毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄
任天堂(7974)、ソニー(6758)、カプコン(9697)、enish(3667)
1.楽天証券では任天堂のアナリストレポートを作成
楽天証券では、任天堂のアナリストレポートを作成し、6月30日付けで弊社ウェブサイトに掲載しました。
業績予想は、楽天証券投資WEEKLY2017年6月2日号に掲載したものと同じです(表1、2に再掲)。今後1年間の目標株価レンジを前回レポートの35,000~37,000円から55,000~57,000円に引き上げ、株価レーティングは「A」を維持しました。
この予想の中に開発中の新型携帯型ゲーム機のビジネスは織り込まれていません。私は新型携帯型ゲーム機が2019年3月から2020年3月までに発売されると予想していますが、スイッチが1人1台需要を獲得することに成功するなどして、この楽天証券予想を上回る業績が実現出来るようになった場合には、新型携帯型ゲーム機の発売が遅れる場合があり得ます。
また、Wiiの累計販売台数は約1億台でしたが、スイッチはリーマンショック級の大規模な経済変動がないこと、1人1台需要をある程度開拓できること、新興国への展開も始まることなどを条件に、累計販売台数1.5~2億台も不可能ではないと考えています。
表1 任天堂の業績(2017年6月)
表2 任天堂の業績予想の前提(2017年6月)
2.任天堂の再成長ストーリーに変更なし
私が予想する任天堂の再成長ストーリーに変更はありません。任天堂は表3の様に、ニンテンドースイッチ発売時から今年年末までに自社開発ソフト(共同開発を含む)を8作発売する予定です。Wiiが日本で発売された2006年12月から2007年12月までの1年間に任天堂ブランドのWii用ソフトは17作発売されましたが、このうち任天堂開発ソフト(同)は9作です。この期間のWiiがクリスマスシーズンを2回経ていることを考慮すると、今回の任天堂の開発姿勢の積極さがわかります。
任天堂は、再び彼らの信ずる道、即ち世界最強の家庭用ゲーム会社としての道を歩み始めたというのが私の実感です。
当面の注目点は、スイッチ・ハードの増産ペースです。既に任天堂はハード増産を表明しており、6月22日に任天堂ウェブサイトに掲載した「お詫び文」でも、7、8月と秋以降の出荷増加をコメントしています。
私は、表4、5に示した日本と世界のスイッチ・ハードの週次ベース販売台数から、期初会社予想1,000万台に対して、今期1,500万台程度の販売台数が可能と予想しています。当面は7月26日発表の2018年3月期1Q決算についての会社側コメントに注目したいと思います。日本国内では、スイッチの累計販売台数が6月25日までに100万台を突破しましたが、これは過去最速です。
また、改めてスイッチ・ハードに関連があると言われる銘柄群(ホシデン、ミネベアミツミ、アルプス電気、ローム、日本写真印刷など)に注目したいと思います。特に今期売上高の約半分がアミューズメント分野になる見通しのホシデンに投資妙味を感じます。
表3 ニンテンドースイッチ用ソフトの発売スケジュール(任天堂製のみ)
表4 ニンテンドースイッチ販売台数とスイッチ用ソフト販売本数:日本
表5 ニンテンドースイッチ販売台数(VGChartzによる)
表6 ニンテンドースイッチ関連銘柄
グラフ1 任天堂のゲームサイクル:据置型ゲーム・ハードウェア
(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)
グラフ2 任天堂のゲームサイクル:据置型ゲーム・ソフトウェア
(単位:万本、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)
グラフ3 任天堂の長期業績
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)
グラフ4 任天堂の長期チャート(月足)
(出所:マーケットスピード)
3.E3で重要ニュースも発表
任天堂は、2017年6月13-15日にアメリカで開催された世界最大のゲーム見本市「E3」でも重要な発表をしました。
まず、2018年発売になりますが、スイッチ用に「星のカービィ」「ヨッシー」の2作を発売します。2作とも任天堂の定番です。「メトロイドプライム4(仮称)」の開発も発表しました。また、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の追加コンテンツ第1弾を6月30日に2,500円で発売しました。第2弾は今年冬に配信開始する予定です。
加えて、スイッチ用に「ポケットモンスター」最新作の開発が始まったことも公表されました。
任天堂はゲーム株の中核です。任天堂の長期業績を示したグラフ3と長期株価チャートのグラフ4を見比べると、株式市場は任天堂の過去最高益更新を意識しているように見えます。少なくとも、過去最高益更新の条件が何なのかを探ろうとしているように見えます。
リスクは、上述のスイッチ・ハードの増産がどこまで進むかということと、株価変動です。2月中旬から株価が大きく上昇してきたため、株価変動リスクはありますが、このリスクは株である以上避け難いものです。
引き続き投資妙味を感じます。
4.ソニーは総合力で評価したい
任天堂とソニーのゲームはかなりの程度別物と考えて良いと思われます。5~10年前までは競合していましたが、今はお互いに目指すところが違うと考えたほうがよいでしょう。
ソニーとプレイステーション4(PS4)の有力サードパーティは、CG(コンピュータグラフィック)の美麗さが特徴の「映画のようなゲーム」を追及しており、任天堂は純粋な「面白さ」を追求するゲーム会社です。任天堂はソニーの市場に関心を持っていないようであり、ソニーも任天堂と正面から対決しようとはしません。ソフト開発力に差がありすぎるという事情もありますが、これはある程度までソニーが選択した結果です。ソニーはプラットフォーム会社であることを強く意識してサードパーティ(ゲームソフト専業会社)にそのことをアピールしてサードパーティを集めているのに対して、任天堂は逆に自らが強力なソフト会社であることを前面に出しています(スイッチではそれが際立っているように思われます)。
その結果、ソニーはサードパーティからは好かれていますが、採算の良い自社開発ソフトの大ヒットが少ないため、ゲーム部門のピーク業績水準は任天堂には及びません。今期のソニーゲーム部門の営業利益会社予想は1,700億円で、ネットワーク投資を除くと実質的に2,000億円弱の営業利益となり、これが過去最高益となると思われます。しかし、任天堂の過去最高営業利益5,553億円(2009年3月期)には及びません。
任天堂の市場が拡大した時に、その一部(10~20%?)がソニーの需要層になる可能性もあります。これは任天堂ユーザーの中にもハイエンドの映像系ゲームを好む人たちがいるためです。ただしハイエンドゲームには欠点もあります。大型ソフトほど高精細CGを多用するため、PS4用ソフトのソフト開発費はスイッチ用ソフトのそれよりも高くなると思われます。
PS4の市場は、2017年3月期のハード販売2,000万台がハードのピークとなり、今期以降はハードはゆっくりと減少すると思われます。そしてソフト市場は、今期か来期がピークとなってその後ゆっくりと下降局面入りすると思われます。この要因は、PS4市場が循環的な下降局面に入ることと、マイクロソフトが2017年11月に発売する高性能ゲーム機「Xbox One X」とある程度の競争が予想されるからです。プレイステーションVR(PSVR)はPS4市場の刺激要因にはなりますが、VR専用ソフトの作り方、特にフルVRソフトの作り方が難しく、PS4市場を大きく持ち上げるほどではないと思われます。
PS4が下降局面入りした後の焦点は、「PS5」がいつ発売されるのかということですが、早くても3~4年以上後になると思われます。この問題はPS4市場の減少ペースがポイントになります(早く減少すればPS5投入が速くなる可能性がある)。
では、ソニーの投資判断はどうかというと、私はまだ投資妙味が期待できると考えています。ソニーは総合力で評価すべきだと考えます。映画、音楽、ゲームの各々で世界展開している会社は世界でもソニーだけです。この3大エンタテインメント事業と共に、映像と音に特徴があるハードウェアと半導体を手掛けるビジネスモデルもソニー独特のものです。
今後の焦点は映画事業をどう再建するかです。映画事業は伸びる余地が大きく、上手く建て直せば、営業利益1,000億円以上も可能と思われます。詳細は別の機会に述べますが、株価は5,000~6,000円のレンジが当面の目標になると思われます。
グラフ5 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数
(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)
グラフ6 Xboxの全世界販売台数
(単位:万台、出所:VGChartz、CESAゲーム白書より楽天証券作成)
グラフ7 ソニー・ゲーム&ネットワークサービス事業の業績
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)
表7 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース
5.ゲームソフト専業会社の行く道
カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスなどのゲームソフト専業会社の行くべき道筋は、これまで同様マルチプラットフォーム対応(複数のハードウェアにソフトを供給する)になると思われます。PS4やスマホゲームだけでなく、ニンテンドースイッチへも対応する必要がありますが、これは上述のようにPS4市場が来期以降にサイクル的な減少局面に入ると予想されるのに対して、ニンテンドースイッチはハードの増産により本格的な普及期に入ると思われるからです。ニンテンドースイッチ市場では任天堂という巨大な「ボスキャラ」が隣にいることになりますが、市場が急拡大すると予想されるため、良いソフトを出せば大きな利益が期待できます。ただし、任天堂がいる市場ですので、優良ソフトの投入が必要です。結果的にスイッチ市場は優良ソフトが多い市場になると思われます。
例えば、カプコンの場合、2018年初頭にPS4用「モンスターハンター:ワールド」(モンスターハンターシリーズの新作)を発売する予定ですが、それに先立つ2017年8月にスイッチ用「モンスターハンターダブルクロス」(3DS版の移植)を発売する予定です。スマホゲームも他社と提携して強化する方向と報道されています。このように開発、マーケティングについて複数のハードウェアに対応する必要があるため、ゲームソフト専業会社が成長するには一定以上の規模が必要になります。
ゲームの世界はこれから大きく変わると思われます。ハードメーカーだけでなく、カプコンのようなゲームソフト専業にも注目したいと思います。
6.スマホゲームの先行きは?
スマホゲーム市場全体の先行きははっきりしません。ゲームに限らずエンタテインメントビジネスはお客の時間を取り合うビジネスです。今後数年にわたってゲームの世界市場でNintendo旋風が吹き荒れたときに、スマホゲーム市場に何も起こらないというわけにはいかないでしょう。
特に高額課金型の大型ゲーム、例えばミクシィの「モンスターストライク」などは、ゲーム市場がスマホゲームから家庭用市場に大きくシフトした場合、ネガティブな影響を受ける可能性があります。
一方で、スマホゲームは小規模企業でもアイデア次第でヒットを飛ばせる自由な市場です。私が注目しているのは、日本のアイドルゲームの分野です。人気アイドルグループ「欅坂46」のスマホゲーム「欅のキセキ」(2017年中に配信開始予定)をenish(エニッシュ)が制作中です。enish自体は赤字続きのスマホゲーム会社であり、「欅のキセキ」もジャンル、内容などの詳細は今のところ不明です。「欅坂46」のアーティストマネジメントを共同で行っているソニー・ミュージックエンタテインメントと秋元康氏へのライセンス料も安くはないと思われます。ただし、このゲームがヒットすればenishは黒字転換する可能性があります。
ちなみに、乃木坂46を題材にした恋愛ゲーム「乃木恋」(2016年4月配信開始)は現在300万ダウンロードを超えています(「乃木恋」の制作会社の1社であるallfuz(オルファス)にエイベックス・グループ・ホールディングスが出資しています)。ゲームではありませんが、乃木坂46公式アプリ「乃木坂46 ~always with you~」(2017年夏配信開始予定、制作会社はエムアップの100%子会社WEARE)の事前登録者数も15万人になりました。
スマホゲームの世界でも様々な変化が予想されます。
本レポートに掲載した銘柄
任天堂(7974)、ソニー(6758)、カプコン(9697)、enish(3667)
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