米国株と日本株での配当金の税金の違いとは?

 前回に引き続き、米国株の税金についての基礎知識をお伝えします。

米国株の税金・基礎知識(その1)を読む

 今回は配当金にかかる税金についてです。

 日本株の場合、配当金にかかる税金は次の3種類から選択することができます。

(1)20.315%の源泉徴収で課税終了(確定申告しない)
(2)総合課税で確定申告する
(3)申告分離課税で確定申告する

 実は米国株も、配当金にかかる税金は上記の3種類から選択できます。

 ただし、日本株と異なる点が3つあります。それが「米国国内での源泉徴収」「配当控除」「外国税額控除」です。これらの違いがあるため、日本株の配当金にかかる税金を考えるときよりも、ややこしくなっています。

米国株の配当金の源泉徴収の仕組みは

 米国株の配当金は、まず米国にて10%の税金が差し引かれた後、残りの90%部分に対して日本にて20.315%が課税されます。

 したがって、配当金が100とすると、源泉徴収後の手残りの金額は、下記の通り約71.7となります

100-10%×79.685%約71.7(手取り)

 配当金100-71.7%=28.3%となり、配当金のうち、およそ28.3%が源泉徴収される計算です。

 日本株の場合源泉徴収税率は20.315%ですから、米国株はそれより多くの源泉徴収がなされるということです。

 その上で、上記で挙げた3点の中から、有利な課税方法を選択することになります。

申告分離課税の使い方が米国株と日本株とで異なる

 日本株の場合、配当金を申告分離課税で確定申告するのは、同じ年の上場株式などの譲渡損(売却損)や、前年以前から繰り越された上場株式などの譲渡損と配当金とを相殺するときです。

 それ以外の場合は、申告分離課税でも源泉徴収のみで完了とさせても、所得税率は同じなので、申告分離課税をあえて用いるメリットはありません。

 しかし、米国株の場合は申告分離課税を選択するシチュエーションが若干異なります。もちろん上記と同様、上場株式などの譲渡損と配当金を損益通算する際に用いることもあるのですが、それ以外に、米国で源泉徴収された税金を「外国税額控除」で取り戻すために使われるのです。

 外国税額控除とは、米国など外国で課税された税金につき、国内外での二重課税排除の観点から、日本で課税された税金の額から差し引いてくれるという仕組みです。米国株の配当金でいえば、税額が差し引かれる前の配当金のうちの10%相当の金額です。

 米国株の場合、配当金の額のうち約28.3%が源泉徴収されています。配当金以外の所得が多い方(課税所得695万円超)は、申告分離課税で確定申告し、かつ外国税額控除の適用を受けることで、このうちおよそ8.5%分を取り戻すことができます。

総合課税を用いるケースとは?

 総合課税を用いるケースは、配当金以外の所得が少ないときです。申告分離課税を選択し、かつ外国税額控除の適用を受けた場合の所得税の税率は15%(復興特別所得税除く)となります。

 したがって、課税所得が330万円以下であれば、所得税の税率は10%なので、申告分離課税や源泉徴収のみで完了させるより、総合課税の方が有利となります。

 ここで気を付けたいのが、配当控除についてです。日本株式の配当金を総合課税で確定申告した場合、配当控除の適用がありますが、外国株式の配当金の場合は配当控除が適用されません。

 そのため、日本株式の配当金であれば課税所得900万円以下なら総合課税で確定申告するのが有利なのですが、外国株式の配当金はそのラインが課税所得330万円以下に下がることになります。

差し引ける税金がないと外国税額控除の適用が受けられない

 もう一つ気をつけておきたいのが、外国税額控除の適用についてです。

 仮に配当金以外に他の所得がないとすると、日本株の配当金の場合は、総合課税で確定申告することにより、源泉徴収された税金がすべて戻ってきます。

 しかし、米国株の配当金の場合は、日本国内で源泉徴収された税金はすべて戻ってきますが、米国で源泉徴収された税金については、外国税額控除として差し引ける日本国内の税金がそもそもないため、取られっぱなしで終わってしまうのです。

 したがって、所得が少ない方の場合は、米国株の場合配当金の10%はどうしても課税されてしまうという点を理解しておいてください。

 なお、外国税額控除は、控除できなかった額を3年間繰り越すことができるため、翌年以降所得税額が発生した場合、そこから外国税額控除の適用を受けることができます。

源泉徴収のみで終了とさせるケースは少ない

 米国株の場合は、配当金の税金の3つの課税方法のうち、源泉徴収のみで終了(申告不要)とさせるケースは少ないと思います。

 配当金以外の所得が多い方は、日本株の配当であれば確定申告するよりも源泉徴収のみで終了とさせる方が有利になります。

 しかし米国株の配当は、源泉徴収のみで終了とさせると、外国税額控除の適用を受けられないため、配当金以外の所得が多ければ申告分離課税で確定申告する方が有利となるのです。そして配当金以外の所得が少ない方は総合課税で確定申告する方が有利となります。

 したがって、源泉徴収のみで完了とするのは、例えば配当金を確定申告することにより配偶者控除が使えなくなってしまうなど、確定申告をしない方がトータルで見て有利な場合となります。

日本株と米国株の両方の配当金がある場合は?

 日本株の配当金と米国株の配当金の両方がある場合、さらに話がややこしくなってきます。両方の配当金をあわせて、3つのうちどの方法が有利かを判定する必要があるからです。

 例えば日本株の配当金のみであれば総合課税で確定申告するのが有利、米国株の配当金のみであれば申告分離課税で確定申告するのが有利というケースもあります。

 しかし、確定申告する配当金は、総合課税か申告分離課税のいずれか1つのみに統一しなければならないことになっています。

 そのため、上記のケースであれば、米国株の配当金は申告分離課税で確定申告し、日本株の配当金は源泉徴収のみで完了させる、もしくは日本株、米国株とも総合課税で確定申告する…といったように、有利な方法をシミュレーションの上決めていく必要があるのです。

 まとめると、次のようになります。

  • 配当金以外の所得が少ない場合:総合課税で確定申告するのが有利
  • 配当金以外の所得が多い場合:申告分離課税で確定申告するのが有利
  • 確定申告することにより配偶者控除などが使えなくなるためかえって負担が大きくなる場合:源泉徴収のみで課税を完了させる(確定申告しない)のが有利

 その上で、一人ひとりが、おかれた状況を踏まえ、どの方法がご自身にとって有利になるかどうかを事前にシミュレーションした上、必要に応じて税務署や税理士などにご相談の上、判断するようにしてください。

 今回ご説明した内容はあくまで一般的なケースを想定しており、場合によってはこれとは異なる結果になる可能性もありますので、慎重な判断をお願いします。

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