【今日のまとめ】

  • マーケットは実体経済に比べ過剰反応している?
  • 今年の米国は暖冬なので過去2年のスランプは経験しない?
  • 労働市場は最高に良い状態
  • 確かに製造業は減速しているが米国経済に占める割合は低い
  • 消費者は負債を圧縮している
  • 欧州経済も回復の兆しが見えている

実体経済よりマーケットは過剰反応している?

新年が明けてから世界的な株安が続いています。そこで今回は「世界経済は、本当にそんなに悪いのか?」ということを駆け足で点検してみたいと思います。

まず米国の実質GDPですが、米国商務省によると第3四半期は+2.0%でした。

去年、一昨年と2回連続で冬場にGDPの落ち込みが見られました。また冬場のGDPの速報値は、後で大きく改訂されることが多いです。これらのことは1)季節調整の手法に問題がある、2)天候不順の影響を大きく受けやすい、ということによると説明されることが多いです。

従って今年も冬場のGDPの数字は、あまりアテに出来ないかもしれません。ただ今年は米国東部を中心に記録的な暖冬でしたので、豪雪による経済活動のストップという要因は除外できると思います。

労働市場

次に労働市場に目を移すと、これは手放しに絶好調と言えると思います。下は新規失業保険申請件数のグラフで、このグラフは下に行けば行くほど景気が強いと言う風に解釈します。

これを見ると現在はリストラされて、失業保険を提出する人の数が歴史的に低い水準であることがわかります。実際、現在の極めて低い水準(毎週28万人程度)は1970年代前半まで遡らないと存在しませんでした。

雇用の創出も好調です。

労働省統計局によれば米国の雇用のうち86%はサービス業で、去年1年間にサービス業だけで230万人の新規雇用がありました。

製造業はどうだ?

最近、中国経済が鈍化している関係で、コモディティの価格や安くなっていますし、原油安でアメリカの石油産業や製造業でもレイオフが増えているという報道があります。

確かに米国の設備稼働率は最近、下がり気味です。

ただ米国が景気後退に入ってゆく場合は、経験則として設備稼働率が一気に5パーセンテージ・ポイントほど下がることが通例でした。今は去年の秋から未だ1.5パーセンテージ・ポイントしか下がっていないので、不況の入り口に来ているという主張をするには無理があるように思います。

労働市場全体に占める製造業の割合は9%です。だから製造業が大きく落ち込んだとしてもそれが雇用全体に与える影響は限定的です。

失業率はFRBが「ほぼ完全雇用の状態に近い」と考える5%に到達しています。

このことは今後米国の賃金も上がりはじめることを示唆しています。

消費者のフトコロ具合

原油安でガソリン代は下がっています。アメリカ人の多くはマイカー通勤です。その関係でガソリン代が下がるということは、お小遣いが増えるのと同じ効果があります。

リーマンショック以降、米国の消費者は家計の負債の圧縮に取り組んできました。下は米国の大手銀行の住宅ローンとクレジットカードの損金計上額のグラフです。

焦げ付きは、どんどん少なくなっていることがわかります。

いま、雇用が安定していて、賃金は上昇が見込めるし、ガソリン代の下落で手元のキャッシュは増えたし、カード・ローンの返済は捗っているということになると、当然、消費者のマインドはそれなりに改善を見ることが予期されます。

実際、ミシガン大学消費者信頼感指数は改善基調です。

欧州に目を転じると

一方、ヨーロッパに目を転じてみると、こちらも景気回復の途上にあります。

下はユーロ圏の失業率です。

いままで11%台に張り付いて、なかなか失業率が下がらなかったのですが、最近はスルスル下がり始めています。国別ではもともと失業率が高かったことで知られるスペインでも改善が著しいですし、イタリアや、つい最近まで失業率が上昇して投資家の落胆を誘ってきたフランスまでもが着実に改善の途上にあります。

鉱工業生産は、これまで強かったドイツの場合、フォルクスワーゲンの排ガス・スキャンダルなどの影響で少し陰りが見えるものの、南欧諸国は改善基調にあります。

以上のような理由から、「世界経済がリセッションに入る」という主張は説得力に欠けると思います。