しんた:高校2年生。中学からお年玉のお金で運用をしているインテリ高校生。クイズ研究部の部長

 

ひな:しんたの同級生。クイズ研究部の部員

 

 

先生:社会担当で、クイズ部顧問のくるみ先生

 

 

 

2018年日経平均株価の動きをおさらい

先生今、株価が下がっているんだけど、金融市場で何が起きていると思う?
ひな:何か、起きているのですか?
先生:まずは、2018年の日経平均株価の動きを見ていこう。

日経平均株価終値(日次) 2017/12/25~2018/12/25

Bloombergデータより楽天証券作成

ひな:2018年2月の日経平均株価の急落は、ニュースになったね。
しんた:「アメリカの金利が急上昇」したことで、NYダウが下落。連動して日経平均も急落したんだよね。
先生そう。「銀行などから借りている企業は、金利があがると支払いが増える」から、「業績悪化懸念で株が売られた」。

ひな:その後、「安倍政権継続」が決まって9月に上昇してる。
しんた:政権継続は「予想通り」だったのに、選挙の後に株価が上がったのは、なんでだろう?

先生:海外の大きな投資家は、「安定政権」を探しているの。「国策」が安定するからね。だから、「安倍政権継続」で、「国策」も安定すると見て買い上がったケースも考えられる。ちょうど、米国は中間選挙前。ドイツやイギリス、イタリアなどもちょっと不安定な時期でもあったし。

 

なぜ10月以降、日経平均は下落したの?

ひな:そのあと下がっているね。
先生その理由は、主に4つの要因だと考えているよ。

1.米国の中間選挙

先生まずは、11月の「アメリカの中間選挙」。
しんた:安定している日本に比べて、トランプ政権が「不安定」になったことが露呈したんだよね。
ひな:日本は安定していると思われたのに、アメリカに引っ張られて下落したって……。
先生:日本は、皮肉なくらいアメリカに影響されているの。

2. アメリカvs中国の貿易摩擦

先生次に、今年一番相場を動かした「アメリカと中国の貿易摩擦」。
ひな:貿易している商品に、税金をかける、かけないって議論していますよね。

先生そんな中、12月にファーウェイ幹部が逮捕。しかも米中首脳会談の直後に。

しんた:なんか怪しい……。
先生疑うよね。事実、次世代通信(5G)の覇権争いではないか、とも言われているよ。次世代通信の競争ともなると「アメリカvs中国」はしばらく続くだろうね。

しんた:あれ? でも「株価の下落」は、10月から。米国中間選挙は11月で、ファーウェイは12月。
先生その通り! 10月からの下落は、主にあとの2つの要因と考えられているわ。

3.アメリカの金利上昇

先生株価と密接に関わっているのは「金利」。
ひな:先生、さっき、金利が上がると、株価が下がりやすいって言ってましたね。
先生:下のグラフはアメリカの金利の動きだよ。

米国10年国債終値(日次) 2017/12/22~2018/12/24

Bloombergデータより楽天証券作成

ひな:日経平均が下がった2月は、金利が急上昇している!
しんた:10月の始めにも急上昇。どちらも株安のきっかけになっているんだ。

ひな:金利上昇と株価下落は関係しているんだ!
しんた:でも、待って! 11月以降は、金利も下げて、株価も下がっているよ。なんでだろう?

先生:アメリカ経済やトランプ大統領への不安感もある。あとは、大きな投資家が、「株を売って債券を買った」と考えられるね。「ある程度金利が上がったら、株を売って、債券を買う」って、決めてたのかな。資金が大きいから、株価への影響への大きいと思うの。

4.原油の下落

次は、株価への影響が大きい原油価格のデータを見て。

WTI原油価格終値(日次) 2017/12/22~2018/12/24

Bloombergデータより楽天証券作成

ひな:10月に入ったとたんに下落!
先生:きっかけは、10月2日起きたあの事件。

しんた:あ……。
ひな:あの怖いやつだ!

くわしくは「サウジ記者殺害でリスク上昇も、上がらぬ原油価格のナゾの裏側」>>

ひな:「サウジアラビアの記者殺害」のニュースですね。
しんた:これ、株の下落と関係するんですか?

先生:「産油国同士のバランスが崩れると、原油価格は下がりやすい」。
しんた:そっか。原油価格が下がると、関連企業の収益が悪化して、株価も下がるってことか。

先生:そう。そして今回は、「厄介なオマケ」がついてきたのよ。
ひな:厄介なオマケ……?

先生:原油とシェールガスって、価格の上下動も、業者間の競争も、どっちも激しいの。だから、利益が薄いし、いざと言うときの現金の蓄えなども少ない企業が多い。つまり、信用力が低い企業が多いのね。そんな状況で、2018年10月以降、原油価格は急落、金利は3%を超えました。さて、何が起きる?

しんた:原油とシェールガスの会社の収益が悪化。利息の支払いが増加するから、さらに収益が悪化。そして株価は下落、って感じかな?

先生:その通り。それが起こりつつある。

ひな:ええ!? じゃあ株価下落は止まらないの?
しんた:でも原油価格の下落がストップすれば止まるってことじゃない?

先生:予想以上に下げたことで、買おうとする人たちが出てくる可能性もあるね。
ひな:まだ株価は動きそうだねー。

 

厄介なオマケの正体

先生:信用力が低い米国の石油関連企業は、銀行からの借り入れや、社債を発行して必要な資金を作っているの。別名、信用力が低い企業の銀行からの借り入れは「バンクローン」、社債は「ハイイールド社債」って呼ばれている。重要なポイントは、米国のバンクローンとハイイールド社債は、活発に売買されていること。日本では、銀行のローンはほとんど売買されていないし、社債は一定以上の信用力がある企業しか発行できないから、ちょっとイメージしにくいかもしれないけどね。

しんた:なるほど。ってことは、「収益が悪化、利払いは増加、株価は下落」の次に来る厄介なオマケの正体は、「信用力が低い企業のハイイールド社債やバンクローンの売買価格が下がる」ってことですか。

先生:正解。

ひな:でも、社債やローンの売買価格が多少下がったところで、どんな影響があるの?
先生:ハイイールド社債やバンクローンは、株や債券ほど売買の参加者が多くない。参加者が多くない、ってことは、値段が一方向に動き始めたら、止まらない可能性が高い。

ひな:ひょえー。
先生:そこで、バンクローンの売買流通価格の推移がこれ。

S&Pバンクローン売買価格終値(月次) 1998/12~2018/12

Bloombergデータより楽天証券作成

しんた:何?この下げ方!リーマンショックのとき!!
ひな:下がるのも、上がるのも、すごい角度ですね。
先生:それそれ!ひなちゃん! さっき言ったとおり、一方向に動いたら止まらないでしょ?

しんた:そっか、先生。参加者が少ないから、値段の上下が他の商品よりも荒いんですね。しかし、バンクローンの売買価格で見ると、今回の下落はそれほど深くないような……。
先生:下のグラフを見て。

バンクローンETF終値(週次) 2011/3/4~2018/12/21

Bloombergデータより楽天証券作成

ハイイールド社債ETF終値(月次) 2007/4~2018/12

Bloombergデータより楽天証券作成

しんた:最近も下がってますね…。
ひな:不安ですね。

先生:ちなみに、前回の原油安では、2016年の1月と2月に、30ドル割れを記録しているわ。上のグラフ、その時期に安値をつけているわね。
ひな:今回、既に同じ水準まで下がってます!

厄介なオマケのオマケ!

先生:もうひとつ、オマケがあるの。
しんた:まだあるんですか!
先生:しんた君、リーマンショックの引き金が「サブプライムローン」って言ってたね。(16話

しんた:はい。

先生:確かに、サブプライムローンなんだけど、より一層混乱を深めた原因は、「サブプライムローンを含んだファンドや証券化商品」だったのよ。詳しい説明は省略するけど、当然、サブプライムローンそのものよりも参加者は少ないから、値段の上下ももっと激しい可能性が高い。

ひな:それが売りに拍車をかけた、ってことですね。
先生:それで溝が深くなったんだけどね。

しんた:まさか……。今回のバンクローンも同じ、ってことですか?

先生:そのとおり。大量のファンドと大量の証券化商品が出回っているわ。しかも、日本の銀行をはじめとする機関投資家が大量に買っているみたい。
 それにね、サブプライムローンって、「信用力の低い個人向け住宅ローン」だったでしょ。バンクローンやハイイールド社債って、「信用力の低い中小企業向けローン」なの。どちらも、金融マーケットの中心である、米国の資産よね。しかも、「信用力が低い」。

しんた:! 先生、以前、僕たちは、機関投資家(銀行や生命保険会社など)の動きを議論したことがあるんです。(第11話)

先生:今回、下げが続いたときに、2月か3月にちょっとした投資チャンスが来るかもしれないって話ね。

しんた:そうそう。
先生:しんた君、アノ話(第11話:機関投資家の決算期に注目)を聞いたときに思ったんだけど、今年の日経平均、チェックしてみた?

しんた:まだです。
先生:これを見て。

日経平均株価終値(日次) 2017/12/25~2018/12/25

Bloombergデータより楽天証券作成

しんた:!!!!! 先生、2月の急落を受けて、3月23日に安値2万617円をつけて、10月2日の2万4,270円まで上がってます!

先生:そうね。安値は無理でも、2万2,000円以下で買うことは十分に可能だし、高値で売らなくても、5%から10%くらいで利益確定はできそうね。

ひな:機関投資家の法則、今年も当たってたんだ!

先生:おさらいと言う意味では、第16話のJ-REIT(ジェイ・リート:国内の上場不動産投資信託)もそうよ。しんた君のお父さん、「J-REITは1,600ポイントと1,800ポイントの間にいる期間が長いから、1,800ポイントを超えると、利益確定の売りに押される可能性がある。」って言ってたわね。

しんた:はい。
ひな:まさか、先生。

先生:まさかよ、ひなちゃん。これ見て。

東証J-REIT指数(日次)  2016/12/22~2018/12/25

Bloombergデータより楽天証券作成

しんた:1,800ポイントで押されてます!
ひな:ひょえー。

 

今後はどうなる?

先生:今後の見通しに移りましょうか。
しんた:はい。
先生:まずは、足元で確認された内容は、来年も継続するのか?

  • トランプ政権不安:継続しそう
  • 米中貿易摩擦:継続しそう
  • 金利上昇→景気後退不安:今のところ、金利上昇は一服。今後は不明
  • 株→債券の資金シフト:今後は不明
  • 原油価格:足元で下げ継続中
  • バンクローン:足元で下げ継続中
  • ハイイールド社債:足元で下げ継続中

 あとは、アメリカの減税効果は来年なくなるので、企業収益は大きな期待はできない。ただし、米国政府が新たな減税やそれに代わる政策をやれば別だけど。

しんた:先生! ネガティブな面ばかりですが、ポジティブなものはないんでしょうか?

先生:うーん。あまりない、かな。そもそも、アベノミクスと時を同じくして、FRB(米連邦準備制度理事会)も欧州のECB(欧州中央銀行)も、日本の日本銀行と同じく、量的緩和をやったから、いろいろな資産の価格が上がってしまって、「割安」な資産が少ない状態なはず。だから、ここから大きな上昇が望める資産、ってよほど運がよくないと見つからないような気がする。

ひな:でも、よく聞く「下げたあとで反発」、っていうのはありますよね?

先生:欧米では、12月末が年度末だから、大きい投資家も含めて、1月から新年度になるの。だから、投資方針も1月から変更になるケースが多いんだよ。下がった資産が「割安」だと判断すれば、買ってくる可能性はあるわ。でもね、仮に、「下げた後で反発」があるとして、私たちが下がったところで上手に買えて、上がったところで上手に売れると思う?

しんた:うーん、僕たちでは難しいですね。

先生:私なら来年の2月末から3月末の間に日経平均インデックスを少し買ってみる。積み立てを開始してもいいかも。
 思いっきり相場が崩れていたら、「バンクローン」や「ハイイールド社債」のファンドなんかも面白そうだけどね。それで、しばらくして上がってきたら、「利益確定」。やってみないとわからないからね。「経験値」って、とても大事だから。

ひな:先生、男らしい……!
しんた:僕たちも、無理のない範囲で考えてみよう!