日産自動車株が急落。予想配当利回りは6%まで上昇

 東京地検特捜部は19日、カルロス・ゴーン日産自動車会長を、金融商品取引法違反容疑で逮捕しました。有価証券報告書の虚偽記載容疑がかけられています。自身の報酬を5年間で合計約50億円、過少に記載した疑いがあります。うち約40億円は株価連動報酬で、残りは海外子会社から受け取った報酬などと考えられます。同社のグレッグ・ケリー代表取締役も、虚偽記載に加担した容疑で逮捕されました。

 カルロス・ゴーン氏は、仏ルノー、日産自動車、三菱自動車3社の会長を兼務し、日仏3社連合を主導してきましたが、日産と三菱自動車は、ゴーン会長を解任する方針を発表しました。ルノーの対応は未定ですが、ルノー株15%を保有する大株主であるフランス政府から「ゴーン氏は経営を続けられる状態にないので、暫定的経営体制を構築する」方針が発表されました。

 報道を受け、日産株は20日、前日比54.8円(5.5%)安の950.7円まで売り込まれました。同社は、予想配当利回りの高さで、個人投資家の人気が高かった銘柄です。株価急落によって、配当利回りはさらに上昇、6%に達しました【注】

【注】予想配当利回りの計算方法

 日産自動車が開示している今期の1株当たり年間配当金(会社予想)57円を、株価で割ることによって、予想配当利回りを計算。ゴーン会長逮捕がわかる前の19日終値1,005.5円で割って計算した配当利回りは5.7%だが、株価が急落した20日終値950.7円で割った配当利回りは6.0%に上昇。

日産自動車の株価と予想配当利回り推移:2018年1月4日~11月20日

出所:楽天証券経済研究所が作成

PERや配当利回りから割安に見える自動車関連株。収益基盤のもろい企業には要注意

 自動車関連株は、もともと、貿易戦争でダメージを受ける懸念、世界景気が減速する懸念から株価低迷が続き、PER(株価収益率)や配当利回りから見て、割安なバリュエーションに据え置かれています。中でも、日産自動車の株価指標で見た割安度が際立っています。ただし、配当利回りやPERだけで銘柄選別すべきではありません。投資するならば、貿易戦争や世界経済の減速に対し、ある程度、抵抗力がある銘柄を選ぶべきです。

自動車・タイヤ株のバリュエーション比較:11月20日

出所:各社決算資料より作成。PERは11月20日株価を今期1株当たり利益(会社予想)で割って算出、配当利回りは今期1株当たり配当金(会社予想)を11月20日株価で割って算出、ただし、トヨタ自動車の配当金は楽天証券予想。営業利益率は、今期営業利益(会社予想)を今期売上高(会社予想)で割って算出

 上の表で、注目していただきたいのは、営業利益率です。上の5銘柄は営業利益率の高い順に並べてあります。ブリヂストン、トヨタ、デンソーが相対的に高く、本田、日産が相対的に低いことがわかります。

 収益基盤が安定的で、世界景気の減速に抵抗力がある会社ほど、営業利益率が高い傾向が見て取れます。上の5銘柄では、営業利益率が一番高いブリヂストンが、一番投資価値が高いと判断しています。営業利益率の低い会社ほど、投資リスクは高いと判断しています。詳しくは、以下のレポートを参照してください。

11月1日:ブリヂストンがトヨタよりも投資価値が高いと考える3つの理由

日産自動車は、これからどうなる?

 それでは、いよいよ本題。ゴーン会長去った後、日産がどうなるか考えます。とは言っても、今回の逮捕劇の背景に何があるか、現時点でわからないことが多すぎます。

 一定の前提条件のもとで考えられる、最善と最悪のシナリオについて、考えます。

最善シナリオ:ルノーとの「不平等条約」解消、日産は経営自主権を取り戻す

 日産は、経営危機に陥っていた1999年にルノーから約8,000億円の出資を受け、経営危機を脱しました。最高経営責任者に就任したゴーン氏のもとで1兆円を超えるコストカットを行って財務を立て直しました。その後、世界中で販売を拡大し、高収益企業に生まれ変わりました。そして、ルノーが収益悪化に苦しむ間、逆にルノーを支える存在となりました。

 ただし、経営危機を救ってもらった時にできたルノーを親会社とする経営体制は変わっていません。現在でも、ルノーは日産の発行済株式の43.4%を握る親会社です。日産は、ルノー株を15%保有していますが、ルノーの子会社であることは変わっていません。

 日産の経営は事実上、ルノーに握られた状態が続いています。ルノーが弱体化し、日産から得られる配当金や日産の技術開発力に依存しなければならなくなるにつれ、その歪みが目立つようになりました。

 それでも、ルノー支配の経営が延々と続いた裏には、カリスマ経営者としてのゴーン氏の存在がありました。ゴーン氏がルノー、日産、三菱自動車の3社の最高経営責任者を兼務し、3社連合をルノー主導で動かす司令塔となっていました。

 今回のゴーン氏逮捕劇は、内部通報から始まっています。通報から社内調査が始まり、西川(さいかわ)社長を中心に、地検特捜部と緊密に連携して、今回の逮捕まで結びつけました。ゴーン氏には、今回の逮捕要件となった虚偽記載の他にも、社内投資資金や経費の私的流用の疑惑もかかっています。

 西川社長は、これを機にゴーン氏を解職し、日産の経営自主権を取り戻す狙いがあると考えられます。実際、ゴーン氏が去った後は、ルノー、日産、三菱の3社連合の主導権は、日産に徐々に移っていくことが想定されます。なぜならば、3社連合が崩壊した時に、最大のダメージを受けるのは、日産ではなくルノーと考えられるからです。

 ルノーは20日、「3社連合は(ゴーン氏逮捕後も)変わらない」と声明を出しています。西川社長も、「3社連合は変わらない」と発言しています。

 日産にとって、短期的な企業イメージ低下などのダメージはありますが、長期的には経営自主権を取り戻し、コンプライアンス体制を強化する重要な転機になる期待もあります。

最悪シナリオ:ルノー、日産、三菱の3社連合が崩壊。3社ともダメージを受ける

 今後、ルノーと日産の対立が深まり、3社連合が迷走するリスクも、現時点では考えておく必要があると思います。そうなると、日産の欧州販売が大きく落ち込むなど、さまざまなダメージが出てくる可能性があります。

 最善と最悪のシナリオ、両方を頭に置いた上で、今後起こることが、どちらにより近いか見ていきます。今後、気付いたことがあれば本欄で報告いたします。

 

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