今回は「綿 関連国」に注目

 前回は牛肉に注目しました。今回は、同じ農産品に分類される綿について、生産国・輸出国・輸入国・消費国の状況を探ります。綿由来の繊維である綿(めん)は、肌ざわりの良さ、吸水性の高さ、保温性の高さが特徴です。そのため、わたしたちの身の回りに数多く存在します。ジーンズやシャツなどの衣類、タオルなどがその代表例です。

 本レポートで触れる、綿を説明する上で重要な国であるバングラディシュやベトナム、中国などの国名は、「Made in Bangladesh」「Made in Vietnam」「Made in China」など、わたしたちが身に着けている衣類のタグでしばしば目にするはずです。

 また、ここ数年で耳にするようになった良質な綿(めん)繊維とされる「オーガニック コットン」もまさに綿由来です。できるだけ農薬や化学肥料を使わず、かつ遺伝子組み換え技術を用いない農法によって作られた綿から作られた繊維とされています。

 水を含んだ後に乾くと縮みやすい特徴もありますが、石油由来の繊維(化学繊維)と混紡することで、そのデメリットを低減することができます。

 また、綿は、「CRB指数」(シーアールビーしすう。1957年に米国のCommodity Research Bureau社が開発)という、コモディティ価格の大まかな流れを示す指数を構成する重要な品目の一つとなっています(現在、東京商品取引所での取引は行われていません。新規上場が期待されます)。

綿と綿(めん)繊維、綿花の歴史

・綿について

 アオイ科の草本(背丈が1メートル前後の1年草の植物)において、花が咲いた後、実ができ、そのコットン・ボールと呼ばれる実が割けて、中からやわらかい繊維が絡み合った白い球状の綿があふれ出ます。綿があらわになった畑は、花が満開になったように見えます。この様子は綿花が咲いたと誤認される場面です。花はコットンボール(実)ができるまえに落ちています。採取した綿から種子の殻などの余分なものを取り除いてほぐす「綿打ち(わたうち)」などの工程を経て、綿(めん)繊維のもととなる洗練された綿ができます。シカゴをはじめとした世界の取引所では、洗練されて一定量にまとめられた綿が取引されています。


・綿(めん)繊維について

 綿から作られた綿(めん)は「植物(しょくぶつ)繊維」に分類されます。植物繊維には綿(めん)の他、アサ科の植物由来の麻(あさ)があります。絹(シルク)や羊毛(ウール)は「動物繊維」、木材パルプが原料のレーヨンは「再生繊維」、ポリエステルやナイロン、アクリルは石油由来の「化学繊維」に分類されます。

 綿(めん)繊維は、18世紀後半、イギリスを起点として顕著になった産業革命をきっかけにヨーロッパを中心に需要が急拡大しました。やがて綿は「三角貿易」の重要品目の一つとなりました。過去のレポート「コーヒーは世界をめぐる!「ティータイム銘柄」で知る面白世界史!」を参照ください。

 急拡大する需要をまかなうべく、アフリカで調達した奴隷を使い、新大陸(アメリカ)で作られた大量の綿がヨーロッパに渡ったわけです。以下のクイズで記しますが、現在、生産国のランキングにおいて米国が上位にいるのは、三角貿易の名残だと考えられます。
 

綿関連国☆コモディティクイズ全4問

 綿の市場環境を知る上で、供給側(生産・輸出)と需要側(消費・輸入)、それぞれに関連する国の状況を把握しておくことが重要です。国旗や地図上の位置、マスの大きさ(国名の文字数)をヒントに、各問の上位3カ国を考えてみましょう。

 

問1:綿の生産国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう?

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成
★答えと解説は、3ページ目にあります

 

問2:綿の輸出国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう?

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成
★答えと解説は、このページの下段にあります
 

問3:綿の輸入国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう? 

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成
★答えと解説は、3ページ目にあります

 

問4:綿の消費国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう?

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成
★答えと解説は、3ページ目にあります

 

■回答と解説■綿 関連国☆コモディティクイズ

回答1:綿の生産国の正解は…

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成(2017年)

[解説]

1位インド(23.2%)、2位中国(22.4%)、3位米国(17.0%)でした。

 紀元前より、現在の南米やインド周辺で綿が採取できるアオイ科の植物が生育していたとされています。歴史的に関わりが深い地域にあるインド、ブラジル、パキスタンがランキングの上位に入っています。

 また、米国は先述のとおり、産業革命後のイギリスおよびヨーロッパにおける綿(めん)製品の需要増加に対応するための生産地であった歴史があり、現在も大規模な生産が行われています。インドと中国については自国の綿(めん)製品の需要拡大、および綿(めん)製品の輸出拡大に対応するために、広大な国土を利用して生産が行われています。
 

回答2:綿の輸出国の正解は…

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成(2017年)

[解説]

1位米国(39.9%)、2位インド(11.8%)、3位ブラジル(10.5%)でした。

 米国は世界の輸出量のおよそ4割を占めています。

 また、輸出率(輸出量÷生産量)に着目すると、ギリシャ88.7%、マリ81.5%、ブルキナファソ80.8%、オーストラリア79.6%、米国76.5%、ブラジル47.2%、インド16.7%でした。

 輸出率が80%を超える高い値の場合、生産する目的が自国での消費ではなく、ほぼ輸出(外貨獲得)目的だと考えられます。その意味では特に発展段階にあるマリやブルキナファソ(ともに西アフリカ諸国)においては、国の財政上、綿が非常に重要な役割を担っていると言えます。両国は、アフリカ全土における綿の輸出量および生産量の最上位国です。この背景には、「フェアトレード」が浸透しつつあることが考えられます。

「フェアトレード」とは、先進国の大量消費に対応するために、発展段階にある国が作物を生産する場合、生産国が不当に不利になることを防ぐ考え方です。コーヒーにおいては、フェアトレードが浸透してきていることを、わたしたちの普段の生活の中でも少しずつ実感できるようになってきています。フェアトレードを推進する国際的な組織である「フェアトレードインターナショナル」が定めた基準(品物の品質が一定以上であるなど)を満たすことで、発展段階にある国で生産されたコーヒーや綿はフェアトレード認証を受けることができます。認証を受けた製品を購入することは、一定以上の品質基準を満たした品物を手に入れることができること、そして発展段階にある国の生産者と正当な価格で取引したと対外的に認められることを意味します。

 綿の購入を考えている国や企業にとって、「フェアトレード」がマリやブルキナファソから購入するきっかけとなると言えます。マリやブルキナファソを含む西アフリカにはフェアトレードに取り組む小規模団体の拠点があり、「フェアトレード」の浸透が両国の輸出量を拡大させているといえます。
 

回答3:綿の輸入国の正解は…

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成

[解説]

1位バングラディシュ(18.7%)、2位ベトナム(17.4%)、3位中国(13.4%)でした。

 綿は、そのまま食べるなど、直接消費する機会はほとんどないとみられます。このため、綿の輸入は、輸入した国でその綿を綿(めん)繊維にする、あるいは、その綿(めん)繊維を用いて衣類を作るなど、加工することが前提になっていると考えられます。つまり輸入国は、綿という原材料を繊維や衣類に加工し、それらを輸出する「加工貿易」を行っていると言えます。

 人口の多さを背景に、比較的自国での繊維や衣類の消費量が多いとみられる中国とインドよりも、バングラディシュやベトナムの輸入量が多いことは特筆すべき点だと思います。

その背景には、“賃金の低さ”があります。
 

図:アジア諸国の首都における一般工職の賃金 (月額) 単位:USドル

実務経験3年程度の正規雇用の作業員(基本給、諸手当、社会保障、残業代、賞与など含)

出所:ジェトロ「2017年度 アジア・オセアニア投資関連コスト比較調査(2018年3月)」をもとに筆者作成

 上図は国名を記していますが、その国の首都における月額の賃金を示しています。日本は東京、韓国はソウルという具合です。

 綿を輸入して綿(めん)繊維や衣類を輸出する加工貿易が世界的に盛んな国は、比較的賃金が低い傾向があると言えます。

 アジア諸国の中では中国とインドの賃金は比較的高めに見えますが、自国の経済発展により賃金がもともと上昇傾向にあること、参照した賃金のデータが首都の賃金であり比較的高めに見えているなど、実際には、綿を綿(めん)繊維や衣類に加工する労働者の賃金はもっと低い可能性があります。

 日本や欧米の大手アパレルメーカーがこぞってバングラディシュをはじめとしたアジア諸国に進出していますが、アパレルメーカーが収益を上げるためには、賃金が低いこと、つまり、安い人件費が必要なのだと言えます。

現在のバングラディシュを「世界の繊維工場」と例える声もあります。

 

回答4:綿の消費国の正解は…

出所:米農務省(USDA)のデータをもとに筆者作成

[解説]

1位中国(33.1%)、2位インド(20.0%)、3位パキスタン(8.6%)でした。

 中国とインドで世界の綿消費の半分以上を消費しています。自国の人口の多さが、綿の消費(綿繊維やそれを用いた衣類の需要)が多いことの根拠の一つと考えられます。

 3位のパキスタンは、インドと同じく、歴史的に綿の主要な生産地であり、旧英国領であったため繊維の加工についてノウハウが蓄積されていたと考えられます。もともと綿が身近にあり、加工するノウハウもあり、インドという大きな市場に隣接していることが、パキスタンが消費の上位にランクインした理由だと考えられます。

 4位以下は輸入国のランキングで上位に入った国々です。バングラディシュとベトナムとインドネシアの綿の生産量の合計は、世界のおよそ0.1%です。それでも消費量が上位に入るのは、先述の“賃金の安さ”を背景に加工貿易が盛んであるためだと言えます。


 いかがでしたでしょうか。綿に関連する国を見てきました。

綿のことを知る上で、関連国を知ることは非常に重要かつ有効であると思います。

楽天証券で取り扱っている海外ETN銘柄例

 楽天証券では「海外ETN取引」において、以下の銘柄を取り揃えております。長期的な視点で価格の推移をご注目ください。

対象 銘柄名 取引所 経費率
綿花 iPath シリーズB ブルームバーグ・コットン・サブ指数トータルリターンETN NYSE Arca 0.45%

 対象指数であるBloomberg Cotton Subindex Total Returnに連動するETN。同指数は、コットン先物価格を対象としており、ETNを通してコットンへの投資を可能としている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
農産物指数 iPath シリーズB ブルームバーグ農産物サブ指数トータルリターンETN​ NYSE Arca 0.45%

 対象指数であるBloomberg Agriculture Subindex Total Returnに連動するETN。同指数は、コモディティの中のコーン、大豆、砂糖、小麦、大豆油、大豆粕、コーヒー、綿の先物価格で構成されており、ETNを通して農作物への投資をすることができる。構成は、コーン24%、大豆23%、小麦13%、砂糖12%、大豆油10%、コーヒー9%、コットン5%となっている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
穀物 iPath シリーズB ブルームバーグ穀物サブ指数トータルリターンETN NYSE Arca 0.45%

 対象指数であるBloomberg Grains Subindex Total Returnに連動するよう運用されるETN。同指数は、コーン、大豆、小麦の先物価格を対象としており、ETNを通して穀物への投資をすることができる。構成は、コーン39%、大豆38%、小麦21%となっている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
指数 iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN NYSE Arca 0.7%

 対象指数であるBloomberg Commodity Index Total Returnに連動するETN。同指数は、複数の商品先物価格を対象にしており、ETNを通してコモディティへの投資をすることができる。構成は、エネルギー31%、穀物22%、産業用金属17%、貴金属15%、農産物6%、畜産物6%などで構成されている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
指数 iPath S&P GSCIトータルリターン指数ETN​ NYSE Arca 0.7%

 対象指数であるS&P GSCI Total Return Indexに連動するETN。同指数は、原油62%、産業用メタル11%、穀物10%、畜産物6%、貴金属4%、農産物3%など複数の商品先物で構成されており、ETNを通してコモディティへの投資をすることができる。同指数は、コモディティ投資のベンチマークとして利用される。

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