離脱協定案は大差で否決

 ブレグジット(英国のEU[欧州連合]離脱)の期限まで3カ月を切る1月15日、メイ首相が英国議会に提出したEU離脱協定案は、賛成202、反対432という歴史的・圧倒的大差で否決されました。

 これを受けて野党労働党のコービン党首はメイ首相に対する不信任投票を要求。しかし1月16日の投票結果は賛成306、反対325でこちらも否決。メイ首相はかろうじて信任されました。

 これにより、1月21日までにメイ首相は協定の代替案・プランBを提出することになります。プランBではバックストップ条項(※)に関し、EU側にさらなる譲歩を求める内容ですが、時間が限られているため大幅な変更は不可能。EU側も、英国の国内問題だとして応じる可能性は低いと伝わっています。

 ブレグジット派は、あまりもめ過ぎてEU離脱自体が中止になってしまっては元も子もないと、1回目(1月15日)は反対でも、2回目(1月21日)は妥協して賛成票を投じる考えだったようです。ところが1回目の議決で、想定の倍以上に反対が膨れ上がっていたため、これを覆すのは無理と言われています。

 英国議会は、いまや離脱賛成派vs.反対派という単純な構図では終わらず、与党内の賛成派の間でも意見が分かれて収拾がつかない状態。もはや総選挙しかない、という意見も出ています。内閣不信任案に失敗した労働党はというと、2回目の国民投票実施を呼びかけています。

 

 

プランBも否決、メイ首相が辞任した場合は?

 仮に1月21日にプランBが否決されてメイ首相が辞任した場合、2週間以内に新政府が成立しなければなりません。そうなれば、休日を除く25日後が選挙になるので、3月中旬頃に実施されることになります。ただ、メイ首相はブレグジットの期限日までは首相を続ける意思があり、総選挙の可能性は現在のところ低いと考えます。

 3月29日が、英国がEUを離脱する期限日。この期限日が延長されるかどうかにも、話題を集めてます。

 その直前の3月21~22日にEUサミットが開催されるのですが、これは重要イベントとなりそうです。なぜなら、このときにEU側が離脱期限を7月まで延長することを認める、さらにEU側がラストチャンスで譲歩案を示すのではないか、という大きな期待がかかっているからです。

 以上が3月までの重要なスケジュールとなりますが、現時点ではブレグジットがどのような方向に進むのか、誰も明確な答えを持っていません。

 あえていえば、現時点でもっとも可能性が高いのは、ノー・ディール・ブレグジット(条件を決めないまま離脱)であり、さもなければノー・ブレグジット(離脱中止)ということになります。

 

 ポンドの動きを見ると、ポンド/円はEU離脱協定案の投票前に140円前後から137.33円まで急落しましたが、その後は逆に買われ、再び140円台に戻す動きとなっています。

 マーケットは基本「ブレグジット反対」なので、期間延長や2回目国民投票というニュースに対してはポンド買いで反応する傾向があります。逆にノーディール・ブレグジットには売りとなるようです。とはいえ、ポンドもどちらに進べきか迷っている状況で、決まるまでには大幅なボラティリティを覚悟する必要があるでしょう。

※バックストップ条項とは

 ブレグジット最大の争点となっているバックストップについて、ここで簡単に説明しておきます。

 離脱協定で最大の争点となっているのが、北アイルランド(英国)とアイルランド(EU加盟国)との国境をどう管理するかということ。これがいわゆるバックストップ問題と呼ばれています。これは国境管理に解決策が見つからなかった場合のセーフティネットのようなもの。EU側は、北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を作らず、北アイルランドを関税同盟に残す案を提案しています。

 ところがそうなれば、同じ英国の北アイルランドとその他の地域が通商規制によって分断されることになります。さらに北アイルランド(英国)はEUの承認なしでは関税協定から脱退できなくなります。これを問題視するブレグジット強硬派議員らは、「ブレグジットの大義である英国のEUからの独立が永遠に失われてしまう」として、バックストップ条件の変更を要求しているのです。