を見ると、インテルのCPU不足に伴うパソコン不足とDRAM需要の減少が続いており、NAND型フラッシュメモリはスマートフォン向けが伸び悩んでいます。また、データセンター投資が2018年後半から一服していることも、DRAM、NANDの需要減少につながっています。この状況は少なくとも2019年前半まで続く可能性があります。

 2018年前半までの半導体ブーム、特にDRAMとNANDのブームの規模が大きかったため、反動も大きいものになっています。世界半導体出荷金額の単月ベースの過去最大出荷額は2018年9月の448億4,100万ドルですが、直近最低出荷額の2019年1月312億800万ドルまで30.4%減少しました。リーマンショックの時は2008年9月にピークをつけて2009年1月に底打ちするまで50.4%減少しているため、リーマンショック時ほどではありませんが、かなり大きな減少になっています。メモリ需要の減少だけでなく、NAND、DRAM市況の下落が大きく影響していると思われます。

表1 世界半導体出荷金額(単月)

単位:100万ドル、%
出所:WSTSより楽天証券作成

グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)

単位:1,000ドル
注:2015年3月から「アジア太平洋・その他」から「中国」を分離
出所:SIA(米国半導体工業会)より楽天証券作成

 

2.インテルが7月からCPUの供給を増やすもよう

 一方で、メモリとロジック半導体の需要と出荷が増える要因も出てきました。

 今回のメモリ需要減少のうち、DRAM需要減少の要因の一つになったのは、世界最大のCPUメーカーであるインテルです。インテルが2018年初頭から半ばにかけて最先端の10ナノラインの構築に失敗したために、従来の14ナノラインのみで増加するCPU需要に対応しなければならなくなり、その結果CPU不足が起きたことが、DRAM需要減少の大きな要因になっています(CPU不足→パソコン不足→パソコンに必ず搭載されるDRAMの需要が不足)。

 そのインテルは、2019年の年明けから14ナノラインの増強に着手しており、10ナノラインにも再度チャレンジしています。これらの設備投資が成功すれば、CPUの供給が増えることになります。ちなみに、インテルが日本の半導体商社に対して通告していることによれば、今年7月からCPUの供給が増えるもようです(CeleronからCore i9まで全クラスの供給が増える可能性がある。現状は全クラスのCPUが足りない)。また、10ナノラインの構築に成功すれば、2019年クリスマス商戦に向けてCPUの供給が一層増えると予想されます。

 CPUの供給増加は、パソコン供給増加→DRAM需要増加に結び付きます。特に現状は、低価格PCが不足しているだけでなく、ゲーミングPC、画像編集用PC、ディープラーニング用PCなど特定用途向けの高級PCも不足しています。これらの高級PCはDRAM搭載容量が大きく、パフォーマンスを上げるためにHDDの代わりにSSD(NANDを組み合わせた記録媒体)を搭載しているケースもあるため、これら高級PCの供給増加はDRAM、NANDの需要増加に結び付きやすくなっています。

 

3.NAND、DRAM市況は下落が続いているが、需要喚起の期待も

 NAND型フラッシュメモリとDRAMの市況は足元でも下がり続けています。当面は下落基調が続くと予想されます。

 ただし、この市況下落は、NANDの場合はデータセンターとパソコンにおけるHDDからSSDへの転換(現状ではデータセンターの記録容量の約90%がHDDと言われる)、DRAMの場合はデータセンターのサーバー投資再開のきっかけになる可能性があります。半導体は需要の価格弾力性が高いため、価格低下による需要喚起の効果がタイムラグを伴って発生する可能性があります。

グラフ2 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ3 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、それ以降はDDR4)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

4.2019年の半導体設備投資はロジック向けが増加、メモリ向けは大幅減少へ

 前述したように、今年7月からインテルがCPUの供給を増やせるのであれば、インテルの14ナノライン増強は実現していると言うことになります。次いで10ナノライン構築に成功すれば、今年のインテルの設備投資は昨年に比べて増加すると思われます。

 また、台湾のTSMC(世界最大の半導体受託製造業者)は、5ナノ半導体のパイロットプラントを着工したもようです。本プラントの着工は2019年後半とも言われています。

 そのため、2019年暦年のロジック半導体向け設備投資は2018年比で増加すると予想されます。

 一方で、NAND、DRAM市況の下落によって、メモリ最大手の韓国サムスン電子の業績が悪化しています。サムスンの2019年1-3月期全社営業利益(速報値)は、前年比60%減の6兆2,000億ウォン(約6,200億円)となりました。このため、NAND、DRAM向け設備投資は2018年に比べて大幅に減少すると予想されます。ただし、NAND、DRAM市況は設備投資の先行指標なので、このことは既に予想されており、株式市場では織り込み済みと思われます。

 2020年を展望すると、ゲーミングPCなどの高級パソコンの需要が持続的に増えていること、TSMCが2020年秋発売予定の新型iPhoneに搭載するために5ナノ半導体(5ナノCPU)を量産する計画であること、新分野であるAI(人工知能)半導体の需要が急速に増える可能性があることなどが重要なポイントとなります。そのため、2020年もロジック半導体向け設備投資は増えると予想されます。

 また2020年は、パソコン供給の増加、スマートフォンの記録媒体の容量拡大、5G(第5世代移動通信)本格化によるデータセンター投資の再開、増加によって、DRAM、NANDの需要が増え、メモリ向け設備投資も増加に転じると予想されます。

 そのため、半導体設備投資全体では、2019年は2018年水準を下回るものの、2020年は増加に転じると予想されます。

 ちなみに、半導体製造装置販売高の動きを見ると、日本製半導体製造装置販売高は2019年2月から前年割れしており、2月は前年比11.6%減となりました。北米製は既に2018年11月からマイナス成長に入っており、2月は前年比22.9%減となっています。このため、世界の半導体製造装置市場は既に前年比15~20%程度のマイナス成長に入っていると思われます。今後は今年夏~秋まで前年比20%前後のマイナス成長が続き、その後緩やかにマイナス幅が縮小しプラス転換へ向かう可能性があります。

表2 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)

単位:日本製は百万円、北米製は百万ドル、%
出所:日本半導体製造装置協会、SEMIより楽天証券作成

 

5.銘柄コメント

 メモリ市況の下落が続いているため、株式市場では2019年のメモリ向け設備投資が2018年比で大幅に減るであろうことは、既に織り込まれていると思われます。一方で、インテルのCPU増産、TSMCの5ナノパイロットプラント着工によって2019年のロジック半導体向け設備投資が増加するであろうことが、株式市場に織り込まれつつあると思われます。

 次の焦点は、2020年に半導体設備投資全体が回復に転じた時に、半導体製造装置各社の業績がどのように変化するかです。半導体製造装置各社の業績トレンドが下向きになっているにもかかわらず、各社の株価が上昇していることを見ると、株式市場は2020年3月期の業績悪化は既に織り込み、その先の業績変化を株価に織り込み始めている可能性があります。

 今回は、東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコの4社について、2020年3月期見通しを見直すとともに、2021年3月期を新たに予想しました(レーザーテックは2020年6月期、2021年6月期)。より精度の高い業績予想は、4月下旬から始まる2019年3月期決算発表と会社側の2020年3月期見通しを精査してからになります。今回の予想は大雑把にトレンドを探ったものです。

 なお、主要半導体製造装置メーカーの決算発表予定は次のとおりです。

2019年4月25日(木) アドバンテスト
    4月26日(金) 東京エレクトロン、レーザーテック
    5月  8日(水) SCREENホールディングス、ディスコ

 

東京エレクトロン

 今回の楽天証券業績予想では、足元の日本製半導体製造装置販売高のトレンドから2020年3月期の東京エレクトロンの売上高と営業利益を予想しました。2020年3月期1Q(2019年4-6月期)、同2Qは売上高が前年比20%以上の減少、営業利益は同30~40%の減少になると予想しましたが、3Qは売上高、営業利益ともに前年並み、4Qは前年を上回る水準に回復すると予想しました。その結果、2020年3月期業績は前回予想を下回る売上高1兆1,600億円(前年比9.4%減)、営業利益2,550億円(同17.5%減)と予想しました。

 また、2021年3月期は売上高1兆3,000億円(前年比12.1%増)、営業利益3,100億円(同21.6%増)に回復すると予想しました。

 この業績予想を元に、2021年3月期の楽天証券予想EPS1,451.7円に想定PER15倍を当てはめ、今後6~12カ月間の目標株価を22,000円としました。前回の20,000円から引き上げます。

 2019年3月期決算発表によって足元の業績の悪さと2020年3月期上期の業績悪化傾向が明らかになれば、株価が一旦下落する可能性がありますが、そこは中長期での買い場と思われます。中長期の投資妙味を感じます。

表3 東京エレクトロンの業績

株価 17,460円(2019/4/11)
発行済み株数 163,947千株
時価総額 2,862,515百万円(2019/4/11)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益

アドバンテスト

 会社側では2020年3月期は、メモリ・テスタだけでなくSoCテスタ(非メモリ・テスタ、ロジック半導体など向けテスタ)の需要も減少するとしています。しかし、半導体業界全体でロジック半導体向け設備投資が増加すると予想されるため、楽天証券ではアドバンテストの2020年3月期のSoCテスタ需要は高水準横ばいと予想します。

 ちなみに、スマートフォンのCPUにAI(人工知能)が組み込まれることが多くなっていますが、これはテストの複雑化、テスト時間の長時間化を引き起こしており、SoCテスタの増加要因になっています。

 また、2021年3月期はメモリ・テスタ、SoCテスタともに需要が増加すると予想されます。

 この予想に従って、楽天証券ではアドバンテストの業績を、2020年3月期は売上高2,630億円(前年比5.4%減)、営業利益560億円(同11.1%減)、2021年3月期は売上高2,950億円(同12.2%増)、営業利益700億円(同25.0%増)と予想します(2020年3月期楽天証券予想は前回予想と同じ)。

 2021年3月期楽天証券予想EPS311.6円に想定PER13倍を当てはめ、今後6~12カ月間の目標株価を4,000円とします。前回の3,300円から引き上げます。中長期の投資妙味を感じます。

表4 アドバンテストの業績

株価 3,065円(2019/4/11)
発行済み株数 193,847千株
時価総額 594,141百万円(2019/4/11)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益

表5 アドバンテストの事業別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成

 

レーザーテック

 2019年6月期2Q(2018年10-12月期)の受注高は206億3,600万円となり、前年同期の70億1,500万円、2019年6月期1Qの56億3,100万円に比べて急増しています。会社側が中身を未公表にしている新規事業約160億円が含まれる2018年6月期1Qの211億100万円に匹敵する大きな受注高になりました。

 この中身の多くが世界シェア約60%のマスク欠陥検査装置で、最新鋭のEUV(極端紫外線露光装置)向けマスクブランクス欠陥検査装置も入っています。いずれも主にロジック半導体の製造ラインで使われるものであり、ロジック半導体の設備投資が活発になっていることを裏付ける受注内容です。

 2020年6月期の楽天証券業績予想は、前回と同じ売上高350億円(前年比25.0%増)、営業利益90億円(同38.5%増)です。2021年6月期楽天証券業績予想は、売上高440億円(同25.7%増)、営業利益130億円(同44.4%増)です。2020年6月期、2021年6月期の業績予想には、ロジック半導体向け設備投資の増加によるマスク欠陥検査装置、マスクブランクス欠陥検査装置の需要増加に加え、2020年6月期から数期間にわたって計上される予定の総額約160億円の新規事業を考慮しています。

 2021年6月期楽天証券予想EPS217.3円に成長性を考慮した想定PER30倍を当てはめ、今後6~12カ月の目標株価を6,500円とします。前回の5,200円から引き上げます。中長期の投資妙味を感じます。

表6 レーザーテックの業績

株価 5,050円(2019/4/11)
発行済み株数 45,089千株
時価総額 227,699百万円(2019/4/11)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの

グラフ4 レーザーテックの全社受注高

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

 

ディスコ

 ディスコの魅力はダイサ(回路を書き込んだシリコンウェハをチップに切り出す)、グラインダ(シリコンウェハの底面を削る)で世界シェア約80%のトップであることと、この高シェアと効率経営を背景とした高い営業利益率(2018年3月期実績で30.5%)です。

 一方で、ディスコの業績は、世界の半導体工場の稼働率、特に生産数量の多いメモリ工場の稼働率に左右される傾向があります。そのため、足元の業績は下降局面と思われます。

 ただし、前述のように、今年後半にDRAM需要が回復すれば、2020年3月期下期からディスコの業績にも回復の兆しが現れる可能性があります。また、東京エレクトロン、アドバンテストの株価が上昇しているため、ディスコの株価も連れ高している傾向があると思われます。

 楽天証券の2020年3月期、2021年3月期業績予想から計算した予想PERは既に20倍を超えており、東京エレクトロンやアドバンテストに比べて高い水準にあります。ただし、他社同様2021年3月期にはディスコの業績も回復すると予想されるため、株価も更なる上昇が期待されます。

 楽天証券では、今後6~12カ月間のディスコの目標株価を22,000円とします。2021年3月期楽天証券予想EPS854.5円に想定PER25倍強を当てはめました。前回の18,000円から引き上げます。

表7 ディスコの業績

株価 18,000円(2019/4/11)
発行済み株数 35,926千株
時価総額 646,668百万円(2019/4/11)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)