【今日のまとめ】
- フォルクスワーゲン不正問題がドイツ経済に与える影響が懸念されている
- ユーロ安、原油安、労働市場の活況でドイツ経済は好調
- ドイツは巨大な輸出能力を維持している
- 徒弟制度が雇用の要(かなめ)となっている
- ドイツの自動車産業はグローバルに競争力がある
- 経済指標には今回のスキャンダルの影響は未だ現れていない
フォルクスワーゲン不正問題がドイツ経済に与える影響が懸念されている
ギリシャ問題が当面の危機を回避することができたこともあり、このところのドイツ経済は順調です。しかしフォルクスワーゲンが米国の排ガス規制に関し、不正ソフトウェアによってテストを誤魔化していた問題が発覚し、それがフォルクスワーゲンやドイツ経済に与える影響に対する投資家の不安が高まっています。
そこで今日はドイツ経済の近況について述べます。
ドイツ経済は好調
全般にドイツ経済は好調です。この理由はユーロ安、原油安、労働市場がしっかりしている事などによります。
下はドイツの実質GDP成長率です。
物価は原油安の影響で安定しています。
失業率は東西ドイツが統合されて以来、最低の水準です。
ドイツの財政収支は黒字が維持されています。
ドイツが巨大な輸出能力を維持できるわけ
ドイツの場合、共通通貨ユーロを使用している関係で、常にドイツ経済の実力に照らして通貨は割安になっています。これは輸出の際、同国が有利な立場にあることを示唆しています。
またEU自由貿易圏の存在は、関税や通関事務の煩雑などを心配することなく直ぐに輸出出来る事を意味します。
これらの事から、ドイツは常に国内市場が許容できる供給を遥かに上回る生産能力を維持することが出来ました。
徒弟制度が雇用の要(かなめ)になっている
ドイツの企業では徒弟制度に似た熟練工養成プログラムが普及しており、終身雇用に近い形で、高度なスキルを身に着けた労働者を会社がキープします。
その問題点として、ドイツは日本同様、少子高齢化を経験しており、若い労働力が慢性的に不足しはじめている点が挙げられます。
シリアやアフガニスタンから難民が欧州に押し寄せた問題では、ドイツが真っ先に難民の受け入れに積極的な姿勢を打ち出しました。今年だけで80万人もの難民を受け入れる予定です。その背景には、ドイツの産業構造として、他国よりワーカーを受け入れやすい状況にあることを指摘する必要があるでしょう。
下は欧州各国の失業率を、出身別で分解したグラフです。
これを見るとフランスやスウェーデンは国内に永住している外国人の失業率が自国民に比べて著しく高く、難民を吸収する余地が無いことが分かります。それに比べるとドイツは失業率そのものが低いのに加えて、外国人の失業率も低く、受け皿があることを示唆しています。
言い換えれば、難民が押し寄せることでドイツ経済がパンクすることは無いのです。
ドイツの自動車産業
むしろ懸念されるのはドイツ最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンが起こしたスキャンダルの同社の経営へのインパクト、ひいてはそれがドイツ経済に与える影響です。
ドイツは世界の自動車生産の17%を占めています。ドイツの自動車産業は国内で76万人を雇用しており、工業売上高の20%を占めています。ドイツの自動車輸出額は年間2,000億ユーロを超えており、ドイツ国内で生産された自動車の77%は輸出されます。
とりわけドイツ車は高級(ラグジャリー)車のカテゴリーでグローバル・シェアの46%を占めており、米国の12%、日本の6%を圧倒しています。
このようにクルマ作りでは圧倒的な競争優位に立つ一方で、ドイツ企業、とりわけ今回問題を起こしたフォルクスワーゲンの企業統治(ガバナンス)に関しては、昔から投資家の間から危惧の声が上がっていました。言い換えれば、同族経営の弊害です。
今回のスキャンダルではフォルクスワーゲンは罰金の他、無数の集団訴訟に遭うことが予想されます。それらの法務費用が同社の経営を圧迫する可能性もあるわけです。
この問題は、未だ発覚して日が浅いので、ドイツの経済指標には影響が出ていません。今後、ドイツ産業界がどれだけ今回のスキャンダルの「とばっちり」を受けるかに注目したいと思います。
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