”消費国”に焦点を当ててコモディティを解説!

 前回まではコモディティの「供給国」、つまり、どこの国や地域がその資源を生産しているのか、について解説してきましたが、今回から視点を変え、「消費国」つまり、どこの国や地域が、もっともその資源を消費しているのかについて、解説していきます。

 コモディティは私たちの身近にある商品や資源です。この身近にあるコモディティについての知識が増えれば、コモディティの値動きに影響を受ける株式の投資のことももっと分かるようになるはずです。ぜひお付き合いください。

 

今回のテーマは「金」!

 今回のテーマは不況に強いといわれている「金」。投資の歴史も長い、「金」の消費国について、解説していきましょう。

コモディティ☆クイズ「金の消費国、世界1位は?」

 

金の消費用途は?

金の消費は、宝飾、工業、資金の3分野!

 金の消費について考える上で重要なことは、金が“どのように”消費されるのか? ということです。

出所:トムソン・ロイター GFMSの統計をもとに筆者作成

 グラフの内訳を見ても分かるとおり、金の消費には、おおまかにアクセサリーとしての“宝飾”、工業製品の部品などに使われる“工業”、地金バーなどの“資産”の3つの分野で消費されています。
 “宝飾”向けは、自分を飾る、優越感に浸ることなどを目的とした消費です。金が持つ輝きや歴史の長さが物語るミステリアスな魅力に着目したものです。

 “工業”向けは、電子部品の電極部分に用いることなどを目的とした消費です。金が持つ延伸性(加工しやすい性質)、伝導性(電気を効率よく通す性質)などの貴金属としての性質に着目したものです。

 “資産”向けは、金のコインや地金(じがね)を保有したり、金現物の裏付けがある金融商品を、お金(おかね)の代わりに保有したり運用したりすることを目的としています。金が持つ「お金」としての特徴に着目したものです。

 

個人消費、資産消費のトップは?

どのジャンルも消費国トップは中国!

 宝飾、コイン・メダルなど、地金バーの3つの合計を“個人向け消費”、コイン・メダルなど、地金バー、中央銀行の保有の3つの合計を“資産向け消費”とすることができます。それぞれの消費量ランキングをみてみましょう。

 

 歴史的・民族的に金を好む人が多いと言われる中国インドがランクイン。世界の個人消費のおよそ半分を中国インド2カ国が占めています。この2カ国の景気が良くなれば、個人消費が伸び消費量が増加する可能性があります。

 これらの国では、自分を飾ることと(宝飾)、お金としてコインや地金バーを保有すること(資産)の両方が重視されていると見られます。特にインドでは、嫁入りの際、親が娘に金の宝飾品を持たせるそうなのですが、「金の宝飾品=資産」という認識が強いことを示す好例といえます。

 金を“資産”として金を保有している国の上位3カ国は中国トルコロシアとなりました。トルコロシアは、地理上・歴史上、関連する国や地域との間でさまざまな問題が顕在化しやすい状況(地政学的リスク)を抱えている、という共通点があります。

 また、自国通貨(トルコリラ、ロシアルーブル)の価値が低迷したり、しばしば大きな変動に見舞われたりとするなど、自国通貨の価格変動リスクがあるという共通点もあります。

 近年、トルコロシアの中央銀行は、金を重要な資産と位置づけ、保有量を増加させています。リスクの高まりは資産としての金保有量を増加させる要因になるとみられます。

 金投資で覚えておきたい注意点!

金=安全という神話を妄信しないこと!

“不安の対極に金が存在する”のように語られる金ですが、金が100%、不安を払しょくしてくれたり、株価の下落を補ってくれたり、リスク回避を主導してくれるわけではありません。

“お守り代わりに金を持つ”、などと耳ざわりのよいフレーズを耳にすることがありますが、これは金に過剰な期待を着せようとする人間の心情を逆手に取った言葉だと筆者は考えています。金は完璧な存在ではありません。金とて、価格が上昇したり下落したりするリスク資産なのです。

 リスクが絶えない現在、金投資が度々見直されることがありますが、過去のレポート「トロフィーの値段は2,000万円!?13年で3倍、その変化から金相場を探ろう」で書いた、金の変動要因は年々、多様化・多層化している点を念頭に置く必要があると筆者は考えています。

投資の注目ポイント

景気・新興国・ドル動向以外の新しいリスク要因も登場

 金と聞くと、「安全資産(セーフヘブン/Safe Heaven)」、「最後の拠り所(ラストリゾート/Last Resort)」などという言葉を連想する人は少なくないと思います。しかし、金市場の変動要因は多様化・多層化しており、一概に安全とも拠り所とも言えない場面が散見されます。つまり、株価下落=金価格上昇、とはならないことがあるということです。金投資においては、リスクだけではなく、景気・新興国・ドルの動向にも目を配ることが非常に重要です。

 ただ、リスクが金価格の変動要因でなくなった訳ではありません。昨今では、トルコのサウジアラビア領事館で起きたサウジ記者の殺害事件の影響が世界規模になったことを受け、サウジと米国の同盟関係が不安定化しつつあります。

 これまでに見られなかった“新たなリスク”が発生し、金価格は一時上昇する場面が見られました。その他、新たなリスクとしては情報技術が進んだ現代社会だからこそ脅威となるリスクもあります。

 例えば、大規模なサイバーテロや電磁パルスなどによる広範囲におよぶ電子機器への攻撃です。現代社会の生命線とも言える電子機器、そしてそれらをつなぐネットワークを無効化する、あるいはネットワーク上から価値のある情報を大量に盗み出すなどの攻撃は、技術革新が進んだ現代社会ならではの「新たなリスク」と言えます。

 リスクとは武力を用いた行動だけを指すわけではありません。今後、これまでにない「新たなリスク」が発生すれば、それらを報じる情報がサプライズ感を伴って世界中を駆け廻り、共同幻想が増大し、金への注目度が高まる可能性があります。

金は今いくら?現在の価値

2000年ごろと比べて価値は4倍以上にも!

出所:CME・TOCOMのデータより筆者作成

 

 私たちの身近にある円建て金価格は2018年10月29日時点で、1グラムあたり4,420円前後です。長期的に見れば1,000円前後で推移していた2000年ごろに比べて4倍以上となっています。

 また、円建て金価格の先行指標とされるドル建て金価格は1トロイオンス(およそ31グラム)あたり1,230ドル前後です。400ドル前後で推移していた2000年ごろに比べて、円建て金同様、4倍以上となっています。

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「金」の投資商品例

4種類の金融商品、あなたならどれを選ぶ?
 日本でも個人投資家が投資できる、コイン・メダル・地金バー、純金積立、ETF(上場投資信託)、商品先物の4種類を紹介します。

【コイン・メダル・地金バー】
 輝く金を手元に置けることが魅力。一方、保有にあたっては盗難リスクが伴う。量が多くなると、持ち運びが難しく、警備が必要になる場合も。

【純金積立】
 比較的少額の資金を長期で積み立てる取引。株式等の取引経験がない投資初心者の人でも参入しやすいとされる。預金代わりに金を積み立てる人も。

【ETF(上場投資信託)】
 証券会社に口座を持っている人に便利。株を取引きするのと同じように金の取引ができる。金関連のETFは原則金価格に連動するように設計されている。長期保有も短期売買も可能。

【商品先物】
 レバレッジをかけた短期売買ができる。(長期保有ができる銘柄もある)

※純金積立、ETF(上場投資信託)、商品先物においては、各取引を扱う証券会社等によって、積立てた金を金の現物にして手元に置いたり、ETFや商品先物取引で購入した金を手元に引くことができない場合があります。

 中国、インド、ロシア、トルコ…金を取り巻く各国の状況は現在も刻々と変化しています。「金」の価値を知り、消費動向や国際情勢を把握しておくと、これらの金融商品の投資のヒントとなるでしょう。

 

動画だからよく分かる!コモディティ投資超入門!

2018年10月3日:[動画で解説]超入門!「コモディティ投資」ってどんな投資?

 

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2018年8月30日:コモディティ☆クイズ【18】「金(ゴールド)の供給国・地域(地図付)」に挑戦してみよう!