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任天堂(7974)

 

1.2Q決算前に任天堂関連のデータを確認する

 今回の特集は、「任天堂」です。2018年10月30日発表の2019年3月期2Q決算(説明会は10月31日)の前に、そして、2018年クリスマスシーズンの前に任天堂関連のデータを確認したいと思います。

 まず、国内でのニンテンドースイッチ・ハード、ソフトの販売数量(ここでソフトは任天堂製のみ。出所はファミ通.com)の推移を見ます(グラフ1、2)。国内のニンテンドースイッチ・ハード、ソフトの販売は堅調に推移しています。伸びはありませんが、落ち込むことなく売れています。2017年7月に人気ソフト「スプラトゥーン2」が発売されたため、今年の夏はその反動で任天堂製ソフトの販売に伸びがなくなっていますが、ハードウェアの累積効果(ハードの累計販売台数が積み上がり、その上にハード1台当たり年間数本(2~3本以上)のソフトが販売されることで、ハード以上にソフトが伸びる現象)が発揮されているため、ソフトに大きな落ち込みはありません。

 国内のゲーム市場は欧米市場と同じく、クリスマス商戦、(日本特有の)年末年始商戦で数多くのハードとソフトが売れる市場になっています。そのため、任天堂にとっての本番は10-12月期から1-3月期にかけて、特に11、12、1月になります。

 国内のハード累計販売台数は8月下旬に500万台を突破しました。1タイトル100万本以上の大型タイトルが出る素地が出来ていると思われます。後述のように、11月発売の「ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ・イーブイ」、12月の「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」に大きな期待がかかっています。

グラフ1 ニンテンドースイッチ・ハードウェアの販売台数

注:日本のみ
単位:台
出所:ファミ通.comより楽天証券作成

グラフ2 ニンテンドースイッチのハード累計販売台数と任天堂製主要ソフト販売本数:日本

単位:万台、万本
出所:ファミ通.comより楽天証券作成

 

2.ニンテンドースイッチは、全世界でハード販売は堅調、ソフト販売は好調

 日本、アメリカ、欧州、その他地域を合わせた全世界ベースでのニンテンドースイッチ・ハード販売台数を見ると(VGChartzによる)、日本、アメリカ、欧州は横ばいの状況が続いていますが、その他地域では増加しており、全世界では前年を上回っています(グラフ3 、VGChartzによる。本稿執筆時に公開されているのは2018年9月1日に終わる週までの数字であり、約1カ月半遅れる)。2018年4-8月は全世界で前年比16%増でした(2018年4-6月は同20%増、2018年7-8月は同11%増)。

 またソフト販売本数は、2018年4-8月の全世界向け合計が前年比59%増になっています(グラフ3、VGChartzによる)。2018年4-6月は同64%増、2018年7-8月は同53%増でした。任天堂会社予想のニンテンドースイッチ用ソフト販売本数(任天堂製、サードパーティ製を含む)は今期1億本(前年比57%増)なので、この伸び率はシーズン前としては良好なものです。

 任天堂製ソフトだけでなく、特に日本のサードパーティ(スクウェア・エニックス・ホールディングス、コーエーテクモホールディングス、バンダイナムコホールディングス、カプコンなど)からソフトが継続的に発売されるようになったことがソフト販売に寄与しています。日本国内でのニンテンドースイッチ用ソフト販売本数の中での任天堂製比率は4月に70~80%でしたが(ファミ通.comのデータから計算)、7~8月は50~60%になりました。サードパーティのソフトが増えたことで、バランスの取れた市場になったと言えます。

 ただし、10月は「スーパーマリオパーティ」が発売されたため、任天堂比率は再び上昇しています。クリスマス商戦も任天堂比率は高いと思われますが、採算の良い任天堂製ソフトの販売が増えることで、クリスマス商戦は任天堂の業績に大きく寄与すると予想されます。

 なお、VGChartzのハード、ソフト販売数量は捕捉率が高くなく、小売ベースであり、任天堂が公表している卸売ベース(任天堂出荷ベース)の販売数値とは異なります。ただし、大まかなトレンドを捉えることは十分できると思われます。

 またグラフ4は、週次ベースで「ソフト販売本数÷ハード販売台数」を全世界で見たものです(VGChartzから計算)。ハード1台に対するソフトの販売本数が傾向的に上昇していることがわかります。通常新規にハードを1台買う人は、同時にソフトを1~2本買います。グラフ2の「ソフト販売本数÷ハード販売台数」が今年に入ってから3~4本/台で推移しているのは、新規にハードを1台買った人だけでなく、過去にハードを買った人が継続的に3本目、4本目のソフトを購入しているためと思われます。ちなみにグラフ4のピークは昨年10月の「スーパーマリオオデッセイ」発売の時です。

 グラフ3、4を合わせて考えると、ニンテンドースイッチは熱心なユーザーが多い、稼働率の高い、アクティブなハードウェアであると言えます。

 任天堂は9月20日から有料のニンテンドースイッチオンラインを開始しました(1カ月300円、12カ月2,400円、いずれも税込価格)。ソニーがPS4の会員制サービスで成功したように、任天堂もニンテンドースイッチオンラインによって、熱心にスイッチで遊ぶロイヤルティの高いユーザーを継続的に獲得できる可能性があります。その場合、ハードの伸びに従ってソフト販売が伸びる従来の家庭用ゲーム会社の成長パターンだけでなく、スイッチ・ハードの伸びが低くとも、ハード累計販売台数1台当たりのソフト販売本数が増加することによって、高い利益成長が実現できる可能性があります。

グラフ3 ニンテンドースイッチ・ハード、ソフト販売数量:全世界

単位:台、本、週次
出所:VGChartzより楽天証券作成

グラフ4 ニンテンドースイッチ・ハード1台当たりソフト販売本数:全世界

単位:本/台、週次ソフト販売本数÷週次ハード販売台数
出所:VGChartzより楽天証券作成

表1 サードパーティ製ニンテンドースイッチ用ソフトの発売タイトル数(2018年9月までの実績)

出所:任天堂ホームページより楽天証券作成
注:バンダイナムコホールディングスはバンダイナムコエンターテインメントブランドのみ

 

3.「ポケモン新作」と「大乱闘スマッシュブラザーズ」に期待

 クリスマスシーズンのニンテンドースイッチ注目ソフトは、「スーパーマリオパーティ」(10月5日発売)、「ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ・イーブイ」(11月16日発売)、「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」(12月7日発売)の3作です。このうち既に発売された「スーパーマリオパーティ」は日本では発売初週12.6万本、2週目6.5万本と順調な滑り出しでした(ファミ通.comによる)。「スーパーマリオパーティ」は、クリスマス、正月向けのパーティゲームなので、11、12月になると大きく売れる可能性があります。

「ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ・イーブイ」は、今回のクリスマスシーズンで最も期待されるソフトです。目玉は、スマホゲーム「ポケモンGO」で獲得したポケモンたちを「ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ・イーブイ」の中で使って遊ぶことができる、「ポケモンGO」との連動機能です。ポケモン新作は、通常発売後1年で1,000~1,500万本以上売れるものですが、今も全世界に1億人以上入ると思われるポケモンGOのアクティブユーザーに対して、この新機能がどう訴求するか、注目されます。

 ポケモンGOユーザーがこの新機能から刺激を受ける場合、「ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ・イーブイ」は年度内で1,000~1,500万本以上、来期中に累計2,000万本以上の売り上げを達成する可能性があります。そうなれば、任天堂の業績にも好影響があると思われます。

「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」も注目されます。これも任天堂の定番ソフトですが、他社の人気キャラクターが数多く登場する贅沢な作りになっています。

 これら3作に、今年6月発売の「マリオテニス エース」、前期に発売された「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「マリオカート8デラックス」「スプラトゥーン2」「スーパーマリオ オデッセイ」の5作を加えた計8作が2018年クリスマスシーズンの任天堂の「定番ソフト」になります。11月以降のソフトの売れ行きに注目したいと思います。

表2 ニンテンドースイッチ用ソフトの発売スケジュール(任天堂製または任天堂が販売権をもっているソフトのみ)

出所:任天堂ホームページより楽天証券作成

 

4.スマホゲームは、「ドラガリアロスト」が課金売上高ランキング上位に

 2018年9月27日に配信開始となった「ドラガリアロスト」(開発はサイバーエージェント、運営は任天堂とサイバーエージェント)は、10月17日(水)19時の日本のiOS課金売上高ランキングが9位、18日(木)19時4位、19日(金)9時現在7位となっています(出所はアップランク)。配信開始から着実に順位を上げてきました。アメリカではiOS課金売上高ランキング(ゲーム)が17日11位、18日20位となりました(出所はApp Annie)。今後、課金売上高ランキングで10位以内、または20位以内を維持することができれば収益的に成功と言えます。

 これまでの任天堂スマホゲームの成功例は「ファイアーエムブレムヒーローズ」だけでした。「ドラガリアロスト」が任天堂スマホゲームの転機になるのかどうか、注目したいと思います。

 

5.業績予想と目標株価は変更しない

 今は2019年3月期2Q決算発表前であり、1年で最も重要なクリスマスシーズンの前です。ニンテンドースイッチの国内販売と世界販売の動きを見ると、ソフト主導で順調に業績が拡大していると思われます。

 そのため、本レポートでは任天堂の楽天証券業績予想(2019年3月期営業利益は会社予想2,250億円に対して2,800億円、2020年3月期は4,200億円)を変更しません。また、今後12カ月の期間での目標株価60,000円も変更しません。引き続き投資妙味を感じる銘柄です。当面は2Q決算に注目したいと思います。

表3 任天堂の業績(2018年8月)

株価 39,640円(2018/10/18)
発行済み株数 120,126千株
時価総額 4,761,795百万円(2018/10/18)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
注3:楽天証券業績予想は、楽天証券投資WEEKLY2018年8月10日号記載のものと同じ

表4 任天堂の業績予想の前提(2018年8月)

出所:楽天証券作成
注1:ポケモンGOプラスの2017年3月期、2018年3月期販売個数は楽天証券推定
注2:楽天証券予想は、楽天証券投資WEEKLY2018年8月10日号記載のものと同じ

表5 任天堂:各ハード、ソフトの販売台数、本数(四半期ベース)

単位:万台、万本
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理の関係で一部合計が合わない場合がある

表6 任天堂:各ハード、ソフトの販売台数、本数(通期ベース)

単位:万台、万本
出所:会社資料より楽天証券作成。予想は楽天証券

 

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