いま日本で話題になっている投資信託のひとつである「ひふみ投信」を運用、販売するレオス・キャピタルワークス。今年9月には運用資産総額が5,000億円を超えました。そのレオス・キャピタルワークスの代表取締役社長であり、最高投資責任者でもある藤野英人さんは、同社を立ち上げる以前も、中小型株の運用で驚異的な成績を上げ続け、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれていました。
『投資家が「お金」よりも大切にしていること』『ヤンキーの虎』などのベストセラーも多い、運用のプロである藤野英人さんに、投資についてインタビューしました。
投資は未来のエネルギー源
◆投資、運用ってなんでしょうか。
私は28年以上、ファンドマネジャーという仕事に就いています。ファンドマネジャーは投資家の皆さんからお金を預かり、そのお金を使って投資をする担当者のことです。この仕事は世間的にはあまり知られていませんが、実際、ファンドマネジャーと関係のない日本人はいません。なぜなら、国の年金はファンドマネジャーが運用しているからです。実はそれほど運用は身近にあるものなのに、投資、運用に対して、日本人はあまり知識を持っていません。
それに多くの人が、投資は「お金でお金を稼ぐこと」だと考えているのですが、それだけではありません。「お金を得る」ことは投資の側面のひとつにすぎないのです。
これは私の定義なのですが、投資という行為は「エネルギーを投入して、未来からお返しをいただくこと」だと考えています。
世の中の活動は、どこかの誰かが、「お金」を含め、「膨大な時間」「努力」「情熱」「愛情」などのエネルギーを過去に投入してくれたことで、今が成り立っています。
つまり、未来の社会は私たちがエネルギーを投入していかないと、切り開いていくことができないことになります。
私たちが今あるのも、家族や学校、地域社会、会社の先輩などが愛情や時間というエネルギーを注ぎ、熱心に「教育投資」をしてくれた成果です。エネルギーを注ぐ対象が工場やお店なら「設備投資」、会社を応援するなら「株式投資」。寄付やボランティアに使ったら「社会投資」、そして自分自身なら「自己投資」ですね。
このように、「投資」と一口に言ってもさまざまで、決して「お金」だけの話ではないのです。
いま使っているモノやサービス、そしてそれを提供している会社があるのも、誰かがエネルギーを注いで、試行錯誤しながら会社や商品を作りだしたことからスタートしています。損失を生じさせるリスクを負いながら、挑戦した結果です。
だから私が皆さんに「投資をしよう」と話すとき、「お金をふやそう」と伝えているのではありません。「投資」という行為は、まさに「未来を切り開く」ために必要だと考えているからなのです。
投資教育を受けたことがない日本人は7割
◆そのことを考えると、金融教育、投資教育をしっかり行う必要がありそうですね。
この状況に危機感を覚えた政府は、金融庁を旗振り役に、金融教育をしっかり行っていこうという方向です。 2016年に行った金融庁の調査では、「金融投資教育を受けたことがない」という人は7割にも上ります。カリキュラムとして経済は「社会科」に組み込まれてはいますが、日本史、世界史、地理が中心で、経済そのものを勉強する場はほとんどないんですよね。進学した大学が経済学部でもないかぎり、日本では経済をまともに学ぶ機会ってありません。経済を学んでいない国民がほとんどなのに、経済大国だと胸を張っていた時期があるなんて……。
これは素晴らしいことなのですが、大切なのはどういう内容を教えるかということです。
私自身、金融教育のあり方についての議論には加わることがあります。しかし、すごく違和感がある点があります。
「バーチャルマネー1億円で株式ポートフォリオを組んでゲーム対決しましょうか」という話がすぐに出てくるのです。
金融教育のひとつの手段と考えられているのかもしれませんが、私はその案にはいつも反対しています。投資の知識、経験がゼロの段階で、投資ゲームを体験すれば、「投資はマネーゲームだ」という誤解を余計に強めてしまうからです。
経済の本質をつかむことなく、テクニックだけ身につけるというのは、とても危険な方法だと思います。
起業体験が投資教育につながる
◆では「はじめての投資体験の場」として、何が有効なのでしょうか。
私が金融教育として一番効果があると思っているのが「起業体験プログラム」です。
創業時のDeNAなど多くの企業に投資したことでも知られる、ベンチャーキャピタリストの村口和孝さんが中心に推進されている教育プログラムです。
これは、中学生や高校生に対して、ゼロからビジネスを立ち上げる経験をさせるもので、運動会や学園祭といった大きなイベントが行われる中で、「起業家」として、擬似「株式会社」を立ち上げます。そして、事業計画書の作成から資金調達、実際の運営から決算まで、本格的にチャレンジしてもらうのです。
しかも「擬似」といっても、扱うのは本物のお金。
「会社設立→商品開発→学園祭での商品販売→決算・監査→株主総会→解散」といった企業経営の一連の流れをコンパクトにして、限りなく現実世界に近い条件で体験できるようになっています。
生徒がビジネスを立ち上げようとして、事業内容のプレゼンテーションを行い、出資者役から出資や融資を受ける。そしてビジネスを始める。利益が上がるように、サービスや商品に工夫を凝らしていきます。最終的には財務諸表まで作成します。
ビジネスを立ち上げようと思っているのに、お金が足りなくてできない人に、お金が余っている人からの融資や出資で、そのビジネスを応援する。それが「金融」の役割ですから、このプログラムによって、会社と金融のつながりを、肌で感じることができるのです。多くの生徒が、起業、ビジネスがおもしろいと考え始めます。
まさに金融教育とはこういうものではないでしょうか。
後編に続く >>
●今回の取材先
藤野 英人(ふじの・ひでと)さん
レオス・キャピタルワークス株式会社
代表取締役社長
最高投資責任者
1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業、日米の大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。株式投資信託「ひふみ投信」「ひふみプラス」「ひふみ年金」を運用し、高いパフォーマンスで受賞歴多数。投資教育にも注力しており、JPXアカデミー・フェロー、明治大学商学部兼任講師も務める。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『ヤンキーの虎-新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社)、『投資レジェンドが教える ヤバい会社』(日経ビジネス人文庫)。
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