【今日のまとめ】
- 石油サービスは豊富な経験とハイテクを使いこなすことが要求される
- 原油・天然ガス価格の低迷で石油サービス株は安値にある
- シュルンベルジェは付加価値の高いビジネスで他社をリードしている
- ハリバートンは仕上げ井、生産に強い
- ヘルメリッチ&ペインは最新鋭のリグでシェール企業を支援
- トランスオーシャンは営業キャッシュフローを生む力がすごい
- カーボセラミックスは顧客が安い製品にシフトしているので苦しい
石油サービス・セクターの概観
石油サービス・セクターに属する企業は、石油会社に対し、油田の探索、地質データの分析、油井の掘削、生産などにまつわるサービスなどを提供します。代表的な事業内容には:
- 油層評価
- 坑井内地震探査計測装置
- 圧力計測装置
- データ伝送装置
- 地層内流体分析装置
- 地震計測データ処理装置
- データ解析ソフトウェア
- ジャッキアップ・リグ
- セミサブマーシブル
- 掘削船
- 噴出防止装置(ブロウアウト・プリベンター)
- 浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)
- 掘削液
が含まれます。これらを使いこなし、役務を遂行するには、大がかりなハードウェア、高度なソフトウェア、膨大なデータを扱える専門性に加え、豊富な実務経験が要求されます。
経営環境
石油サービス会社は、シェール革命において、探索・生産会社の下請けの立場で、実際にこれらの高度なツールを提供し、難易度の高いシェール開発を可能にしてきた功労者です。
しかしシェールの圧倒的な成功がもたらした石油ならびに天然ガス価格の下落は、リグ(油井)活動の低迷というカタチで同セクターに属する企業を苦しめています。
2008年8月29日のピーク時に1,606本を数えた天然ガスのリグは2016年3月11日現在で僅か94本にまで激減しました。同様に2014年10月10日のピーク時に1,609本を数えた石油リグは2016年3月11日現在386本に減っています。
活動のピークの2014年10月以降に休止された約1,400本のリグのうち900本は旧式な機械式リグです。500本はAC駆動型リグです。
石油業界の設備投資は2年連続して前年比マイナスを記録していますが、これは第2次オイルショック後の原油価格のバブルが崩壊した1980年代以来で初めてのことです。
地域別ではシェール・ブームで石油ならびに天然ガスが余ってしまった米国が最も深刻です。
しかし原油価格の下落は米国の石油会社のみならず世界の産油国にプレッシャーを与えています。具体的にはブラジル、メキシコ、インド、オーストラリアなどでの探索・生産はかなり落ち込むと予想されています。また北海油田やアンゴラなどのオフショア油田も大きな影響を受けると予想されています。
これと対照的に中東産油国は比較的落ち込みが小さいと予想されています。
この厳しい経営環境を反映し、石油サービス株はいずれも高値から大幅に下落しました。
しかし原油価格ならびに天然ガス価格が底入れすれば、石油サービス株も出直ることが予想されます。
シュルンベルジェ
シュルンベルジェ(ティッカーシンボル:SLB)は時価総額ベースで世界最大の石油サービス企業です。
同社の創業は1926年で、石油探索にまつわるデータ収集ならびに解析で圧倒的な強さを誇っています。
同社の本社はテキサス州ヒューストンですが、フランスのパリにも大きな拠点があり、世界中の顧客をカバーできるネットワークを持っています。
去年は米国のシェール企業が大幅に稼働リグ数を絞り込んだ関係で、シュルンベルジェの北米の売上高は前年比-39%でした。これに対し海外の売上高は-21%にとどまりました。シュルンベルジェは、どちらかといえば米国のシェール企業に対する依存度が低いため、売上高の落ち込みは他社より軽微でした。
シュルンベルジェの純負債額は55億ドル前後で安定的に推移しています。
同社のバランスシートは強固で、利払い能力への不安はありません。
シュルンベルジェは2015年8月にキャメロン・インターナショナルを買収しました。キャメロン・インターナショナルは噴出防止装置(ブロウアウト・プリベンター)のメーカーです。
2015年中は人員削減に伴う費用発生(9.2億ドル)や固定資産の評価損の計上(7.76億ドル)により、合計25.8億ドルの税引き前損失が発生しました。
その関係で利益額は配当より小さくなっています。しかし営業キャッシュフローは配当の3.46倍あり、不健全ではありません。
- 【略号の読み方】
- DPS 一株当たり配当
- EPS 一株当たり利益
- CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
- SPS 一株当たり売上高
2016年の見通しですが、去年に引き続き、今年も厳しい経営環境になると同社では予想しています。
ハリバートン
ハリバートン(ティッカーシンボル:HAL)は1919年に創業された石油サービス会社で、探索から油層評価、掘削、仕上げ井、生産まで一貫したサービスを提供できる体制になっています。
その中でもとりわけ仕上げ井・生産に強いです。
同社の地域別売上高は下のようになっています。
2015年の北米の売上高は-39%でした。海外の売上高は-16%でした。
ハリバートンの顧客は今年に入ってから予算の見直しを頻繁に行っており、その度に先行投資予算は下方修正されています。この関係で、ハリバートンの売上見通しは極めて立てにくくなっています。
米国の顧客は石油生産機器の半分以上を休止状態にしており、消耗部品、交換部品を休止しているリグから剥がし、稼働しているリグに流用しています。これは目先の支出をおさえる効果がありますが、原油価格が反発した局面ではそれらのリグを再始動することが困難になることを意味します。
ハリバートンの業績は下のグラフのようになっています。
同社の2015年の設備投資額は22億ドルでした。2016年の設備投資予定額が16億ドルです。また2015年中に全従業員の25%を削減しました。
ハリバートンはライバルのベーカー・ヒューズ(ティッカーシンボル:BHI)を買収することで合意しています。このM&Aでは独禁法の見地から各国での承認が必要です。ハリバートンは合併の結果、マーケットシェアが高くなりすぎる分野に関しては資産売却により市場占有率を下げる考えです。
ヘルメリッチ&ペイン
ヘルメリッチ&ペイン(ティッカーシンボル:HP)は最近のシェール企業が好む、とても深く、水平に長く掘れる、大掛かりで、ハイテクを駆使したリグに特化した企業です。
同社の「フレックス」シリーズは1,500馬力以上のAC駆動型リグであり、最も複雑で、難易度の高い掘削・生産を、極めて効率的にこなせます。
同社は350基の1,500馬力のAC駆動型のリグを保有しています。このうち180基は、いわゆるマルチ・パッド・ドリリングと呼ばれる、長いラテラル(斜め掘り)オペレーションが出来る最新鋭機です。
2014年に15%だった市場占有率は現在18%に伸びています。
2014年10月に米国のリグ活動がピークを付けて以来、ヘルメリッチ&ペインの長期契約リグのうち77基がキャンセルになりました。それらに関しては合計4.29億ドルの違約金が入って来る見込みです。前期の時点での総キャンセル数は60基でした。
2015年1月現在、347基の自社所有リグのうち121基が稼働中、226基が休止中です。
93基は長期契約、28基はスポット市場で運用されています。
同社は、無借金経営です。
営業キャッシュフローを生む力は、素晴らしいと思います。
トランスオーシャン
トランスオーシャン(ティッカーシンボル:RIG)は海洋掘削請負業者です。現在の同社のリグの稼働状況は下のグラフの通りです。
同社のリグは下のグラフに示された地域で操業しています。
同社の売上高は原油価格の低迷とそれに伴う探索・生産活動の鈍化で大幅に下がっています。
しかし営業キャッシュフローは大変立派な数字です。
同社はコスト削減のため重要でないオフィスを全て閉鎖し、本社のあるヒューストンにオペレーションを集約しました。また中間管理職を廃し、組織をフラットにしました。
老朽化し、競争力の無いリグは、どんどんスクラップにしました。
トランスオーシャンは厳しい経営環境下でマーケットシェアを伸ばしています。また同社のバランスシートは強固で、原油価格の低迷が長期化した場合でも生き残ることができると思います。
カーボセラミックス
同社はシェール開発の際、破砕法で岩盤に亀裂を入れた後、石油や天然ガスの流れを良くするために注入されるセラミック・プロパントを作っています。これは「砂」で代用されることもありますが、より効率よく生産するには、粒のそろった樹脂コートされたプロパントやセラミック・プロパントが好まれます。
「砂」は一番廉価であり、この分野では中国の業者がマーケットシェアを伸ばしています。これは価格破壊の原因となっています。
カーボセラミックスはよりハイエンドのセラミック・プロパントならびに樹脂コートされたプロパントを中心に事業展開しています。
現在のようにリグ活動が低迷している状況では、石油・天然ガスの探索・生産会社はなるべくコストを節約しようとするため、安い「砂」に切り替えるケースが多いです。これはカーボセラミックスにとって苦しい状況です。
下は同社の一株当たりの業績のグラフです。
同社は無借金経営です。
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