去る2019年1月12日(土)、弊社主催の2019年新春講演会を開催しました。

 当日、ロビー内のブースにて「2019年原油相場の見通し」というテーマで、筆者はミニセミナーを行いました。このセミナーで使用した資料は、こちらの「2019年原油相場の見通し セミナー資料」からご覧いただくことができます。

 セミナー前後のブースでは原油を始め、さまざまなコモディティ(商品)銘柄について、今後の見通しや現状、これまでの値動きなどについて、お客さまより直接、さまざまな質問をいただき、その場で回答いたしました。

 今回のレポートでは、新春講演会で直接寄せられた質問の中で最も多かったプラチナについて解説します。

参考:プラチナ価格(ドル建て)の推移 

出所:CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のデータを基に筆者作成
単位:ドル/トロイオンス

 

欧州のディーゼル車販売台数急減で、ガソリン車がシェアを上回る

 プラチナ市場を考える上で、欧州の自動車事情に注目が集まります。

 図1のとおり、プラチナ全消費の40.83%が内燃機関(エンジン)を持つ自動車などの排ガスを浄化する触媒に使われています。中でも欧州での排ガス触媒向けの消費が全体の18.70%を占めています。

 このデータを見ると、欧州でのディーゼル車の販売が減少すれば、それに用いるプラチナの消費が減少し、プラチナ価格が低迷することが、一般的に連想されます。

図1:プラチナ消費の内訳(2015年)

出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

図2:欧州における乗用車の新規登録台数とディーゼル車の比率(右軸)

出所:ACEA(欧州自動車工業会)のデータより筆者作成

 2015年9月、欧州におけるディーゼル車需要を減少させるきっかけとなったVW(フォルクスワーゲン)問題発覚後、欧州の乗用車の新規登録台数に占める、ディーゼル車の比率の下落に拍車がかかりました。

 そして2017年には、欧州での乗用車登録台数におけるディーゼル車の割合は大きく減少、ガソリン車がディーゼル車を追い抜きました(2017年時点のシェア:ディーゼル車が44.3%、ガソリン車が49.3%)。

 2018年もこの傾向がより鮮明になり、ガソリン車のシェアが50%を超え、ディーゼル車が40%を割るとみられています(欧州のEV[電気自動車]などの次世代自動車のシェアについては2017年時点で6.3%と、4.7%だった2015年以降、徐々に上昇中)。

図3:欧州における乗用車の新規登録台数(左)、およびガソリン車とディーゼル車の比率(右)

 出所:ACEAのデータより筆者作成

この数年間、自動車排ガス浄化装置向けではなく、実は中国の宝飾需要が減少していた

 図4はプラチナ価格が直近で高値をつけた2011年、VW問題が発覚した2015年、そして2017年の国別のプラチナ消費量の推移です。

図4:2011年、2015年、2017年における国別のプラチナ消費量 

単位:千トロイオンス
出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

 2011年以降、その他(インド含む)の国々と日本の消費の減少が、2015年以降は中国の消費減少が目立っています。

 VW問題の舞台となった欧州や北米の消費はほとんど変化がありません。

図5:欧州のプラチナ消費量の推移

単位:千トロイオンス
出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

 図5の欧州のプラチナ消費量の推移を見ると、2015年から2017年にかけて、排ガス触媒装置向けの消費は横ばいだったことがわかります。その他の消費についても横ばいです。

図6:中国のプラチナ消費量の推移 

単位:千トロイオンス
出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

 図6の中国のプラチナ消費量の推移を見ると、宝飾品向け消費が減少しています。2015年の中国の宝飾品向け消費は全体の21.3%です(2015年時点)。

図7:日本のプラチナの消費量の推移 

単位:千トロイオンス
出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

 また、図7の日本のプラチナ消費量の推移を見ると、2011年から2017年にかけてガラス部門での消費が減少。2015年から2017年にかけて、排ガス浄化装置向け消費が減少しました(用途の詳細はコモディティ☆クイズ 今回のテーマは「プラチナ」! )で解説)。

図8:その他(インド含む)のプラチナの消費量の推移 

単位:千トロイオンス
出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

 図8のその他(インド含む)のプラチナ消費量の推移を見ると、その他(インド含む)では、日本同様、ガラス向けの消費が減少しています。宝飾品は2011年から2015年にかけて増加しましたが、2017年は2015年とほぼ同等でした。排ガス浄化装置向けは2011年以降、ほぼ横ばいでした。

 自動車の件とは別に、「プラチナの消費」のみで考えた場合、近年のプラチナ価格の下落・低迷については、中国の宝飾品向け消費が減少したことが主因で、日本やその他(インド含む)のガラス向け消費の減少が追い打ちをかけたと言えそうです。

 鉱山生産(ロシアや南アフリカなど)とリサイクル(自動車排ガス触媒からの抽出など)の生産面は図9のとおり、ほぼ横ばいで推移しています。

図9:プラチナの供給

単位:千トロイオンス
出所:World Platinum Investment Councilのデータより筆者作成

欧州のディーゼル車の台数減少でも、プラチナ触媒消費が減らない理由

 欧州のディーゼル車の台数が減少しても、欧州のプラチナの排ガス浄化装置向け消費は減少していません。想像の域を超えませんが、筆者は次の理由からだと考えています。

1台あたりの量

 環境規制の厳格化への対応のため、1台あたりの排ガス浄化装置に使うプラチナの量が増えた

コスト

 現在、プラチナはパラジウムより価格が安く、排ガス浄化装置を製造する際のコスト削減になるため使い続けられている

施設・インフラ

 パラジウムを使用した自動車部品製造のためのインフラ整備が追いついていないため、プラチナを使い続けている

在庫消費

 過去、積み上げたプラチナの在庫があるため、その在庫を使い続けている

製造地と登録地の問題

 プラチナを排ガス浄化装置に用いた自動車が輸出されている

 また、プラチナを排ガス浄化装置に用いたガソリン車も多くはないものの、一定量存在するため、必ずしも「ディーゼル車減少=プラチナ消費減少」とは言えない点にも注意が必要だと思います。

図10:プラチナとパラジウムの価格

単位:ドル/トロイオンス
出所:CMEのデータを基に筆者作成

図11:EUの乗用車輸出台数

単位:台
出所:EUROSTATのデータより筆者作成

プラチナ価格上昇は、中国の宝飾向けが回復することが必要

 プラチナ価格が今後、本格的な反発傾向を迎えるには、次の点が大きなカギを握ると考えています。

(1)排ガス触媒向け消費が減少しない

(2)中国の宝飾品向け消費が回復する

 VW問題をきっかけとして欧州のディーゼル車台数の減少は起きているものの、それが直接的に欧州のプラチナ消費を、減少させてはいません。現在のプラチナ価格低迷はある意味、市場参加者の「ディーゼル車減少=プラチナ消費減少」という固定観念が影響しているのだと思います。

 今後、欧州の排ガス浄化装置向けプラチナ消費の減少がデータに表れた(懸念が実態となった)ときは、プラチナ相場は苦しい状況になるとみられます。

 今後も予断を捨て、自動車事情はもちろん、プラチナの排ガス浄化装置向け消費、中国の宝飾品向け消費などのデータを注視していきたいと思います。