最初は何を選べばいい? 商品選びを3識者がアドバイス

――投資初心者には、商品選びが大きなハードルになっています。率直に聞くと、何を選べばいいのですか。

中桐 日経平均株価はバブル絶頂期のおよそ半値になっているし、日本企業のROE(株主資本利益率、資本をどれだけ効率よく使ったかを測る指標)も高くないので、「日本株=儲からない」というイメージがあります。それでも山崎さんは、日本株インデックス・ファンドを勧めていますね?

山崎 日本企業の経営効率は、米国企業より劣っていると言えますが、投資の視点では、経営効率の悪い会社はむしろ、期待できます。例えば、経営を株主寄りにシフトして、経営効率を改善するだけで、投資家から評価されて株価が上がります。現在の日本企業に、株主から「非効率的だ」と見える会社が多数あるのはその通りだけど、その分、改善のポテンシャルがあるとも言えます。

 私が、インデックス・ファンドを勧めるのは、個別株を買うよりも効率よくリスクを取ることができるからです。アクティブ・ファンドはコストが高いため、勧めにくいですね。とはいうものの、今は仕事上、個別株への投資はやりにくいのですが、リタイヤ後、自由に投資ができるようになったら、株式投資を始めるつもりです。半分趣味として(笑)。

横山 私も、これから投資を始めるお客さまには、インデックス・ファンドでスタートすることを勧めています。国債のような債券やREIT(不動産投資信託)について質問されることもあるのですが、まずは投資を理解してもらいたいので、シンプルにインデックス・ファンドを1~2本。iDeCoやつみたてNISAは、税金面で有利な仕組みなので使うと良い、というアドバイスはしますが、それだけです。

 長期投資が前提で、まずは半年~1年くらいは続けてもらって、投資を理解してもらう入り口としています。中には投資を始めるというワクワク感からか、最初から多額のお金をつぎ込もうとする人もいますが、金額は抑えてもらいます。それがリスクコントロールにもつながるので。

――分散投資という観点からは、日本株に加えて外国株式にも投資をした方がいいですか?

中桐 投資を始める人のリスク許容度にもよりますが、時価総額ベースで全世界の株式に投資する投資信託が合理的だと、私は思います。

横山 私もそう思います。私自身も、個人的に、世界株に投資するETF(上場株式投資信託)を持っています。初めての方でも、世界株のほうが分かりやすければそれだけで始めて良いと思うし、日本株、世界株の両方を持っても良いと思います。

山崎 日本株か世界株か、日本株と外国株の組み合わせか……。難しい問題ではあるけれど、現在は、日本株と外国株の相関係数が高まっています。つまり、日本株の動きが、NYダウ(米国株の指標)とドル/円の為替レートでほとんど説明できてしまう。つまり、株式を国内外に分散投資しても、リスクはあまり下がらない。しかし、多少は分散投資の効果があるので、使わないのはもったいない。個人の場合はなおさら、老後に使うお金は円だし、為替リスクをあまり取りたくないので、資産の配分は、外国株6日本株4か、5対5くらいの割合でしょうか。

――REIT(不動産投資信託)や国債のような債券はどうでしょう?

山崎 投資環境によります。国債の場合、今のように長期金利ゼロでリターンが得られず、債券価格の値下がりというリスクがある状況では、わざわざ資産の中に長期国債を入れる必要はない。長期金利が2%を超えるようになれば、債券と株式を組み合わせることで、リスクを下げる効果が期待できますが……。 現状では、国内株と外国株を持っていれば、世界経済の成長を享受できるので、米国債のような外国債券も無理に持たなくて良いでしょう。

 ポートフォリオの手本として紹介されることがあるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオ(国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%)でいうと、外国債券の15%が弱点ですね。国内債券は彼らの立場上、持たないわけにはいかないのでしょうが、個人は金利が変動する個人向け国債を持つことができます。時価総額が小さいのと過去のデータがあまりないのでまだ個人には勧めていませんが、資産の一部にREITを組み入れるのはいい選択肢かもしれません。

投資を途中で止めるリスクとは?絶対的に有利な商品はない!

――リスクコントロールと聞くと、響きだけですごく難しい印象があります。どのようにコントロールするのですか?

中桐 リスクには2つあると考えています。みなさんが一番気にする、価格が変動するリスクは避けて通ることはできませんが、実は、投資を途中でやめてしまうことも大きなリスクです。投資経験が少ないお客さまが、まとまったお金を株式に投じたケースを見ると、株価が1割下がっただけで慌てて売って投資そのものを止めてしまうことがある。3,000万円投資して1割下がると300万円の含み損ですから気持ちは分かりますが、多少のリスクには動じる必要はありません。

  そこで私は、途中でやめてしまうリスクを抑えるために、資産運用を一任するラップ口座を活用して、長期保有ができる環境をつくることをお勧めしています。その間にお客さまが投資を学ぶ場も設けています。

山崎 先ほど横山さんが「大金から始めず少額から。金額でリスクコントロールしている」と話していましたが、確かにリスクの大きさを、リスク資産の金額で調整する方法はシンプルです。投資に対する理解度、資産の状況など、自分の状況に照らし合わせてコントロールすればいいでしょう。

横山 お客さまに接している現場感で言うと、普通の人に短期投資は難し過ぎる。やはり積み立てを利用した長期分散投資しか、リスクを抑える方法はありませんね。

山崎 金融庁はつみたてNISA向けの商品として、159本(他にETF3本、18年10月31日時点)の投資信託を指定しています。金融庁の説明では「長期投資に向いた商品投資信託」ということですが、逆に「短期投資に向いた投資信託」があるのかというと、そんなことはない、ということを知っておくべきです。長期に向かない商品は、短期でもダメなのです。

――途中で止めずに続けるためには、どんな心構えが必要ですか。また途中で止めた人が戻りたいと思ったときは?

横山 まず「自分はどうしたいか」を決めることだと思います。そして正しい投資の知識を持つ。難しく捉える必要はなく、途中で止める人は、期待と現実に乖離(かいり)があるのだと思います。「投資をすれば300万円があっという間に1,000万円になる」というような幻想は捨ててください(笑)。そして「グリップ力」を発揮する。投資商品を、一度掴んだらカンタンには手放さない、ということです。

 そのためには、基礎の家計づくりが大切です。私事ですが、最近、子どもの入学金が必要になりました。結構な金額なので、あらかじめ想定して現金を用意しておかないと、投資商品を解約しなければなりません。強い投資のためには、しっかりした家計づくりが重要なのです。途中で戻る場合も、まず家計を見直してください。それができれば、投資を続けることができると思います。

中桐 病気になったら、私たちは何をしますか? 医学を学ぶのではなくて、腕のいい医者を探しますよね。投資も同じです。皆さんは本業が忙しいのだから、投資に対する基本的な知識は学ぶとしても、それ以上のことは信頼できる専門家に任せるほうがいい。

 お客さまに投資を続けてもらうためには、お客さまにリテラシーを求めるのではなく、私たちのような、資産運用のアドバイザーが、いい仕事をして信頼を得なければならないと肝に銘じています。信頼があれば長く続けられるのではないでしょうか。

山崎  投資未経験の人が最初の一歩を踏み出すことは難しいのですが、踏み出した後に続けることはもっと難しい。そこで、自分はなぜ投資をするのか、何に投資をするのかを紙に書いて、頭の中を整理するといいのでは? 「自分は、なぜ、投資をするのか」という理由と、「投資をすることでどうなりたいか」という未来像、さらに「どう投資をしていくか」という投資方針を紙に書き出す。そうすれば方向を見失わずに続けられるのではないでしょうか。一度投資を止めてしまった人も、初心に返ってこれを紙に書き出して、戻ってきてください。

 あとは、国に要望したいのですが、生命保険には生命保険料控除、相続不動産には小規模宅地の特例など、助成制度があります。そういう意味では、投資は補助が少ない。たとえば、積み立てで貯めた高齢者の資産は、相続税を一定額免除する、といったような優遇措置が欲しい。そうすれば投資への意欲も高まるのではないでしょうか。日本は有価証券に対して冷たい国だと思います。

横山 それはいい案ですね。

中桐 ぜひすべきです。提唱するだけでなく、環境を整えていければベストですね。投資に関わる我々も、どんどん声をあげていきたいですね。

――投資=難しい、という印象でしたが、基本的な考え方はとてもシンプルなのですね。投資金額を決めてリスクを管理し、まずはインデックス・ファンドを買ってみる。長く続けるための家計力を作る。投資方針を紙に書く。これなら今日からできそうです。ありがとうございました。

 

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