個人投資家とファイナンシャルプランナーという2つの顔を持つ尾上堅視さん(かえるさん)のインタビュー中編をお送りします。今回はどのような視点で投資銘柄を選んでいるのか、さらに実際にどんな銘柄を保有しているのかを聞きました。

 

あれこれ手を広げている企業は判断がつかないので投資する気になれない

──前回、割安な小型株に投資して利益を出してきたとおっしゃいました。個人投資家にとって小型株を狙うのは、個人投資家ならではの醍醐味だと思いますが、何か銘柄選びのこだわりはありますか。

 1つは単一ビジネスであるということです。あれやこれやと手を広げるのでなく、1つの事業に地道に取り組んでいる企業に投資することが多いです。

──理由は?

 大企業ならともかく、まだ成長途上の企業がいろいろ手を出していると「ホントに大丈夫なんですか、二兎を追うものは一兎をも得ずなんてことになりかねないのでは?」と気にかかります(笑)。

 それにいろんな事業を展開していると、その企業の健全性や成長性が僕の知識では判断できないんです。Aという事業が好調でも、Bが不振だったら、結局どっちなの? ということになります。その点、本業一筋の会社だと、その事業の動向だけ抑えておけばいいので、投資判断がしやすいです。

──なるほど。

 僕は資産運用に関する知識は持ち合わせていますが、企業分析に長けているわけではありません。しかも専業投資家ではないから、1社1社時間をかけて分析することはできません。だから、シンプルな方法で見極めができるような企業のほうが好都合なんです。

──あまり背伸びをしないというか、自分の思考が及ぶ範囲でターゲットを探すと?

 僕が株を始めた頃、いろんな企業分析の理論が流行っていました。でも、それらの理論を駆使して利益を上げていた人々の多くが、リーマンショックを契機に表舞台から消え去っていきました。僕よりもはるかに頭が良くて資金も持っていた人たちですら、理論を投資の成績に結びつけることが難しい場面だった。そんな光景を目の当たりにしたこともあり、あまり難しく考えず、シンプルにいこうと思うようになりました。

──ちなみに業種へのこだわりはありますか。

 特にありません。製造業からサービス業まで幅広く投資しています。ただ、意識して避けている業種はあります。1つは金融関連。自分の知識ではいい会社かどうか、伸びるかどうか、判断がつかないので手を出さないようにしています。僕にはちょっと荷が重いというか(笑)。あと土木関連、農林水産関連も避けています。

──尾上さんは土木業界出身ですよね。自分がよく知る土俵で勝負する手もあるのでは?

 たしかにそうなんですが、土木業界っていろいろと複雑で難しいんです(笑)。農林水産関連も気候の影響を受けるなどやっかいなので、ヘタに手を出さないほうがいいかなと思っています。

──では、比較的多いのは?

 やっぱり製造業ですね。真面目にモノづくりに取り組んでいる企業に投資しておけば大ケガはしないだろうという思いがあるんです。実際、これまでも小さいケガはあっても大ケガはなかったと思います。

 

通勤電車で株価をチェックするのが日課

──具体的にどんな銘柄に投資してきたかお伺いできますか。例えばアベノミクスで大きく稼いだときの主力銘柄は?

 いろいろあります。日本電産のグループ会社でさまざまな検査装置の開発・製造を手掛ける日本電産リード、中国や東南アジアを得意とする物流会社のエーアイテイー、九州を拠点にブライダルビジネスを展開するアイ・ケイ・ケイ、あとドラッグストアチェーンのココカラファインも主力でした。

──テンバガー、10倍になった銘柄もありますか?

 テンバガーはないですね。でも、3倍、4倍になった銘柄はけっこうあります。

──では、今現在の主力銘柄は?

 中古マンションの再生事業を展開するスター・マイカ、自動車や二輪車に用いる各種ホースを製造するニチリン、半導体デバイスの開発・製造を手掛けるトレックス・セミコンダクターといったところです。それと、先ほど話したエーアイテイーは今も主力の1つです。

──やはり製造業が多いですね。

 そうですね。特に今は多いかもしれません。でも、飲食チェーンや小売りチェーンの株を買うこともあります。

──だいたい何銘柄くらい持っているのですか。

 そのときにもよりますが、十数銘柄くらいです。中にはほんの少額というものもありますが。

──どうやって探すのかも聞いていいですか。

 それもいろいろです。例えばテレビやネットを見ていて、どこかの企業が面白いサービスを始めたとか、画期的な新商品を発売したといったニュースを耳にしたら、どんな会社なのかを調べてみます。それで、業績がよかったらPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)をチェックし、割安だったら買うかどうかを検討します。

 あとはやはりスクリーニングです。証券会社のサイトにログインしていろいろな条件を入れて検索し、いくつか絞り込まれたら、それらをさらに詳しく見ていくという感じです。どちらも個人投資家ならみんなやっていることだと思います。

──よく使うツールは?

 会社四季報はよく利用します。目的の企業を調べるためにも使いますが、そうでなくてもよくぱらぱらとページをめくっています。「いい会社、ないかなあ」と思いながら。四季報は何時間見ていても飽きません。

──いちばんの愛読書?

 そうかもしれませんね(笑)。以前はよく読んでいました。

──投資に充てる時間はどれくらい?

 ファイナンシャルプランナーという仕事柄、経済情報やニュースは常にチェックしていますが、自分の投資に充てる時間となるとあまり多くありません。

──帰宅後には必ず株価をチェックしますか。

 それはしませんね。それより通勤電車の中でチェックしています。

──通勤電車で?

 毎朝9時前に電車に乗るので、電車に乗って9時になり、株式市場が開いたら、スマホのアプリを立ち上げて自分が持っている銘柄の株価をチェックしています。会社まで30分なので、ひと通りチェックできます。

──電車に乗って株価を見たら大幅に下落していたなんてことはありませんか。

 昨年の後半はけっこうありました。1日で自分の給与以上の損失が出て、焦りまくったとか(笑)。

──その場で売り買いするんですか?

 たしかにスマホでも売り買いできますが、さすがに電車の中でやったことはあまりありません。一刻一秒を争うわけでもないので。

──尾上さんは、個別株だけでなくインデックスファンドやアクティブファンドも保有されていますよね。次回はそれらを中心にお伺いします。

尾上さん流・ほったらかしにできる投資の秘訣は「シンプルであること」。

後編『個別株と投資信託のメリット・デメリットは?老後資金の作り方は?』へ続く>>