原油相場は2月に入り、上値の重い展開が続いています。

 昨年末から1月下旬まで大きく反発した原油相場でしたが、2月11日の終値は1バレルあたり52.53ドルと、2月に入り反発傾向がいったん止まったように見えます。

 米中貿易戦争のさらなる激化による消費減少懸念、ドルの反発傾向など、原油市場にはさまざまな上値を抑える要因があり、材料視されている可能性があります。

 今回は、こういった材料の中から、ベネズエラの政情不安、先月からルール変更し新たに始まったOPEC(石油輸出国機構)プラスの減産、米シェールオイルなど、供給面に的を絞って解説します。

図1:WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物(期近、日足、終値)

出所:CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のデータより筆者作成

 

「OPECが1月減産順守ならず」と海外メディアが報じる

 1月31日、1月の原油生産量の調査結果を海外メディアが公表しました。これによれば、減産に参加する生産量の削減目標を持つ11カ国合計の1月の原油生産量は、日量2,618万バレルでした(図2)。

 減産参加国、および各国の削減目標は「原油相場の年末下落は米シェールにダメージ?OPECプラスは減産順守できるか!?」で解説しています。ご参照ください。

図2:OPEC11カ国の原油生産量(海外メディア公表ベース)

注:減産は原則として2018年10月の生産量を基準とするが、クウェートは同年9月を基準
出所:海外大手メディアのデータより筆者作成

 海外大手メディア、EIA(米エネルギー省)、OPEC、IEA(国際エネルギー機関)などが各国の原油生産量のデータを公表していますが、公表する機関によってデータはまちまちです。著しく異なることはありませんが、同一ではありません。

 例えば、OPECが公表する自らの生産量データは、OPEC各国が発表している量ではなく、複数の機関のデータを基に集計(セカンダリーソース、2次情報源を基にしたデータ)しています。OPEC各国自らが提示したデータも存在しますが、一般的には、OPECが公表したOPEC加盟国各国の原油生産量は、2次情報源を集計したセカンダリーソースのデータを指します。

 数値の異なる多くのデータが存在するため「どの機関が公表するデータが正しいのか」という疑問が湧きます。どのデータもそれぞれの機関が独自に集計したり、OPECのように複数の機関のデータを基に集計したりする体制のため、そもそも産油国の原油生産量のデータに1つの決まった値を求めることはできません。とはいえ、体制を一部改編し、新ルールで始まった減産の初月となった1月の減産の進捗状況を確認しなければなりません。

 そこで筆者は1月18日にOPECが公表した減産合意の内容から「削減率」を計算し、減産順守の状況を試算。海外大手メディアが公表した生産量に削減率を適用して試算したOPEC11カ国全体の減産順守率は98.9%となりました(図3)。つまり、OPEC11カ国は1月の減産を順守できなかったと推定されます。

図3:OPEC11カ国の2019年1月の減産順守状況(筆者推計) 

単位:百万バレル/日量
注:減産は原則として2018年10月の生産量を基準とするが、クウェートは同年9月を基準
出所:OPEC、および海外大手メディアのデータより筆者作成

 EIAとOPECは2月12日に、IEAは翌13日にそれぞれ1月の産油国各国の原油生産量のデータを公表します。

 先述の通り、それぞれ生産量のデータは微妙に異なりますが、各データ間で大きな相違がなければ、「削減目標を持つOPEC11カ国全体の減産順守率は順守できなかった」、あるいは「減産を順守できたとしてもギリギリだった」となると筆者は考えています。

原油埋蔵量世界一のベネズエラ。政情不安で産油国として体をなさなくなっている

 今、南米の産油国ベネズエラ情勢が混迷を極めています。数年前から政情不安、ハイパーインフレが起きているなどの報道がありましたが、特にここ数カ月間は米国による石油産業への経済制裁で、反米の現政権にとって打撃となっています。

 さらに、周辺国ブラジルやコロンビアなどへ、ベネズエラからの難民が増加しており、米国とベネズエラだけの問題ではなくなっています。

 このような状況の中で浮上しているのが、ベネズエラの原油供給の減少観測です。

 ベネズエラはOPEC加盟国であり、サウジアラビアを上回る世界No.1の原油埋蔵量を有するなど、「石油の国」という顔を持っているため、政情不安が世界の原油供給を減少させるのではないかという懸念が広がっています。

 ベネズエラの原油生産量と、OPECのシェアを表した図4を見ると、ベネズエラの原油生産量は2016年ごろから長期減少傾向にあります。OPEC内のシェアも低下傾向にあります。

図4:ベネズエラの原油生産量と同国のOPECシェア

出所:EIAデータより筆者作成

 生産・精製施設の老朽化や、同国の政情不安などの影響で、2017年1月のOPEC、一部の非OPECの減産が始まる前から始まった後、現在に至るまで、加盟するOPECの方針に関わらず、同国の原油生産量は減少の一途をたどっています。ベネズエラはすでに自国で生産量をコントロールできなくなっており、自国都合の「自然減」状態にあるといえます。

 2019年1月から始まったOPECプラスの減産では、ベネズエラは減産免除国となりましたが、減産は、自分でコントロールできることを前提とした「自主的で人為的な生産削減」であり、ベネズエラがそれを実施できる状況にないことが、減産免除となった要因だと筆者は考えています。

 原油生産量の自然減により、ベネズエラのOPEC全体の原油生産量に占めるシェアも低下傾向にあり、1998年ごろは10%前後でしたが、2018年後半には4%程度まで下落しています。

 このようにベネズエラの原油生産量の減少や、OPECでのシェア低下を考えれば、ベネズエラの産油国としてのプレゼンスは低下していると言えます。

図5:ベネズエラの石油に関わる状況

 出所:各種情報より筆者作成

米国の大寒波で米シェール生産の伸びが鈍化の可能性あり

 ここ数週間、米国に記録的な大寒波が襲来していると報じられています。米中西部イリノイ州のシカゴの街中に流れる川や、シカゴ周辺の五大湖が凍りついている様子を報じるニュースが目に留まります。

 このような大寒波は、米国のエネルギー事情にはどのような影響があると考えられるのでしょうか。

 暖房のための当該地区のエネルギー消費が増し、これにより該当地区およびその周辺地区の石油製品在庫が減少する可能性があります。また、寒波により当該地区の製油所が稼働停止に追い込まれ、原油在庫が積み上がることも考えられます。

 大寒波の米シェールオイルへの影響は、「生産量の減少」という影響が考えられます。

 EIAの資料から、全米に7つあるシェール主要地区を図6で示しました。

図6:7つの米シェール主要地区

出所: EIAの資料より筆者作成

 7つ主要地区のうち4つは南部付近にありますが、1つは北部にあります。その北部にある地区は「バッケン地区」です。

 バッケン地区は大寒波が襲来している地区の一つ、ノースダコタ州を中心とした地域です。大寒波が原油を生産する作業を停滞させ、同地区の原油生産量の減少が懸念されます。

 バッケン地区の2018年12月の原油生産量は日量140万バレルでした。パーミアン地区(日量380万バレル)、イーグルフォード地区(日量142万バレル)に次ぐ3位でした。12月のシェール主要7地区全体の生産量の合計は、日量805万バレルでした(米国全体のおよそ68%)。

 バッケン地区の原油生産量のシェアは、シェール主要7地区合計の17.3%、米国全体の11.9%です(2018年12月時点)。

 バッケン地区のシェアは決して小さくなく、寒波の影響で同地区の原油生産量が減少した場合、1月と2月の米国のシェール主要地区の原油生産量、さらに言えば米国全体の原油生産量が減少し、これまでの長期的な生産量の増加傾向が鈍化する可能性があります。

 これまでの米国全体および米シェール主要地区全体の原油生産量の増加傾向については、「原油相場の年末下落は米シェールにダメージ?OPECプラスは減産順守できるか!?」で解説しています。ご参照ください。

 寒波が米シェールに与える影響という観点で、2月19日にEIAが公表するバッケン地区の1月の原油生産量に注目したいと思います。

図7:米シェール主要7地区の原油生産量の推移 

単位:百万バレル/日量
出所: EIAの資料より筆者作成

 

「思惑」と「実態」が交錯する原油相場。思惑主導でどこまで上値を伸ばせるか

 今回のレポートでは、海外メディアが報じたデータを基に「OPECの1月の減産の進捗状況」「政情不安が高まるベネズエラの石油に関わる状況」「米国の大寒波が米シェール生産の伸びを鈍化させる可能性」について書きました。

 3つの材料を整理した図8をご覧ください。3ついずれも「思惑」と「実態」、両面を持っていることが分かります。

図8:現在の原油市場を取り巻く材料

出所:各種情報より筆者作成

 繰り返しますが、2月に入り原油相場は上値が重い展開となっています。図8の3つの材料が影響しているため、現在の原油相場が上昇方向にも下落方向にもトレンドが発生していないのであれば、市場参加者は、図8の上昇要因に結びつく「思惑」と、下落要因に結びつく「実態」の両面を意識している可能性があります。

 仮に今後「思惑」を材料として原油相場が反発したとしても、その裏側には下落要因になり得る「実態」が存在し続けている点にも留意が必要だといえます。逆に考えれば、価格反発のきっかけとなることもあると思います。

 原油相場は現在、「思惑」と「実態」が交錯していると言え、固定観念をできるだけ捨て、さまざまな角度から材料を観察していくことが重要です。