【今日のまとめ】

  • 米銀の第2四半期決算が出揃った
  • 消費者向け融資のビジネスは各行とも活況
  • シェール企業向け融資の見通しは改善
  • 債券トレーディングは上向いた
  • 銀行セクターは利上げ局面で人気化するかも
  • 投資銀行部門の成績はJPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループの順番で良かった
  • ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは精彩に欠いている

米銀の第2四半期決算が出揃った

米銀の第2四半期決算が出揃いました。

まず全体像ですが、今回の決算の特徴として各行とも消費者向け融資が活発でした。

アメリカの消費者は、リーマンショック以降、家計の負債を圧縮してきました。その一方で雇用環境は安定しており、一部では賃上げの動きもあります。

このため消費者向け貸付は、今後、しばらくの間、順調に伸びてゆくと思われます。

消費者向け貸付が増えると、将来の焦げ付きリスクは高まります。実際、自動車ローン市場では過当競争が起き始めています。クレジットカード・ローン残高の奪い合い競争も起こっています。

ただ、現在の消費者向け融資の焦げ付き比率は、歴史的に低い水準です。従って貸付内容の劣化を心配するのは、しばらく先で良いと思います。いまはむしろボリューム増を素直に好感すべき局面です。

次に懸念されたシェール企業への貸付ですが、どうやら貸付内容の劣化は止まった観があります。

その理由の第一として原油価格が幾分持ち直した事が指摘できます。

またシェール企業は今年上半期に株式の公募増資などを通じて自己資本の充実に努めました。

これらのことから、シェール企業の大量倒産が信用危機を招来するというリスクは遠のいたと思います。

一方、投資銀行業務に目を転じると、各行とも債券トレーディングが幾分、持ち直しました。

債券トレーディングは、高速取引(HFT)の導入などで、最近、構造的に儲かりにくくなり始めています。

これは一時のことではなく、半永久的な利幅の圧縮だと思います。言い換えれば「債券のマーケット・メーキングは、うま味に欠けるビジネスになった」ということです。

各行とも、そういう新しい経営環境に対応するため、債券トレーディング・デスクを縮小、リストラを進めています。このため、収入と固定費のバランスは、幾分、改善しているように思われます。

例年、連邦準備制度理事会(FRB)は8月前後に年後半の金利政策に変更を加えます。その意味では今年もこの時期に政策金利に対する期待に変化が出る可能性があります。

市場参加者の多くは年末まで利上げはないと考えています。しかし英国のEU離脱国民投票以降、世界の資本市場が安定していることから、そのような政策金利のロードマップは見直されるべき時が来ているのかもしれません。

政策金利のシナリオとの絡みで、極端に縮んでいた長短金利差が、今後、再び拡大する兆しを見せれば、長短金利差の拡大時に人気化しやすい銀行株にも、ようやくスポットライトが当てられることも予想されます。

JPモルガン

JPモルガン(ティッカーシンボル:JPM)は、世界的に投資銀行ビジネスが低調な中、健闘しています。世界第1位の投資銀行として、2位以下との差を拡大しています。

第2四半期決算は、EPSが予想$1.43に対し$1.55、売上高は予想238.4億ドルに対し244億ドル、売上高成長率は前年比+2.5%でした。

純金利収入は+6%の117億ドルでした。ローン残高は増えました。また貸付金利は上昇しました。これらが純金利収入増加の原因です。

その反面、在庫に抱えている証券類の残高が減少したことが純金利収入の伸びを抑える原因となりました。

非金利収入は±0%の136億ドルでした。マーケッツ部門の収入は、債券部門が+35%と好調だったことを背景に+23%増加しましたが、資産運用と投資銀行の売上高は減少しました。

貸倒引当金は前期の9.35億ドルから14億ドルへ増加しました。これは引当の積み増しと損金計上の増加が原因です。

クレジットカードでは比較的新しいカード顧客の引当が増加しました。また自動車ローンでは競争の激化から貸し手がリスクを多く取り始めており、その分、焦げ付きもふえています。その関係で同行の損金計上も増えました。

平均コア融資残高は前年比+16%、前期比+3%でした。消費者&コミュニティ向け平均コア融資残高は前年比+23%でした。

ホールセールの貸付の損金計上は2億ドルでしたが、そのうち1.5億ドルは石油業界でした。なおこれまでのところシェール業界における信用の悪化は他のセクターに飛び火していませんし、状況の一段の悪化も見られていません。

法人&投資部門の純金利収入は+6%の25億ドルでした。このうち投資銀行部門は株式引受手数料の減少を受け-15%の15億ドルでした。

タンジブル・ブックバリューは+9%の50.21ドルでした。株主資本利益率は10%、ROTCE(リターン・オン・タンジブル・コモン・エクイティー)は13%でした。

純金利マージンは2.25%でした。これは去年の2.30%より下落しました。

決算カンファレンス・コールでは英国のEU離脱の国民投票に関して質問が出ました。同行の考えでは、あのニュースの後の世界の資本市場は、正常に機能しており、ボラティリティの増加を良く吸収することができたというものです。また今後は、ゆっくりと離脱のプロセスが進んでゆくものと見ています。

ウエルズファーゴ

ウエルズファーゴ(ティッカーシンボル:WFC)の第2四半期決算は、EPSが予想に一致する$1.01、売上高が予想220.9億ドルに対し221億ドル、売上高成長率は前年比+4%でした。

純金利収入は去年同期より6,600万ドル増の117億ドルでした。GEキャピタル買収による融資残高増が増収に寄与しました。

純金利マージンは2.86%でした。これは去年同期に比べ4ベーシス・ポイント悪化しました。

総融資残高は+1%の9,572億ドルでした。

同行の非金利収入の1割を占める住宅ローンのオリジネーションは630億ドルでした。

総資産利益率は1.2%、株主資本利益率は11.7%、ROTCEは14.15%でした。

カンファレンス・コールでは「米国経済は全般的にしっかりしている」というコメントがありました。また「英国のEU離脱はウエルズファーゴには余り影響しないだろう」としています。

第3四半期の住宅ローン・オリジネーションは第2四半期に比べて少し増えると予想しています。また非金利収入は去年より大きくなると見ています。

景気のサイクルから考えて、今後貸倒引当金はだんだん増えてくると同社では予想しています。

石油業界に対する貸付に関しては引き続き慎重な態度を崩していません。ただ石油会社の多くは株式の発行その他の方法で資金を調達できており、資産売却によるスリム化を進めている石油会社もあります。ウエルズファーゴの損金計上は5,900万ドル増加しました。しかし石油業界に対するエクスポージャーは全体で10%削減しました。

バンク・オブ・アメリカ

バンク・オブ・アメリカ(ティッカーシンボル:BAC)の第2四半期決算は、EPSが予想33¢に対し36¢、売上高が予想205.2億ドルに対し206億ドル、売上高成長率は前年比-7.2%でした。

純金利収入は92億ドルでした。これは前年同期の105億ドルより減りました。純金利イールドは2.03%でした。これは前期比2ベーシス・ポイント下落しました。

純金利マージンのトレンドには、相変わらずがっかりさせられるものがありますが、同行の経営陣は第4四半期あたりから純金利収入が拡大すると見ています。

預金は良い感じで増加しています。それを積極的に融資に回したいところですが、貸付先の質も考慮しないといけないので、増えた貸付余力を全てローンに回すことは期待薄です。ちなみに今期の総融資残高は9,032億ドルでした。これは前年比+2%でした。

貸倒引当金は9.76億ドルでした。これは予想より少なかったです。損金計上は9.85億ドルでした。これは前年同期の11億ドルから下がりました。

エネルギー・セクターへの貸付は前期比-3%でした。これはロー・リスクの借り手からの資金需要が減ったことが原因です。

エネルギー・セクターへの貸付の損金計上は2,300万ドル減の7,900万ドルでした。引当金は10億ドルで、引当費用は3.52億ドル減りました。

消費者向け融資の支払い遅延のトレンドは引き続き改善基調です。

消費者向け融資の損金計上比率は引き続き低水準です。

住宅ローン・オリジネーションは14億ドル(+8%)増え、206億ドルでした。

総資産利益率は0.78%でした。株式資本利益率は6.5%でした。ROTCEは9.2%でした。

一株当たり簿価は+8%の23.67%でした。タンジブル・ブックバリューは+11%の16.68ドルでした。

メリルリンチ部門のセールス&トレーディング収入は+14%でした。債券は+27%、株式は-8%でした。

シティグループ

シティグループ(ティッカーシンボル:C)の第2四半期決算は、EPSが予想$1.10に対し$1.24、売上高が予想174.8億ドルに対し175.5億ドル、売上高成長率は前年比-9.9%でした。

融資残高は6,340億ドルでした。これは前年同期とほぼ不変です。

クレジットカードの売上高は-1%の19億ドルでした。新しく獲得したコストコ・カードのビジネスが、ボリューム増に貢献した反面、クレジットカード残高の獲得競争で、リワード費用が増加し、利益を圧迫しました。加えて消費者がクレジットカードの借金を圧縮する動きに出ていることもボリュームを圧迫しました。

これまでのコストコ・カードの成績は、同行の経営陣の期待を上回っています。獲得時に106億ドルだった残高は、現在113億ドルに拡大しています。

アジアの消費者向けビジネスは、下半期に再び成長に転じると見ています。また南米の支払い遅延ローンのトレンドも下半期には改善に向かうと見ています。メキシコの消費者向けビジネスはすでに予想以上の好成績を出しています。

シティグループ全体の費用は、今期103億ドルでした。これは前年同期の109億ドルより圧縮されています。

貸付けの焦げ付きは16.1億ドルでした。これは前年同期の19.2億ドルより改善しました。

貸倒引当金は、差し引き2.56億ドルの減少になりました。

石油業界に対する貸付は、同行の場合、大手が中心です。この関係で焦げ付きは多くありません。過去に取った引当で損金はカバー出来ています。

インスティチューショナル・クライアント・グループの売上高は-2%の88億ドルでした。そのうちマーケッツ&セキュリティ・サービス部門は+10%、バンキング部門は-5%でした。前回の決算で予想以上の成績を出した債券部門は、今期は+14%の35億ドルでした。

第2四半期の純金利マージンは2.86%でした。下半期にはこれが2.9%に向けて拡大すると予想しています。

一株当たり簿価は$73.19ドルでした。総資産利益率は0.89%でした。ROTCEは8.0%でした。

ゴールドマン・サックス

ゴールドマン・サックス(ティッカーシンボル:GS)の第2四半期決算は、EPSが予想$3.05に対し$3.72、売上高が予想74.8億ドルに対し79.3億ドル、売上高成長率は前年比-12.5%でした。

株主資本利益率は8.7%でした。これは第1四半期の7.5%から改善しました。

投資銀行部門の売上高は17.9億ドルでした。これは前年比-11%、前期比+22%でした。

うちアドバイザリー業務は7.94億ドルで前年比-3%でした。M&Aが低調だったのが原因です。

引受業務は9.93億ドル、前年比-17%でした。株式の引受け案件の激減がその原因です。一方、ABSの引受けは好調でした。

機関投資家向けサービス部門の売上高は36.8億ドルで、前年比+2%でした。債券・為替・コモディティ部門の売上高は19.3億ドルで、前年比+20%でした。株式部門は17.5億ドルで前年比-12%でした。特にアジア部門が不調でした。

全体として今回の決算は、ゴールドマン・サックスらしくない、精彩に欠く平凡なもので、収益性の面でも他行に劣後しはじめているのが気になります。

モルガン・スタンレー

モルガン・スタンレー(ティッカーシンボル:MS)の第2四半期決算は、EPSが予想59¢に対し75¢、売上高が予想83.1億ドルに対し89.1億ドル、売上高成長率は前年比-8.6%でした。

株主資本利益率は8.3%でした。

機関投資家証券部門の売上高は46億ドルでした。アドバイザリーは4.97億ドルでした。株式引受フィーは2.66億ドルでした。債券引受フィーは3.45億ドルでした。株式セールス&トレーディングは21億ドルでした。債券為替コモディティのセールス&トレーディングは13億ドルでした。

富裕層資産運用ビジネスの売上高は38億ドルでした。投資運用ビジネスの売上高は5.83億ドルでした。

伝統的にモルガン・スタンレーは素晴らしい株式部を持っており、ゴールドマン・サックスと並んで投資銀行界の両雄と見做されていますが、今回の決算は、第1四半期決算同様、いまひとつ精彩に欠け、下位の投資銀行との差は詰まり始めている印象があります。