為替差益は「雑所得」として課税の対象に

 前回に引き続き米国株の税金についてです。今回は、為替の変動で生じる利益や損失、「為替差損益」について解説していきたいと思います。

■参考記事
米国株と日本株で損益通算できるの?:知っておきたい!米国株の税金(その1)

 なお、理解を深めるために、米国株に関する為替差損益以外のお話もさせていただきたいと思います。

 まず、為替差損益とは何か? について簡単に説明します。為替差損益とは、外貨建ての資産を保有している間の為替レートの変動により生じた利益や損失のことです。

 例えば1ドル=100円の時に1万ドル、1年満期の米ドル建て外貨預金をしたケースで考えます。100円×1万ドルですから、100万円です。

 1年後、円安が進み1ドル=110円になっていた場合、満期到来により換金すると、110円×1万ドル=110万円となります。

 預け入れた時の100万円が、110万円になっているわけですから、10万円の為替差益が生じたことになります。この為替差益は「雑所得」として所得税・住民税の課税対象となります。

 ただし、会社員などの給与所得者で給与所得以外の所得が20万円以下の場合など、所得税の確定申告が不要となる場合もあります。詳しくは下記のコラムをご参照ください。

「確定申告」会社員の20万円問題(その1):副業・配当で申告が必要な人
「確定申告」会社員の20万円問題(その2):確定申告をしたら損をする人・得する人

為替差損が生じた場合は?

 では、上のケースで、逆に円高が進んで1年後に1ドル=90円になっていた場合はどうなるでしょうか?

 このとき、満期による換金時には90円×1万ドル=90万円となっていて、預け入れ時の100万円より10万円損をしています。為替差損が発生している状態です。

 為替差損は「損」をしているわけですから当然課税はされませんが、この損を、株式の売却損のように来年以降に繰り越すことはできません。為替差損が生じた年と同じ年の雑所得と損益通算することはできますが、残った損失は繰り越すことができず、切り捨てになってしまいます。

 外貨建ての預金を保有し、日本円に換金したときに生じる為替差損益は、上記のような扱いとなります。

米国株を保有している間の為替差損益は?

 では、米国株を保有している間の為替差損益はどうなるのでしょうか? 結論から申しますと、為替差損益を含めて売却損益(譲渡損益)を計算することとなっています。

 例えば1ドル=100円の時に、株価1ドルの株を1万株買ったとしましょう。3年後、株価は90セントに値下がりしてしまいましたが、1ドル=120円まで円安が進んだところで売却したら、利益はどのようになるでしょうか?

(90セント×1万株×120円)-(1ドル×1万株×100円)=108万円-100万円=8万円の利益となります。

 この利益には、株価下落による売却損と、為替レートが円安になったことによる為替差益が混じっているのですが、税金の計算上は両者を区別することなく、一括して売却益(譲渡益)として扱います。

 なお、売却益を円換算する際の為替レートは、米国株を売却したときのものを使いますが、証券会社の取引報告書に記載されているはずですので、それを用いればよいでしょう。

実質的に為替変動の影響のみの場合は?

 次のようなケースはどうでしょうか?

 1ドル=100円の時に株価1ドルの株を1万株購入。1年後、株価は変わらず1ドルで売却したものの、その時の為替レートは1ドル=90円になっていたとします。

 この場合、(1ドル×1万株×90円)-(1ドル×1万株×100円)=90万円-100万円=マイナス10万円(10万円の損失)となります。

 株価は1ドルのまま変わらなかったわけですから、この損失は全て為替レートの変動によりもたらされたものですが、米国株を保有している期間に生じているので、全て売却損(譲渡損)となります。

 したがって、預金から生じた為替差損と異なり、上場株式などの売却損として翌年以降3年間繰り越すことができるのです。

こんなケースはどうなるの?

ご質問1

 米国株を売却した後ドルのまま保有しています。円転しなければ為替についての申告はいらないのですか?

回答1

 まず、米国株を売却した際、上記のとおり米国株を保有していた期間にかかる為替差損益は売却損益に含まれます。売却後、円転せずドルのまま保有しているのであれば、その間の為替差損益は実現していないので、確定申告は不要です。

ご質問2

 円を為替取引で米ドルに転換して、米国株を買い付けました。為替取引の分について確定申告は必要なのですか?

回答2

 円を米ドルに換え、直ちに米国株を買い付けた場合、為替変動はないので為替差損益も生じず、確定申告は不要です。

 ただ、円を米ドル預金などに換え、しばらく保有していた後、その米ドルで米国株を買い付けた場合は、円を米ドルに換えた後、米国株を買い付けるまでの期間に生じた為替レートの変動による為替差損益が実現したことになります。したがって、為替差益が生じているときは原則として確定申告が必要となります。