百貨店株を割安株として評価できない理由

 来年10月の消費増税を控え、百貨店には逆風が吹くとみています。一方コンビニ首位のセブン&アイHD(3382)や、食品スーパーのヤオコー(8279)ベルク(9974)は軽減税率の恩恵を受ける可能性が高いです。軽減税率の対象は、スーパーやコンビニなど持ち帰りが主体の食品などになる予定です。軽減税率の概要は以下の記事で述べています。(2018年10月17日「消費セクターの年末テーマは「軽減税率」。スーパー、コンビニ、フードデリバリーは悪材料を乗り越える?」

 百貨店株は、高島屋(8233)(PBR0.75倍)、三越伊勢丹HD(3099)(同0.92倍)などPBR(株価純資産倍率)が1倍を割れているものが目立ちますが(11月12日終値時点)、それでも現時点では割安株として評価することはできないと考えています。理由は以下3点です。

  1. 消費増税など外部リスクの高まり
  2. 成熟市場
  3. 低収益性

 百貨店株を投資対象として評価できるようになるには、百貨店型事業の収益性改善が必要だと思います。百貨店各社は、ショッピングセンターやオフィスフロアの開発など賃料ビジネスを強化して収益性を高めようとしていますが、未だ構成比の高い百貨店事業が足かせになっています。イオンモール(8905)などの競合と異なる成長戦略も必要でしょう。

 

1.消費増税や株価指数など外部要因リスクの高まり

 冒頭でも述べましたが、来年の消費増税は百貨店にネガティブなインパクトを与えるでしょう。増税と直接の関係がないインバウンド需要により影響は緩和されるとみられますが、アパレルを中心に小売りの稼ぎ時となる秋冬に増税となるためインパクトが大きそうです。ドンキホーテHD(7532)の決算説明会では、「(同社の販売は堅調だが)消費者が買い物に冷め始めた可能性がある。消費増税を意識し始めたのかもしれない」というコメントがありました。今後の消費マインドについては注視する必要があります。

 

2.成熟市場

 日本の小売市場は成熟しており、その市場のなかでシェアを拡大するか、海外で需要を獲得しなければトップライン(売上高)の成長は見込めません。この点、小売業界の中でも百貨店の環境は厳しいです。経済産業省の「商業動態統計」によると、ピークの百貨店の売上高は1991年で規模は12兆円でした。その後、

  • 生産年齢人口のピークアウト、消費者の物欲低下、節約志向の高まりといったマクロ的要因
  • ショッピングセンター、SPA型小売り、オンラインショッピングの台頭といった競合要因
  • 消化仕入(※)という独特の商取引や展開商品の同質化といった内部要因

 などにより、2017年の百貨店売上高は6兆5,529億円まで縮小しています。

※消化仕入:売上が計上されたと同時に仕入れが計上される取引形態。売れ残りの在庫リスクは百貨店ではなく、卸業者やメーカーが負うことになる。多種多様な商品を豊富に品揃えする際に有用だが、百貨店側が主体的に売り切る力が育ちにくい側面もある。

 厳しい環境に打ち勝つべく百貨店は様々な取り組みを実施していますが、国内SPA(製造小売り)やEコマースと競争し、国内の小売りシェアを取っていけるのか現時点では不透明です。百貨店のファンは根強いと思いますが、その一方、館内を歩き回る時間がない、店員が多くいてリラックスできないことなどを理由に、百貨店やショッピングセンターを避け、オンラインショッピングを選択する消費者も生まれています。

 

3.低収益性

 百貨店は以前から収益性の低さが指摘されている業態です。百貨店事業はマージンが低い消化仕入れという形態である上、大きな館を運用するコストや人件費がかかります。各社の収益性を確認すると以下の通りです。

三越伊勢丹HDの収益性

高島屋の収益性

J.フロントリテイリングの収益性」(日本基準

出所:会社資料より楽天証券作成

 

 三越伊勢丹HDの営業利益率やROE(自己資本利益率)が低水準であることが確認できます。高島屋の営業利益率やROEも、株式投資先候補として魅力的とは言えない水準です。J.フロントリテイリング(3086)が相対的に健闘しており、これが、J.フロントリテイリングの株価がPBR1倍を超えて評価されている理由と考えられます。

どのタイミングで再評価されるか

 高島屋や三越伊勢丹HDが再評価されるには、収益性改善のスピードアップが必要と考えられます。両社ともに利益率の高い賃料ビジネスを拡大させる方針であり、その部分は市場でも既に認識されているとみられます。しかし、主軸となる百貨店事業の利益率の低さが足かせになっています。百貨店事業の迅速な収益性改善が期待されます。

 事業別に2社のセグメント別利益率を確認すると、2社の不動産事業は収益性が高く営業利益への貢献度も既に高いですが、百貨店事業の営業利益率は1%台にとどまっています。

高島屋のセグメント別業績(2018年2月期) (単位:百万円)

 

三越伊勢丹HDのセグメント別業績(2018年2月期)(単位:百万円)

 

 この点、J.フロントリテイリングの百貨店事業の収益性は他社を上回っています。2018年2月期の高島屋単体の営業利益率は1.8%でしたが、J.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店の営業利益率は、日本基準の売上高から計算すると2017年2月期が3.5%、2018年2月期が4%でした。従業員1人あたりの売上高をみると、大丸松坂屋百貨店が健闘していることが分かります。J.フロントリテイリングは、1997年に大丸の社長に就任した奥田務氏の時代から、10年以上をかけて百貨店事業の構造改革に積極的に取り組んできました。その成果が数字になって表れています。

2018年2月期従業員一人当たりの売上高・営業収益

  • 大丸松坂屋百貨店(J.フロントリテイリング):289百万円
  • 高島屋単体:151百万円
  • 三越伊勢丹単独:129百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

 

 高島屋、三越伊勢丹HDには従業員配置の見直しなどを含めた抜本的な構造改革が望まれます。

 また、百貨店や百貨店系ショッピングセンターの強みをどう活かして小売りのシェアを取っていくのかというトップラインのストーリーも求められます。J.フロントリテイリング、高島屋、三越伊勢丹HDは大都市の一等地を有していることが強みであり、その資産をオフィスビルに活かして収益性を改善させる施策が取られていますが、小売業を展開している以上、小売りとしての成長戦略も望まれます。

 この点、各社はそれぞれ以下のような取り組みで成長性を模索しています。これらの取り組みが成功したか判断するには時間を要しますが、その動向に注目が集まっています。

 各社の取り組み例は以下の通りです。

・J.フロントリテイリング

 銀座松坂屋の跡地を活用して、2017年に銀座に「GINZA SIX」をオープン。百貨店独特の消化仕入方式ではなくショッピングセンター形式を採用し、各テナントから賃料を得るモデルです。施設計画及び運営には、同社のほか、数多くの実績を誇る森ビル、世界的なラグジュアリーブランドであるLVMHグループ、住友商事(8053)が携わり、個性的、快適、かつ銀座らしいラグジュアリーなショッピングセンターを実現しました。筆者が訪れた際は欧州系観光客が多く見られました。今後も持続的に人々が訪れ商品を購入するかが注目されます。

・高島屋

 日本橋高島屋を核としたショッピングセンター「日本橋高島屋S.C.」の新館が2018年9月にオープンしました。オフィスワーカーが多いエリアであることから、ランチや帰り道に気軽に立ち寄れるイートインスペースが充実しています。朝7時半からオープンしているカフェやヨガスタジオもあり、周りで働く人々にとっては便利なスポットになりそうです。実際に足を運んだところ、フードエリアはバラエティに富んでおり、人が多く活況でした。今後は、食品以外のアパレルや雑貨まで販売を波及させられるかが注目されます。

・三越伊勢丹HD

 消費者目線という観点を強く意識した戦略。「百貨店で普段買い物をする」、いわゆる資金と時間に余裕のある少数派だけではなく、「百貨店で普段買い物をしないが、百貨店グレードの買い物はする」層と「百貨店で買い物をしたことがない」層を顧客に取り込もうとしています。店員がいるカウンターを避ける声を参考に、好きにサンプルを使える化粧品催事を開き好評を得たほか、自宅に衣類を数アイテム送り、気に入ったアイテムを買い取ってもらうビジネスや、ドレスワンピースのレンタルビジネスなど、百貨店を普段利用しない層に向けた様々な戦略をテスト中です。