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さおだけ屋・山田真哉インタビュー(全2回):前編 後編

 ベストセラー作家であり、優待株投資家としても知られている公認会計士・税理士の山田真哉さんは、投資で数千万円の大損をして貴重な教訓を得ました。それは「普通の会社の株を買うこと」と「買ったら忘れること」。山田さん独自の銘柄選びの基準と、投資に対する考え方を紹介しましょう。

 

 

山田式・銘柄選び「だめなところのない、普通の会社」

 山田さんがすすめる銘柄選びの方法はとても簡単。「普通の会社の株を買うこと」です。

 普通の会社の条件は「毎年売上高が伸びていて、赤字がなく、借金が多すぎないことと、PER(株価収益率)が高すぎないことです」。

 PERとは株価が1株当たり純利益の何倍まで買われているかを示す投資の尺度。
「つまり何年で元が取れるかということです。PER20倍なら20年で元が取れる。今40代の私は、投資は70代までと考えているので、PER30倍までが許容範囲で、100倍なんてあり得ません。だって100年後まで生きていないでしょう?」

 会社のいいところを見つけようという頑張りは、むしろ逆効果。
「悪いところに目をつむり、いいところに賭けるというギャンブル的な要素が強くなってしまうからです。そこで私は、だめなところがない普通の会社を探して買っています」。

 そんな普通の会社は、どの業界にも存在しますが、「銀行のような金融業界、百貨店のような流通業界のような業界として厳しい状況に置かれているところは避けています。金融業界にも流通業界にも勝ち残る会社はあるはずですが、それを手間と時間を掛けて探すよりも、確実に生き残る業界にあって、会社の規模が大きく、シェアが高く、充実した株主優待制度を持ち、高い配当が期待できる普通の会社を見つける方がずっと楽です」。

 

売り時も、買い時も気にしない。超長期で配当と優待をもらう

 

 では、銘柄の売買のタイミングは、どのように判断しているのでしょう。
前編で紹介したように、山田さんの投資戦略は買ったら忘れて保有し続ける「forget戦略」なので、「原則として売りません。そのため売り時は気にする必要もありませんね。同じように買い時も気にしません。昔は安い値段で買えるように指値注文(値段を指定する注文)を使っていましたが、今は成行注文(値段を指定しない注文)です。もし高い値段で買って、その直後に大きく値下がりしても、超長期保有の間には戻るはずなので気になりません。株価が下がっても、配当と優待はもらえますからね」

 山田さんが数千万円の損失から学んだ会社探しの方法をまとめると、

①だめなところのない普通の会社を探す

②伸びる業界にあり、売上高が増えていて、業界シェアが大きい会社を探す

③高い配当と充実した優待制度のある会社を探す

 ということになります。

 そうして探した銘柄を「forget戦略」で保有し続ける……とはいえ、会社の業績は、いいときもあれば悪いときもあるはず。どうやってチェックしているのでしょう。会計士だけが知る秘密のテクニックがあるのでしょうか。

 

会計士が見る、だめポイントはシェアと仕入れ力が減る「減収」

「60~70銘柄を保有しているので、すべての会社の情報をチェックすることはできません。そこで会社四季報を見て『減収』(売上高が減ること)という文字がある会社の決算だけを注意して見るようにしています」

 それだけですか?
「それだけです。なぜ減収を気にするかというと、売上高の減少はシェアが減ることであり、仕入れ交渉力が弱くなり、それがさらなる売上高の減少につながるからです。そうなれば売るでしょうね。いずれ復活するかもしれませんが、それに賭けるよりは、別の銘柄を買った方がいい」

 山田さんは株主優待を今の生活を楽しむためのもの、配当を老後の生活を豊にするもの位置づけています。

 優待内容に注目して選んだ銘柄の一つが吉野家ホールディングス。

「すごくいい銘柄とは思いませんが、だめなところがありません。株主優待制度が充実していて、100株保有していると2月末、8月末の半期ごとに300円のサービス券が10枚がもらえます。吉野家、はなまるうどん、京樽(海鮮三崎港などを含む)、アークミール(フォルクスなどを含む)で使えるところがいいですね」

 優待銘柄では他に、子どもの知育に役立つ「こどもちゃれんじ」受講費が割引になるベネッセ、電子書籍のBOOK☆WALKERで使えるGIFTカードがもらえるカドカワ、マルエツなどで使える優待券がもらえるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス等を保有しています。

  高い配当の代表は日本郵政。配当性向50%という姿勢を評価。2018年3月期は年間配当金57円(特別配当7円含む)で配当性向50.5%、19年3月期の予想配当は50円で、配当性向61.3%です。配当性向は利益の中から配当金をどのくらい支払っているのかを測る尺度で、多くの企業は30%を目安にしている中で、50%超えは立派。

「ネット通販が成長しているので運送業界はまだ伸びていくでしょう。日本郵政はトップ3の一角を占めています。昨年(2017年)、海外投資の失敗で大きな損失を出しましたが、会社の規模が大きいのでつぶれることはないはずです」

セカンドライフ開始時点で、年間配当収入60万円を目指す

 山田さんが60~70銘柄から得ている配当金は年間で合計約40万円。

「私は厚生年金に加入していた期間が長くないので、65歳から受け取れる年金額は夫婦で200万円(月額約16万円)ほど。それに配当の40万円が加算されると240万円(月額20万円)になります。ずいぶん違うでしょう? 年金生活までまだ20年以上ありますから、配当の上乗せ分を60万円に増やしたいですね」

 もう、すぐにでも投資を始めたくなってきましたが、ここで深呼吸。

「ビジネスでも同じですが、あせらずにスモールスタートを心掛けましょう。たくさんの投資資金が用意できても一度に買わず、ほぼ同額を何度かに分けて(時間を分散して)買うこと。このような買い方を『ドルコスト平均法』と呼びますが、時間を分散するだけでリスクが減る……すごい発見だと思います。一物一価の不動産などと違い、株は売り切れることがないのであせらないでくださいね」

 

経済成長に賭けるのが投資。自分の成長率と天秤にかける

 深呼吸をしたところで、浮かんだそもそもの疑問。
私たちは投資を始めるべきなのでしょうか? 
 山田さんは、こんなふうに説明してくれました。

「人類が誕生して以来さまざまな道具が発明され、生産性が向上し、経済は基本的に右肩上がりで成長してきました。今でも世界経済は3%の成長を続けています。投資をする、しないの選択は、その成長に乗る、乗らないということです。自分自身に投資をすれば3%以上の成長が期待できるというのなら、株ではなくて自分に投資をするという考え方もあります。今時点の私は3%成長を続ける自信がないので、経済の成長に乗っています」

 でももし、3%以上成長のチャンスが巡ってきたら……。
「その時は株を売るかもしれません。すぐに売って現金化できるところも株式投資の良さですね」

 世界経済の成長にしっかり乗って、超長期保有のつもりで普通の会社の株を買い、配当と優待品をもらう。将来の年金不安も解消できそうです。

 


山田真哉(​公認会計士・税理士)

 

声優・作家・音楽家などエンタメ専門会計事務所の所長。1976年兵庫県神戸市生まれ。大学卒業して会社員となる。2000年公認会計士試験に合格し監査法人に勤務。04年に独立して現職。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)は160万部のベストセラー。「坂上&指原のつぶれない店」(TBS系)などのレギュラー出演番組がある。

 

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