前回までは、主に投資家の行動ギャップが引き起こすリターンの低下について書いてきました。しかし、全ての方がご自身で商品内容を十分に理解した上で意思決定をして取引をしているわけではなく、特に投資信託については対面の金融機関で勧められるままに買っている方も少なくないのではないでしょうか。そこで今回のコラムでは、なぜ対面の金融機関で投資信託を買うと期待した成績が出ないのか、考えてみたいと思います。

ポートフォリオ提案がされていない

日本の売れ筋投資信託上位5銘柄(純増ベース)

(注:金融庁HP 金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第4回)事務局説明資料より)

こちらは過去5年間の日本の投資信託の残高推移ですが、毎年売れ筋商品が変わります。これはその年に値上がりしそうなものが単品で販売されていることが理由かと思います。日本証券業協会の調査でも、約半数の方が投資信託を1銘柄しか持っていないという数字が出ています。

米国ではポートフォリオ提案がされていますので、そのコアとなる資産クラス(先進国の株式、債券)が継続的に残高上位になっています。一方、日本の場合はコアではないリスクの高い資産クラス(ハイ・イールドやUSリート)などが上位になっており、しかも毎年のように売れ筋商品が変わります。

お客様のライフプランに合ったポートフォリオ提案がされていないので、その単品商品の価格が上がったか、下がったかに目がいってしまいます。

コストが高い

投資信託を買う際には、販売手数料と信託報酬がかかります。日本経済新聞によれば、2015年の公募投信の平均保有期間は2.7年。仮に対面金融機関で取引をしていて、5年間でAファンドを最初の2.5年持った後、Bファンドに乗り換えを勧められたと仮定します。この場合の支払ったコストを計算すると、販売手数料が2回分で約6%。年間の信託報酬を約1.5%とすると5年間分で7.5%になり合計で13.5%のコストを支払っていることになります。

これを年間に直すと約2.7%になりますので、売り手側はコスト以上のリターンが狙えるものを勧めなければと考え、結果、ハイ・イールドやUSリートなどのリスクの高い資産クラスが売れ筋の上位になっているのです。

この販売手数料と、信託報酬の約半分を占める代行手数料は、販売した金融機関の収入となります。もちろんコストというのはサービスの対価ですので、全てが悪いわけではありません。しかし、皆さんはお付き合いをしている金融機関の担当者から、本当に販売手数料分のサービスを提供してもらっているでしょうか。商品を買ってもらいたい時だけ連絡をしてきて、その後のアフターフォローはなし、そして3年で担当者がコロコロ変わってしまうということはないでしょうか。

売り手のインセンティブと情報の非対称性

ソムリエというのは、お客様に出されたフレンチに合うワインをセレクトし、ワインと料理のマリアージュを楽しんでもらってリピートしてもらうことを考えます。これを金融機関の売り手の立場に直すと、いい金融商品を長期的に保有してもらい、その残高から報酬を頂戴し、お客様の資産が増えるとまたリピートオーダーが来るというのが正の循環だと思います。

ただ、金融商品の場合は買い手がその商品の良し悪しを判断することが難しく、また変動商品のため、「下がる前に売っておきましょう」「AファンドよりもBファンドの方がいいですよ」と言われれば従ってしまうものです。そして残念ながら、現在多くの金融機関で働く営業パーソンのインセンティブがこの販売手数料を稼ぐことになっており、長期的なお客様の資産の成長につながっていません。

長期的にその投資信託を保有されると販売手数料が入ってこないので、早く値上がりしそうなものを提案する。運良く上がれば、それを売って違うものを勧める。またそれが下がったら、損切りをさせて違うもので挽回させて欲しいと勧める。金融機関の売り手のインセンティブと投資家のインセンティブが同じ方向を向いていないため、このようなことが起こってしまい、結果的にそれが投資家のリターンを大きく下げてしまっています。

20年前の米国でも同じようなことが起こっていました。ただ米国は販売手数料主体のビジネスモデルから残高手数料主体に大きく舵を切り、投資家の信頼を得ました。この話は次回のコラムでしたいと思います。