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本レポートに掲載した銘柄

東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)

 

1.半導体セクターは2018年10-12月期から調整期入りした

 今回は半導体製造装置セクターを取り上げます。まず、半導体デバイスの出荷動向、市況、設備投資の動向を概観します。その後、半導体設備投資の回復がいつごろになるのかを考えるために、現在業界内にある回復シナリオ(強気シナリオ)を検討します。

 まず、世界半導体出荷金額(単月)の動きを見ます(表1)。世界半導体出荷金額(単月)は、2018年1月から9月までは前年比17~23%増の二桁増を続けてきました。しかし、2018年10月に前年比6.5%増、11月に同3.4%増、12月には同7.7%減とついにマイナス成長になりました。向け先地域別に見ても、最も金額が大きいアジア・太平洋向けが9月の15.3%増から12月の5.4%減へ、次に金額が大きい南北アメリカ向けが9月27.7%増から12月18.8%減へ急減しています。

 同じく世界半導体出荷金額の3カ月移動平均値のグラフを見ると(グラフ1)、2018年10月に過去最高を達成した後、急減しています。

 世界半導体出荷金額が鈍化している要因は、個別要因としては、スマートフォン販売の鈍化(新型iPhoneの減産や中国スマホ販売の鈍化)によるスマホ用CPUの鈍化、パソコン用CPUの品不足によるパソコン出荷の鈍化とDRAM需要の鈍化、データセンター投資がこれまでの大型投資の反動と各種の情報規制により鈍化したためNAND型フラッシュメモリとDRAMの需要が鈍化したことなどですが、より視野を広げると世界景気の減速が原因と言えます。様々な半導体が我々の周りの隅々に装着されるようになったため、近年、半導体出荷と世界景気の連動性が強くなってきたのです。一昔前には「シリコンサイクル」という半導体業界の景気循環を示す言葉がありましたが、今この言葉を使う人は半導体業界の中には少なくなりました。代わって、半導体業界の経営者が注視しているのが、世界景気(世界のGDPの動き)とサムスン、TSMC、インテルなど大手半導体メーカーの業績とキャッシュフローの動きです。

 なお、世界半導体出荷金額をメモリ(NAND型フラッシュメモリとDRAM)、ロジック・ディスクリートに分けて見ると(表2、グラフ2)、メモリ出荷金額が2018年7-9月期にピークを付けたことがわかります。ロジック・ディスクリートも伸び悩んでいます。

 このように、2018年10-12月期から半導体セクターは調整期入りしたと思われます。世界半導体出荷金額の前年比が回復する時期は、早くて2019年秋~冬、遅くて2020年夏~秋頃と思われます。

表1 世界の半導体出荷金額(単月)

単位:100万ドル、%
出所:WSTSより楽天証券作成

グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)

単位:1,000ドル
注:2015年3月から「アジア太平洋・その他」から「中国」を分離
出所:SIA(米国半導体工業会)より楽天証券作成

表2 半導体デバイス市場の中身

単位:100万ドル
出所:世界半導体出荷金額はWSTS(単月)、DRAM、NAND型フラッシュメモリ販売金額はTRENDFORCE、ロジック・ディスクリート他は世界半導体出荷金額からメモリ販売金額合計を差し引いて楽天証券算出

グラフ2 半導体デバイス市場の中身

単位:100万ドル
出所:メモリ(DRAM+NAND)販売金額はTRENDFORCE、ロジック・ディスクリート他は世界半導体出荷金額(単月、WSTS)からメモリ販売金額を差し引いたもの

2.メモリ市況は下落が続く

 メモリ市況は、NAND型フラッシュメモリ、DRAMともに下落が続いています(グラフ3~6)。

 NAND型フラッシュメモリの市況下落の要因は、2018年から生産の中心になった96層の3D-NAND(回路を上に積み上げた3次元NAND。それまでは64層または77層)の歩留まりがメーカーの想定よりも良好だったこと、一方でデータセンター投資が、それまで活発すぎたことと、フェイスブック、グーグルなどへの情報規制の影響で鈍化したことによって、NANDが供給過剰に陥ったためです。この状態はしばらく続くと思われます。

 また、DRAM市況の下落の要因は、それまでの市況上昇で需要の伸びが鈍化したこと、PC用CPUの品不足、データセンター投資の鈍化です。

 市況の下落は、需要を喚起する要因です。今後の注目点は、NANDについては、SSD(NANDを組み合わせて作る記録媒体)がデータセンターの中でHDDに置き換わるのがいつになるのかです。現在、データセンターの中でのSSD比率は約10%と言われており、HDDが主流です。業務用高級HDDとSSDではビットクロス(記録媒体1ビットあたりの単価がHDDよりもSSDのほうが安くなること)が成立していますが、中級品ではまだHDDのほうが安くSSDに置き換わっていません。従って、データセンターという大きな需要をNANDが獲得するためには、一層の市況下落が必要と思われます。

 DRAMも価格下落によってデータセンターのサーバー投資が喚起されると思われます。

 サムスンなどメモリメーカー各社が、2017年から2018年前半にかけてNAND中心に大型投資を行ったこと、一方でスマホ、パソコン、データセンターともに半導体需要が鈍化していることを考えると、NANDとDRAMの価格は、需要を十分に喚起できる水準まで下落し続けると思われます。

グラフ3 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月22日まで)

単位:ドル、多値品、国内大口需要家渡し
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ4 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ5 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、それ以降はDDR4)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ6 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金
出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成
注:2018年6月29日までは4ギガビットDDR3型、それ以降は同DDR4型

 

3.半導体設備投資は減少傾向に

 このように、半導体セクターが調整期入りする中で、半導体設備投資も減少傾向になっています。特に市況下落が続いているNAND投資が削減されています。メモリ最大手のサムスン電子の2018年10-12月期の半導体設備投資は、前年比22.4%減の5.9兆ウォン(約5,900億円)になりました。日米の半導体製造装置販売高を見ても、先行して前年割れしてきたアメリカ製を追って日本製半導体製造装置販売高の前年比が横ばいになってきました。

 この状況から予想すると、東京エレクトロン、アドバンテストなどの日本の半導体製造装置メーカーの業績は、2020年3月期1Q(2019年4-6月期)が大底になる可能性があります。

表3 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)

単位:日本製は百万円、北米製は百万ドル、%
出所:日本半導体製造装置協会、SEMIより楽天証券作成

グラフ7 日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)

単位:百万円
出所:日本半導体製造装置協会より楽天証券作成

表4 サムスン電子:半導体部門の業績と設備投資

単位:兆ウォン
出所:会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.1円

 

4.半導体設備投資の回復シナリオ-インテルとTSMCの動きに注目したい-

 一方で、半導体セクターの中では、昨年末から半導体設備投資の回復シナリオが浮上してきました。

インテル:まず、今回のDRAM需要不足の原因を作ったインテルのCPU不足が年内に解消される可能性が出てきました。インテルは2018年に14ナノから10ナノへの移行に失敗したため、優先度の高いサーバー向けCPUと高級PC向けCPUを従来の14ナノラインで生産し、優先度の低い普及価格帯パソコン用CPUの出荷を絞った結果、普及価格帯パソコン用CPUの品不足が起きてしまいました。それがPC不足→DRAMの需要不足へ結び付き、DRAM市況下落の要因の一つになっています。

 しかし、インテルは今年14ナノから10ナノへの移行を完了する予定です(10ナノへ向けて設備投資を増やす計画です)。また14ナノラインの増強を行い、今年2019年のクリスマス商戦までに普及価格帯PC用CPUを増産する目論見です。そのため、今年のクリスマス商戦では昨年のようなPC不足→DRAM需要の減少が起きずに、DRAM需要が回復すると予想されます。

TSMC:世界最大の半導体受託生産業者であるTSMCが、5ナノ半導体設備投資を積極化しようとしています。

 まず、2019年中に5ナノのパイロットプラントを建設する計画です。パイロットプラントとは言え準量産クラスの大型プラントになるもようです。

 2020年に稼動開始となる5ナノラインで生産される5ナノCPUは、新型iPhoneだけでなく、HPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)、GPU(グラフィックプロセッサー)やAI半導体に需要範囲を広げる意向です。

 このように、2020年にスマートフォン用、パソコン用、サーバー用のCPUが大きく変化する可能性が出てきました。2020年にはスマホの5G対応も本格化する見込みです(iPhoneは2020年秋の新型から5Gに対応すると言われています)。このことはロジック半導体への投資とともに、DRAM、NANDのメモリ需要拡大とメモリ投資再開のきっかけにもなると思われます。

データセンター:現在鈍化しているデータセンター投資は、2020年の5G本格化でデータセンター需要増加→投資回復が実現する可能性があります。5Gでは大容量高速通信が実現するため、取り扱うデータ量が大きく増えると思われるためです。

 また前述のように、NAND、DRAMの価格が十分下がれば、データセンターにおけるHDDからSSDへの転換が進み、サーバー投資も活発になると予想されます。

 加えて、今年前半~後半に販売開始される予定の400Gbpsイーサネット搭載の最新鋭高速サーバーがデータセンター需要を刺激するという見方もあります。

 このように半導体の重要企業とデータセンターの動きを見ると、2019年はメモリ投資は減少するもののCPU等のロジック投資は増加し、2020年はロジック、メモリとも投資が増加するシナリオを描くことができるのです。おそらく、2020年は半導体デバイスと半導体設備投資にとって重要な年になると予想されます。

 リスクは、メモリ投資再開の時期が遅れることです。例えば、2020年前半までに回復せずに後半にずれ込むことは有り得ると思われます。ただし、CPUの変化の程度が大きいため、2021年以降にメモリ投資回復がずれ込むことは考えにくいと思われます。

5.半導体製造装置メーカーの投資評価

東京エレクトロン:東京エレクトロンとアドバンテストの業績の詳細は、楽天証券投資WEEKLY2019年2月1日号を参照してください。

 東京エレクトロンの2019年3月期は9.9%営業増益になる見込みです。業績は下期に入り減速しており、今3Qは1.1%営業増益とほぼ横ばいに止まりました。そして、今4Qは会社予想によれば25.0%営業減益になる見込みです。また、2020年3月期は、メモリ投資の減少によって1Qに更に業績が悪化する可能性があります。業績回復は早くて2020年3月期3Qからと予想されます。そのため、2020年3月期通期では楽天証券では9.4%営業減益と予想しています。

 ただし、前述の半導体設備投資回復シナリオが正しければ、2020年3月期下期から再び成長軌道に乗ると予想されます。

 今回の目標株価は、来期の楽天証券予想EPS 1,311.4円に想定PER15倍を当てはめ、今後6~12カ月で20,000円とします。前回の18,000円から目標株価を引き上げます。中長期で投資妙味を感じます。

表5 東京エレクトロンの業績

株価 15,150円(2019/2/28)
発行済み株数 163,947千株
時価総額 2,483,797百万円(2019/2/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益

アドバンテスト:SoCテスタ(非メモリ・テスタ)は、半導体が複雑になるにつれ(例えば、最新のロジック半導体にはAI(人工知能)が組み込まれているケースが多くなっている)、テストポイントが増えテスト時間が増加しています。そのため、テスタ台数を増やすことが必要になっています。

 アドバンテストの足元の業績は好調で、SoCテスタの好調が寄与しています。2020年3月期は、SoCテスタ受注と売上は堅調と思われますが、メモリ・テスタ減少の影響で減収減益になると予想されます。ただし、2021年3月期はSoCテスタ、メモリ・テスタともに増加が予想されます。

 今後6~12カ月間の目標株価を、楽天証券の2020年3月期予想EPS 250.2円に想定PER13倍を当てはめ3,300円とします。前回の3,000円から引き上げます。中長期の投資妙味を感じます。

表6 アドバンテストの業績

株価 2,629円(2019/2/28)
発行済み株数 193,847千株
時価総額 509,624百万円(2019/2/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益

レーザーテック:レーザーテックは、半導体の回路を描画する際に使う「マスク」とその材料である「マスクブランクス」の欠陥検査装置の大手です(マスク欠陥検査装置の市場シェアは推定約50%)。マスク欠陥検査装置、マスクブランクス欠陥検査装置ともに、メモリよりもロジック半導体の製造ラインで使われるため、レーザーテックの業績はロジック半導体の設備投資に敏感です。前述したように、CPUを中心としたロジック半導体の設備投資は2019年、2020年と増加が予想されるため、レーザーテックも順調な業績拡大が予想されます。

 2019年6月期2Q(2018年10-12月期)業績は、売上高106億5,600万円(前年比37.8%増)、営業利益42億2,700万円(同39.5%増)となりました。マスク欠陥検査装置の出荷が好調でした。

 また、受注が順調に増加しています。今2Q受注高は206億3,600万円(前年比2.9倍)となり、新規事業(詳細不明)約160億円が含まれる前1Q211億100万円に匹敵する受注高となりました。この受注高もマスク欠陥検査装置の伸びが寄与しました。

 会社側は今期業績予想を変更していませんが(今期会社予想は売上高280億円(前年比31.8%増)、営業利益65億円(同14.3%増)。研究開発費の増加が営業利益の伸びを圧迫する見込み)、来期からは前述の新規事業とこれまでに受注したマスク欠陥検査装置が売上高に計上されるため、研究開発費の伸びを吸収して業績好調が予想されます。

 今後6~12カ月間の目標株価は、2020年6月期楽天証券予想EPS 149.7円に今後の成長性を考慮した想定PER35倍を当てはめ5,200円とします。前回の4,500円から引き上げます。レーザーテックにも中長期の投資妙味を感じます。

表7 レーザーテックの業績

株価 3,915円(2019/2/28)
発行済み株数 45,089千株
時価総額 176,523百万円(2019/2/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの

グラフ8 レーザーテックの全社受注高

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

ディスコ:2019年3月期3Q(2018年10-12月期)は、売上高340億600万円(前年比15.9%減)、営業利益77億3,800万円(同31.4%減)となりました。回路を書き込んだシリコンウェハをチップに切るダイサとシリコンウェハの底面を削るグラインダで世界シェア70~80%のトップですが、今期に入ってメモリ向け中心にダイサ、グラインダの設備投資が減少しており、ディスコも減収減益が続いています。

 新しい市場である中国市場も、昨年10月に中国のDRAMメーカー、JHICCに対してアメリカ製半導体製造装置が事実上の禁輸になってから、メモリ投資が止まっている状態です。

 このため、今4Qも会社側は減収減益が続くと見ています。来期も上期は回復感のない状態が続く可能性があります。来下期にはある程度回復する可能性がありますが、来期通期では減益になると予想されます。

 今後6~12カ月の目標株価は、前回の18,000円を維持します。今後ロジック投資の増加に伴って東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテックの株価が上昇した時に、メモリ投資増加に対する期待からディスコの株価が上昇する可能性があります。ただし、株価の本格上昇にはダイサ、グラインダの設備投資回復が必要になると思われます。

表8 ディスコの業績

株価 15,340円(2019/2/28)
発行済み株数 35,926千株
時価総額 551,105百万円(2019/2/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの

グラフ9 ディスコの月次受注高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)