久々のGSR露出

 先日、久々に「GSR(金銀比価)」の記事が出ていました。3年半前にもこのコラムで取り上げていたのですが「金銀比価(GSR)」、この時、金銀比価の記事が珍しく新聞に掲載されていたのです。こういった耳慣れない、専門的な指標はなかなか記事としては出てきません。この指標が出てくるときは、概して経済環境に変化が起きていることが多いため、注目しておく必要があります。
「金銀比価」とは金と銀価格の関係を示す指標です。同じ重さの銀価格に対する金価格の比率を示しています。新聞記事などは「金銀比価」とか「金銀価格差」などの用語が使われていますが、マーケットのプロの間では「GSR」 (Gold Silver Ratio=ゴールド・シルバー・レシオ)と呼ばれています。現在、金の国際価格は1トロイオンス=1,340ドル前後、銀価格は1トロイオンス=15.9ドル前後ですので、GSRは84倍(1340÷15.9=84.2)となります。

 GSRは、金貨と銀貨の価値を決める指標として、古来から重要な役割を果たしてきました。

 それが近年は、市場の大きな変化を表す指標として、GSRが注目されています。GSRの上昇は、経験則上、地政学リスクが高まったときや、金融危機が深刻だった時期に多くみられます。

 例えば、湾岸戦争が勃発した1991年には過去最高水準の100倍に拡大しました。2008年のリーマン・ショック時は瞬間的に84倍まで上昇しましたが、現在もGSRはリーマン・ショック時と同じような水準に。しかも2018年2月から80倍を超える水準が1年近く続いています。過去20年間の平均は60倍程度でしたので、金が割高な水準が続いている状況となっています。

 

GSRの上がり下がりは何を表すのか

 GSRが上昇するとき、計算式上は金が上昇するか、銀が下落するとき。また、GSRが下落するときは、金が下落するか、銀が上昇するときということになります。

 しかし、実際には銀は金と連動する値動きをする傾向があるため、GSRが動くときは金と銀の上昇スピードの違いや下落スピードの違いによって生じるようです。つまり、GSRが上昇するときは、銀に比べて金の上昇率が大きく、GSRが下落するときは金の下落率が大きいということになります。

 ただし、興味深いことに金が上昇してもGSRが必ずしも上昇しない場合があります。

 例えば、2011年8月に金価格が1,900ドル台の最高値を更新しましたが、その時のGSRは40倍程度しかありませんでした。金は、リスク分散の要として根強い需要があります。地政学リスクが高まると、「有事の金」として投資が活発になり、株安や金融不安が起こると通貨の信認が低下し「安全資産」として買われます。1,900ドル台に金が上昇したときは、ギリシア・ショックに端を発した欧州債務問題や米国債の格下げによって、欧米の中央銀行が金融緩和をしたことからドルの価値が低下し、金が上昇したという背景がありました。

 しかし、GSRは40倍と上昇しませんでした。GSRの上昇の意味はもう一つの側面があるようです。

現在のGSR水準は80倍超。リーマン・ショック時と同水準

 金の用途別需要を見ると、宝飾品や投資用の需要が9割を占めますが、銀は工業用が6割を占めています。従って、景気変動の影響は、圧倒的に銀が受けやすいということが分かります。金融危機が発生すると金は安全資産として買われ、また、金融危機のときには景気も減速することから銀の需要は減少し、銀の上昇は鈍くなることが予想されます。この結果、GSRが上昇してくることが推測されます。

 現在、GSRは2018年2月から80倍を超える水準が1年近く続いている状況となっています。

 2018年を振り返ってみると、年前半は米朝首脳が言葉で攻撃し合い、北朝鮮問題の地政学リスクが高まるものの、6月の米朝首脳会談以降、地政学リスクは低下しました。

 ところが夏場以降、今度は米中貿易摩擦が激しくなり、経済への影響が懸念されてきました。この懸念増大から10月から12月にかけて株が大きく下がったのは記憶に新しいところです。

 このように地政学リスクの高まりや経済減速懸念によってGSRの80倍近い水準が続いてきました。直近の株の動きを見ると、米国金融政策のタカ派姿勢が後退したことや、3月1日交渉期限の米中通商協議の進展について楽観的な見方が高まってきたことから米国株は上昇しています。しかし、GSRの水準は変わっていません。

 先週発表された2018年12月の米小売売上高は前月比▲1.2%と発表されました。12月の株安や政府機関の閉鎖などがありましたが、2009年9月以来、9年3カ月振りの低水準で、リーマン・ショック後の水準と同じようなマイナス幅となりました。

 また、中国の1月の新車自動車販売は、前年同月比▲15.8%と7カ月連続のマイナスに。11~12月に急減速した景気は、1月に入っても減速が続いているようです。今年に入ってIMF(国際通貨基金)などによる世界経済見通しの下方修正が相次いでいますが、ひょっとしたら景気の減速はまだ始まったばかりかもしれません。

 GSRの高止まりは世界経済の先行き不安を反映し、その不安が続いていることを物語っているようです。80倍を超える水準が1年近く高止まりしていることから、指標としての役割や意味合いが変わってきたのかもしれませんが、続々と発表される経済指標を見ていると、引き続き警戒モードで臨んだ方がよさそうです。