国内外のプラチナ価格は現在、なぜ伸び悩んでいるのか? 今後、何が値動きのカギになるのか? 今回はプラチナをめぐるさまざまな疑問について、プラチナやパラジウムについて世界規模で調査活動を行っている英国企業のジョンソンマッセイ社(以下JM社)が今月5月公表したレポートから、読み解いていきたいと思います。

 

EVの普及でも貴金属の消費量減少は杞憂?

「プラチナは、金よりもパラジウムよりも安い」とさまざまなメディアで報じられているように、プラチナ価格は伸び悩んでいます(図1)。

 なぜプラチナ価格は伸び悩んでいるのでしょうか。

図1:プラチナ、パラジウム、金(ゴールド)の価格推移 

単位:ドル/トロイオンス
出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 理由の一つに挙げられているのは、EV(電気自動車)の急速な普及で、自動車の排ガス浄化装置に使われてきたプラチナの消費量が減少しているから(あるいは減少しそうだから)という点です。

 つまり、「EVの登場で自動車排ガス浄化装置向けの需要が減少。そのため装置に使われているプラチナの消費量が減少して価格が下がる」という話です。

 図2は、JM社が今月公表したデータを基に作成した自動車排ガス浄化装置向けの貴金属(プラチナ、パラジウム、ロジウム)の消費量推移を示したグラフです。

 ここでは、世界の自動車生産台数が増加傾向にあり、自動車排ガス浄化装置向け貴金属の消費量は減少していないこと、そして引き続き2018年も増加が見込まれています。

 つまり懸念されている世界的なEV台頭に伴う関連する貴金属の目立った消費減少はまだ起きていないのです。

図2:自動車排ガス浄化装置向け貴金属消費量(世界合計)と世界の自動車生産台数の推移

出所:JM社のデータを元に筆者作成
注:2018年の自動車排ガス浄化装置向け貴金属消費量はJM社予想
注:2018年の世界の自動車生産台数は筆者予想

  過去のレポート「EV化で気になる、プラチナ・パラジウムの”自動車鉱山”からの供給圧力」で、自動車1台あたりに使われる排ガス浄化装置向けの貴金属の量を、おおよそ3.7グラムと推計しましたが、この推計と2017年から2018年にかけて世界の自動車排ガス浄化装置向けの貴金属の消費が2.4トン増えるとしたJM社のデータをかけ合わせてみます。

 すると、2018年は2017年に比べて65万台程度の内燃機関(化石燃料を爆発させ、その爆発を動力源として動く機関=エンジン)が搭載された従来型自動車の生産台数が増加することになります(図2参照)。

 少なくともデータが確認できた2013年以降は、自動車排ガス触媒装置向けの貴金属消費は減少していません。加えて、JM社の見込みは、2018年も同消費が減少する懸念は杞憂に過ぎないことを示しています。

 

強いパラジウムと弱いプラチナ。消費内訳に値動きの差を見る

 一方、先述の「プラチナ、パラジウム、金(ゴールド)の価格推移」のとおり、価格の動きを見ると「強いパラジウム、弱いプラチナ」という動きが目立っています。

 この説明のカギは、(1)自動車排ガス浄化装置向けに用いられる貴金属ごとの量、(2)それぞれの消費内訳にあります。

(1)自動車排ガス浄化装置向けに用いられる貴金属ごとの量

 プラチナとパラジウム、そしてロジウムが世界で自動車排ガス浄化装置向けに消費されている主な貴金属です。

図3:自動車排ガス向け装置向けに用いられた貴金属の消費量(世界合計) 

出所:JM社のデータをもとに筆者作成
単位:トン
注:2018年はJM社の見通し

 図3は、3つの貴金属それぞれの自動車排ガス向け装置向けに用いられた消費量を示したグラフです。このグラフが示しているのは、世界の自動車排ガス浄化装置向けに消費されているメインの貴金属はプラチナではなくてパラジウムだということです。

 同消費におけるパラジウムの割合は上昇傾向にあり、2017年時点では78.0%です。一方のプラチナの割合は2017年時点では30.6%です。

 内燃機関を有する自動車の生産が行われれば行われるほど、パラジウムの消費量が増えるという構図になっています。

(2)それぞれの消費総量と内訳

 図4は、プラチナとパラジウムそれぞれの消費総量と内訳を示したものです。

 先ほど、自動車排ガス浄化装置向け消費の増加時はパラジウムの消費が増加する傾向があると指摘しましたが、パラジウムの消費全体に占める自動車排ガス浄化装置の割合は77%(4分の3以上)です。一方のプラチナは41%です。

 パラジウムには、プラチナに比べて自動車排ガス浄化装置向けに用いられる量が多い(自動車生産台数が増加する際、消費が増加しやすい)という全体的な要因に加え、プラチナに比べて消費内訳における自動車排ガス浄化装置の割合が大きい点(より直接的に自動車排ガス浄化装置の消費の増減の影響を受ける)という固有の要因があります。

 このような全体と固有の二つの要因から、内燃機関を有する自動車生産が増えるときにプラチナよりもパラジウムのほうの消費が増え、価格が上振れしやすい傾向があると言えます。

図4:プラチナとパラジウムの消費総量と内訳 (2017年)

出所:JM社のデータより筆者作成

 

中国がカギを握るパラジウムとプラチナ

 世界全体に占める中国のパラジウム消費量は26.3%、プラチナ消費量は25.8%です(2017年時点)。

 パラジウムもプラチナも、世界消費の4分の1以上を中国が占めていることになります。このため、中国の消費動向が非常に需要になってきます。

 図5は、中国のパラジウムとプラチナ消費の内訳です。

 中国では、自動車排ガス浄化装置向けでパラジウムの消費が増加傾向、宝飾品向けのプラチナ消費が減少傾向にあります。

 中国におけるプラチナの宝飾品向け消費はこの5年間で23.1トン減少しましたが、これは2017年の全体の消費量のおよそ1割に相当します。逆にパラジウムは21.2トン増加しました。

 この点は、最近の価格動向における「弱いプラチナ、強いパラジウム」の動向と合致します。

 また、欧州の自動車排ガス浄化装置向けのプラチナ消費の動向もたびたび話題になります。

図5:中国のパラジウムとプラチナの消費内訳 

出所:JM社のデータより筆者作成
単位:トン

  欧州での自動車排ガス浄化装置向けのプラチナ消費は頭打ち状態にあり、また、JM社の見通しによれば、2018年に増加傾向にあるパラジウムの消費量を下回るとされています。この点も「強いパラジウム、弱いプラチナ」に関わる重要な点です。

プラチナは、排ガスを浄化する触媒作用ある、化学的に安定している、融点が高いなどの特徴をもっているすぐれた貴金属です。

 そのため、宝飾品だけでなく、自動車、電子部品や化学、医療など、幅広い分野で使われ、21世紀の産業に欠かせない貴金属と言われています。

 ただ、中国での宝飾向け消費が減少していることは、プラチナ全体の消費減少、価格低迷の大きな要因になっているとみられます(パラジウムのように自動車や工業向けがメインであれば、このような事態は防げたのかもしれません……)。

 宝飾品にも工業品にも用いられる万能選手だからこそ、悩める事態になっていると言えます。

 欧州での自動車排ガス浄化装置向け、そして中国での宝飾品向け消費の復活が、弱いプラチナにおいて望まれるところです。

図6:欧州の自動車排ガス浄化装置向けのパラジウムとプラチナ消費

出所:JM社のデータをもとに筆者作成
単位:トン

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