老後破綻防衛、節税対策など、声高に語られる「投資のメリット」。まるで「国民全員、投資をすべき」という風潮が漂っている。しかし、生き方も働き方も多様化している現在、投資だけが「全員すべきこと」であるはずがない。
 元号も代わり、生き方も常識も変化し始めている現在、投資と人との付き合い方について、意見を発信し続けてきた、中桐啓貴、横山光昭、山崎元の投資有識者3人に、改めて問いかけてみた。「この時代、投資とは本当に必要?」

Profile

中桐啓貴

IFA法人GAIA代表 取締役社長兼CEO ファイナンシャルプランナー

1973年、兵庫県生まれ。大学卒業後、山一證券、メリルリンチ日本証券で資産運用コンサルティング業務を行う。留学してMBA(経営学修士)を取得後、GAIA株式会社を設立。社員26名、資産相談の顧問契約者約730名、仲介預かり資産は320億円超。

横山光昭

マイエフピー代表

1971年、北海道産まれ。人気を誇るファイナンシャルプランナー。マイナス家計を健全な家計に変える「家計再生」のプロフェッショナルとして、これまで1万5,000世帯以上の家計を改善。『年収200万円からの貯金生活宣言』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

山崎元

楽天証券経済研究所  客員研究員

1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱商事→野村投信→住友生命→住友信託→シュローダー投信→バーラ→メリルリンチ証券→パリバ証券→山一證券→DKA→明治生命→UFJ総研と12回の転職を経て2005年より現職。

「投資=利益確定して儲けること」という誤解が蔓延

――個人の金融資産の多くが現金や預金のまま。日本は今、国を挙げて「貯蓄から資産形成へ」というスローガンの元、広範囲の人々に、投資を勧めています。しかし、そもそも投資って、誰もがやらなければいけないことなのでしょうか?

横山 「投資は怖いからやりたくない」「投資は私には合わない」という人に無理強いをする必要はないと思います。

 ただ私は、専門とする家計の視点から見ると、今の家計をきちんと維持することも大切だけれど、人生100年時代を見据えた家計を設計していくことも大切だ、と考えています。年金の不足分を、貯蓄の取り崩しだけでは補えない、という人は、「投資の力」を借りることで生活設計が楽になる。

「投資はリスクが高くて怖い」という気持ちは分かりますが、投資の基本を守ってローリスク・ローリターンという比較的安全な方法で増やしていくこともできますよね。

山崎 横山さんは、家計相談を通じて投資初心者の方と多く接していると思いますが、投資が合わない人ってどんなタイプの人でしたか?

横山 「日経平均株価が少し下がっただけで、あわてて売って利益を確定してしまう人」や「10万円の投資資金が9万9,000円になっただけでドキドキして仕事が手につかなくなる人」は向きません(笑)。

 投資について学んでいないがゆえに、リスクを取ることの意味が理解できていない人が投資をがんばると、利益を得る以前に辛いだけなのでは、と心配になります。

中桐 それは私も感じています。投資をまったく理解せずにとにかくスタートした人は、2018年末の株価の値下がりに相当のショックを受けたでしょう。

 あるお客さまは、老後の資産形成を目的に毎月10万円の積み立てをしているのですが、2018年末に5万円ほどの含み損を抱えて驚いていました。毎月10万円投資できるだけの資金力がある人でさえ、5万円でショックを受けるのであれば、この下落以降、際限なく下がって投資資金を全て失うと考えてしまう人が多いのでは?

 しかし長期で見れば、世界株式の過去の平均リターンは約7%もあるのだから、目先の値下がりに一喜一憂する必要がないことをきちんと理解できれば、と思うのですが……。

山崎 「投資は誰もがやるべきか」、という質問に、私は2ステップでお答えします。原則論としては「やりたい人はやる、やりたくない人はやらなくていい」。国も金融機関も「人生は長いのだから投資をすべき」と主張していますが、「投資は有利」と思う人だけが活用すればいいし、活用しないのならその分働く、より多く貯蓄をして対応することも選べます。「しなければならない」というロジックで投資を勧めるのは賛成できません。

 お金を増やすための手段として、投資は有利なのか不利なのか、という視点では、おおよそ「有利な手段」と考えていいし、有利な手段なら使った方がいい。また、「投資=これから資産を形成する人のもの」という誤解があるようですが、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」が利用できない60歳以上の人だって、働いて収入があるのなら「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」を使って資産形成を続ければいい。

 投資は、年齢や始める時期、資産の有無は関係なく、誰にでも有利な手段の一つ、というのが私の意見です。

「経済活動に参加すること」こそ本当の投資

――投資を始めるならば、勉強して理解してからでないと始められない、と思っている人がいます。一方で、投資の専門家を目指すわけではないので、すべてを理解するほどの本格的な勉強をしている暇はありません。理解度としては、どれくらい理解していれば始めることができるのですか?

横山  私はお客さまに「知っている、または、分かる範囲で投資をしてください」とお話しています。投資商品の中身が分からないまま買うのは賛成しませんが、それが何なのかを理解できているのなら、とりあえず買って体験すればいい。初心者で、世界のことは分からないが日本なら分かる、というなら、日本株インデックス・ファンドのTOPIX(東証株価指数)や日経平均株価に連動する投資信託、または、バランス型の投資信託がよいでしょう。わが身を振り返って思うことですが、投資の勉強には本当に際限がありません。自分で敷居を高くする必要は全くないと思いますよ。

 山崎 「投資で資産が増える理屈」を納得してもらうためには、高校1年くらいの常識があれば十分です。「利回り」「複利」を理解し、ハードルが上がるけれど、できれば「割引現在価値(将来の金額を現在の金額に変換したもの)」までを知っておく。そこまで理解していれば、「株式は債券や預金よりも高いリターンが期待できる」という理屈が分かるはずです。

 そこが納得できて、資本主義市場では、リスクを多く含んでいる商品が、リスクを少ししか含まない商品より高リターンが要求されることが分かっていれば、あとは、投資商品の中で一番効率の良さそうなものを選べばいい。複雑に考える必要はありません。

 個人の状況別にぴったりな商品があるわけではありません。例えば退職金の運用に特化した商品というようなものがあるわけではないのです。私のような理屈っぽい人間が「あれが間違っている」とか「これくらい覚えておけ」と言うから、投資は難しいと思うのかも知れないけれど(笑)。

横山 「資本主義市場では、リスクを多く含んでいる商品が……」というあたりは、投資未経験のお客さまには難しいかも知れません。もっと簡単に説明すると、どうなりますか?

山崎 投資は、運用を長く続けないと成果が上がらない種類のものです。ところが多くの人は、株を安く買って高く売って利益を得ることを投資だと思っています。

横山 そうですね。投資=売買して儲けることだ、と理解している方は多いですね。
 
山崎 投資とは、自分のお金を資本として経済活動に提供し、そのリターンを得ることだと理解してください。自分が稼ぐわけではないけれど、自分が投資したお金に働いて稼いでもらっている。そのことを理解する助けになるのが、中桐さんの「日本一カンタンな『投資』と『「お金』の本」(クロスメディア・パブリッシング)です。

中桐 ありがとうございます。私は、山崎さんと同じく山一証券に新卒で入って、リテール営業を経験し、山一が自主廃業した後、メリルリンチ日本証券株式会社へ移りました。メリルリンチ時代、私は毎朝、株式新聞を読んで、今日はどの銘柄が儲かりそうかをお客さまに伝えていました。長期投資について、当時は、今一つ納得していなかったので、投資信託についても「今なら何が儲かるのか」という視点でお客さまに情報提供していました。

 その後、独立する時に、ジェレミー・シーゲルの長期投資関連の本、ジョン・C・ボーグルさんの「インデックス・ファンドの時代」などを読んで、改めて長期投資を学び、その概念と長所に賛同しました。今は、長期投資の成果を、お客様にどのように得ていただくか、を考えながらアドバイスをしています。

――つまり投資とは、投資家お金を資本として経済活動に提供し、長期的に経済が成長することで利益を得る、という理解になりますか?

山崎 資本主義が発達して経済が成長するのが理想的ですが、仮に経済や企業が成長しなくても、株式投資は儲かるようにできています。イメージしにくいでしょうが、例えば高成長を織り込んでいる株価を持つ企業が、実際に高成長を達成した場合と、低成長が予想されている株価の会社が、実際に低成長だった場合とでは、前者が儲かるとは必ずしも言えない。

 また、日本は人口が減るので低成長経済になる、日本株を買っても儲からない、と考える人が増えてくると、実はしめしめと思う人もいる。それがマーケットのメカニズムです。株式投資には「経済の先行きを信じること」「マーケットのメカニズムを信じること」という二つのメカニズムが働いているのです。

――手段と考え方を間違えない限り、投資は有利な手段であることは理解できました。ただ、投資初心者が一番迷うのは、何を買えばいいのかです。後編では、投資商品の選び方を教えてください。

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