・今回は「小麦」に関連する国について解説します。
・複数のヒントをもとにクイズにトライして、小麦の基礎知識を身につけましょう。

今回は「小麦 関連国」に注目

 前回は砂糖の生産国に注目しましたが、今回は、同じ農産品で世界三大穀物の一つである小麦について、生産国・輸出国・輸入国・消費国の状況を探ります。※世界三大穀物は、小麦、コメ、トウモロコシです。

 小麦はパンや麺、お菓子など、形を変えてわたしたちの食生活を支えています。ある時は主食の、そしてまたある時は間食の原材料として使われています。ウィスキーの原材料になることもあります。

 小麦がわたしたちの食生活を幅広く支えていること、そしてその小麦を口にする人が世界的に増加する傾向にあることは、今後の小麦市場を考える上でおさえておくべき重要な点だと筆者は考えています。

 また、小麦は、砂糖やコーヒーと同様「CRB指数」(シーアールビーしすう。1957年に米国のCommodity Research Bureau社が開発)という、コモディティ価格の大まかな流れを示す指数を構成する重要な銘柄の一つとなっています(現在、東京商品取引所での取引は行われていません。新規上場が期待されます)。
 

小麦の生産サイクル

 小麦の栽培はメソポタミア地方(現在のイラク付近)で、今からおよそ1万5千年前に始まったと言われています。

 チグリス川・ユーフラテス川にはさまれた肥沃な土地を利用して栽培が本格化し、やがてヨーロッパやアフリカ、ロシア西部に栽培地が拡大していきました。

 大航海時代に入り、小麦は海を渡ります。以下のレポート「コーヒーは世界をめぐる!「ティータイム銘柄」で知る面白世界史!」 で書いた「コロンブス交換」において、旧大陸(ヨーロッパ・アフリカ・アジア)から新大陸(アメリカ)に渡った品目の中に《小麦》を見つけることができます。欧州列強の海外進出がより盛んになると、オーストラリアでも栽培が始まりました。

 小麦はもともと、畑で冬を越す「越年生(えつねんせい)」の作物と言われています。上記のように栽培地が伝播していく中で、気候に合わせた品種改良が進み、冬を越さない品種も次々に開発されていきました。

 秋から冬にかけて種をまいて畑で越年させ、翌年の初夏ごろに収穫する小麦を《冬小麦》、春に種をまいて同じ年の秋ごろに収穫する小麦を《春小麦》と呼びます。

 越年させるかどうか(越年させるのを冬小麦、させないのを春小麦)、あるいは種をまくタイミング(冬に種をまくのを冬小麦、春に種をまくのを春小麦)で呼び分けます。

 南半球の生産地であるアルゼンチンやオーストラリアでは、8月から9月、つまりこの地域の冬に小麦の種は畑の中で過ごします。つまり、越年させていますので冬小麦、ということになります。

 寒い時期に小麦の種を畑の中にとどめておくことは、通常、小麦の生育に必要な課程であると言われています。

 春小麦は、種まきから収穫までの期間を短くするために開発された小麦です。寒さがより厳しく畑の中で越年させることができない地域や、雨季・乾季などの気候のサイクルの都合で種まき後、できるだけ早く収穫したい地域で用いられています。後述しますが、国土が広い国では冬小麦と春小麦の両方を栽培している国もあります。以下は、小麦の生産地ごとの作付と収穫時期の目安を示したカレンダーです。

図:小麦の生産地ごとの作付と収穫時期(2016/2017年 穀物年度のイメージ)

出所:農林水産省の資料をもとに筆者作成

作付けから収穫までの期間は、おおむね冬小麦が10カ月、春小麦が6カ月程度と言えそうです。

小麦関連国☆コモディティクイズ全4問

 小麦の市場環境を知る上で、供給側(生産・輸出)と需要側(消費・輸入)といった、関連国全体の状況を把握しておくことが重要です。国旗や地図上の位置、マスの大きさ(国名の文字数)をヒントに、各問の上位3カ国を考えてみましょう。

※各データは米国の農務省(U.S. DEPARTMENT OF AGRICULTURE以下、USDA)の統計をもとに作成しました。

 

問1:小麦の生産国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう?

出所:USDAのデータをもとに筆者作成
★答えと解説は3ページ目にあります

 

問2:小麦の輸出国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう?

出所:USDAのデータをもとに筆者作成
★答えと解説は3ページ目にあります

 

 

問3:小麦の輸入国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう? 

出所:USDAのデータをもとに筆者作成
★答えと解説は3ページ目にあります

 

問4:小麦の消費国
上位3カ国、1位、2位、3位はどこの国でしょう?

出所:USDAのデータをもとに筆者作成
★答えと解説は、このページの下段にあります

 

■回答と解説■小麦 関連国☆コモディティクイズ

回答1:小麦の生産国の正解は…

出所:USDAのデータをもとに筆者作成

[解説]

1位EU(20.0%)、2位中国(17.1%)、3位インド(13.0%)でした。

 生産国上位にランクインした国の中には、先述の「小麦の生産地ごとの作付と収穫時期」で触れた《冬小麦》と《春小麦》の両方の生産が行われている国があります。

 中国、ロシア、米国、ウクライナですが、これらの国は広い国土を有しており地域によって気候に差があるため、冬小麦・春小麦の両方が生産されています。

 どの国も冬小麦がメインで生産されていますが、春小麦の生産が可能な点はこれらの国の生産量を増加させている一因と言えます。

 生産国の上位にランクインした国は、大規模に消費するために大規模に生産している面(大量消費タイプ)、外貨を獲得する目的で自国で生産が可能な小麦を生産している面(外貨獲得タイプ)、あるいは両方を有していると考えられます。

 以下の輸出量と消費量の箇所も触れますが、前者の《大量消費タイプ》はEU、中国、インドなどで、後者の《外貨獲得タイプ》はカナダ、ウクライナ、オーストラリアなどです。米国とロシアは両方のタイプを合わせ持っていると考えられます。大量消費タイプは消費国の上位に、外貨獲得タイプは輸出国の上位にランクインしています。

 

回答2:小麦の輸出国の正解は…

出所:USDAのデータをもとに筆者作成

[解説]

1位ロシア(20.9%)、2位米国(13.3%)、3位EU(13.0%)でした。

 輸出率(輸出量÷生産量)を見てみると、ロシア45%、米国52%、EU16%、カナダ75%、ウクライナ64%、オーストラリア79%、アルゼンチン81%、カザフスタン54%などとなっています。

 生産国ランキングの箇所で触れた《大量消費タイプ》と《外貨獲得タイプ》において、《大量消費タイプ》としたEU、中国、インドの輸出率は、EUが16%と低水準、中国とインドはUSDAの統計では輸出上位国に名前が挙がっていません。

 一方、《外貨獲得タイプ》としたカナダは75%、ウクライナは64%、オーストラリアは79%と、輸出率が比較的高いことがわかります。《両方のタイプ》とした米国は52%、ロシアが45%と、おおむね生産分の半分を自国で消費し、もう半分を輸出していることがわかります。

回答3:小麦の輸入国の正解は…

出所:USDAのデータをもとに筆者作成

[解説]

1位インドネシア(6.8%)、2位エジプト(6.5%)、3位アルジェリア(4.3%)でした。

 1位のインドネシアですが、以下で触れますが、世界10位の消費量です。比較的大きな規模の消費量にあって輸入量が世界1位です。

 インドネシアの小麦の輸入依存度(輸入量÷消費量)は、およそ103%でした。消費すべてを輸入に頼り、在庫を積み上げている計算になります。(インドネシアは生産上位国に名前が挙がっていません)。このインドネシアは前回の砂糖の回でも輸入量ランキング1位でした。(砂糖の輸入依存度は67%)

 経済発展のスピードが比較的速いと言われるインドネシアでは、人口増加と食文化の欧米化が起きており、小麦を原材料とした食品や(パンや麺以外に、インスタント食品なども)、小麦と砂糖を用いて作られるお菓子(甘いお菓子もスナック菓子も)の需要が大きく高まっていると考えられます。

 また、2位と3位のエジプトとアルジェリアは北アフリカに位置する国ですが、乾燥し水資源に制約があるこれらの国では、主食のパンを作るために半数以上を輸入に頼っています。ともに輸入依存度は60%超と比較的高い状態にあります。

 2位のエジプトと3位のアルジェリア、そして8位のトルコ、その他の北アフリカや中東諸国(ランク外ですが、輸入量ランキング16位のモロッコ、19位サウジアラビアなど)はウクライナやロシアなどから小麦を輸入しています。

 2010年半ばごろにロシア西部のウクライナ周辺で発生した大規模な干ばつにより、小麦の生産が大きく減少する懸念が発生しました。(先述の生産国ランキングより、ロシアは4位、ウクライナは7位。2カ国合わせた生産シェアは14.7%)

 その影響で小麦価格が上昇し、同年8月以降、ロシアとウクライナが小麦の輸出制限措置を実施しました。それにより、小麦価格はさらに上昇しました。(先述の輸出国ランキングより、ロシアは1位、ウクライナは5位。2カ国合わせた輸出シェアは30.2%)

 小麦価格の上昇は、北アフリカ・中東地域の貧困層のさらなる困窮を招き、民主化運動の波「アラブの春」が進む一因となったと言われています。

 

回答4:小麦の消費国の正解は…

出所:USDAのデータをもとに筆者作成 

[解説]

1位EU(17.6%)、2位中国(15.7%)、3位インド(13.1%)でした。

 先述の生産国ランキングで《大量消費タイプ》としたEU、中国、インドが1位から3位となりました。

 これら3つの国・地域の小麦消費量が多いのは、膨大な人口を抱えていること、歴史的に小麦を食べる文化が深く根差していること、つまり《人口の多さ》と《食文化》の両面で消費が喚起されているためだと考えられます。

 歴史的に小麦を食べる文化が根差したのは、国土が広いことと気候が栽培に適しているため小麦が身近にたくさんあったこと、そして品種改良や製粉・加工などの小麦にまつわる技術がその地で向上してきたことが影響していると考えられえます。

 技術の向上は、生産量を増やしたり、小麦をバラエティに富んださまざまな食品に変えたりする大きな助けとなります。バラエティに富んだ食品の登場は、人々の食への楽しみを増大させ、その結果、消費が増加した面もあるのではないか?と筆者は考えています。

 小麦に関連する国を見てきました。主食から間食、お酒まで・・・小麦は非常に身近な農産品だと言えます。時には歴史を変える要因になったり、外交上の武器になったりすることもあります。

 小麦のことを知る上で、関連国を知ることは非常に重要かつ有効であると思います。余裕のある人は、ランキング上位3か国だけでなく、4位以下も覚えてみると面白いかもしれません。

楽天証券で取り扱っている穀物と農作物の海外ETN銘柄例

楽天証券では「海外ETN取引」において、以下の銘柄を取り揃えております。長期的な視点で価格の推移をご注目ください。

対象 銘柄名 取引所 経費率
穀物 iPath シリーズB ブルームバーグ穀物サブ指数トータルリターンETN NYSE Arca 0.45%

対象指数であるBloomberg Grains Subindex Total Returnに連動するよう運用されるETN。同指数は、コーン、大豆、小麦の先物価格を対象としており、ETNを通して穀物への投資をすることができる。構成は、コーン39%、大豆38%、小麦21%となっている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
農産物 iPath シリーズB ブルームバーグ農産物サブ指数トータルリターンETN NYSE Arca 0.45%

対象指数であるBloomberg Agriculture Subindex Total Returnに連動するETN。同指数は、コモディティの中のコーン、大豆、砂糖、小麦、大豆油、大豆粕、コーヒー、綿の先物価格で構成されており、ETNを通して農作物への投資をすることができる。構成は、コーン24%、大豆23%、小麦13%、砂糖12%、大豆油10%、コーヒー9%、コットン5%となっている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
指数  iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN NYSE Arca 0.7%

対象指数であるBloomberg Commodity Index Total Returnに連動するETN。同指数は、複数の商品先物価格を対象にしており、ETNを通してコモディティへの投資をすることができる。構成は、エネルギー31%、穀物22%、産業用金属17%、貴金属15%、農産物6%、畜産物6%などで構成されている。

対象 銘柄名 取引所 経費率
指数  iPath S&P GSCIトータルリターン指数ETN NYSE Arca 0.7%

対象指数であるS&P GSCI Total Return Indexに連動するETN。同指数は、原油62%、産業用メタル11%、穀物10%、畜産物6%、貴金属4%、農産物3%など複数の商品先物で構成されており、ETNを通してコモディティへの投資をすることができる。同指数は、コモディティ投資のベンチマークとして利用される。
 

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