株式投資で投資対象銘柄を選ぶとき、企業が発表する業績予想を参考にする個人投資家は多いと思います。でも、プロ投資家はそれら業績予想を参考にはしていません。いったいなぜなのでしょうか?
ファンダメンタル分析の基本は「業績のよい企業」を探すこと
2012年終わりにアベノミクス相場が始まって以降、企業の業績と株価が連動することが非常に多くなりました。月足チャートで見ると何年もの間、きれいな右肩上がりの上昇トレンドを続けている個別銘柄も少なくありません。そうした銘柄のほとんどは、毎年売上も利益も増加している増収増益銘柄、いわゆる「成長株」「グロース株」です。
私たち個人投資家がそうした長期的な株価上昇が見込まれる銘柄を探すときには、例えば会社四季報で過去数年間増収増益が続き、かつ業績予想をみて当期以降も増収増益が予想される銘柄を見つけるのが最も簡単な手法です。
では、俗に「プロ投資家」と呼ばれるアナリストや機関投資家の人たちも同じような方法で銘柄を選んでいるかというと、全くそんなことはありません。
個人投資家の行うファンダメンタル分析は「ほんのさわりの部分」だけ
また、個人投資家がファンダメンタル分析で用いる指標として、PER、PBR、ROE、配当利回りなどがあります。そして、筆者が本コラムや拙著「株を買うなら最低限知っておきたいファンダメンタル投資の教科書」(ダイヤモンド社刊)などで繰り返し申し上げているのが、「PERや配当利回りはすでに終了した実績値ではなく、当期以降の予想値を用いて計算する」という点です。株価はあくまでも過去ではなく将来を見越して動くためです。
ところがアナリストや機関投資家の人たちは、投資対象の銘柄を選ぶ際、実績値を用いたPER、配当利回りはもちろんのこと、予想値を用いたPERや配当利回りも用いることはありません。
確かに、PER、ROE、配当利回りなどはファンダメンタル分析で実際に用いられる指標ではありますが、筆者が個人投資家にお伝えしているファンダメンタル分析は、プロ投資家からみれば、実は「ほんのさわりの部分」でしかありません。
プロ投資家は四季報予想のさらに先をみている
プロ投資家は、会社が予想する当期以降の業績予想や、それらをもとにしたPER、配当利回りなどを使って個別銘柄の投資判断を行うことはまずありません。彼らは会社予想の数字を鵜呑みにはせず、自分自身で独自に、各企業の業績を予想します。
会社が発表する業績予想は当期の1期分だけです。また、会社四季報では当期及び来期の2期分の予想が記載されています。しかし、プロ投資家はさらにその翌年以降も予想します。
会社四季報の当期予想・来期予想からはじきだしたPERが50倍を超えているにもかかわらず株価が大きく上昇している銘柄をよく目にします。
これを私たち個人投資家がみると、「PERが高いのによく上がるなあ」と感じます。私は絶対にしませんが、中には「明らかに割高だ」として空売りを仕掛ける個人投資家もいることでしょう。
でも、こうした銘柄は、プロの目から見ると、確かに当期・来期は大した業績ではないが、再来期以降に一気に業績が伸びると予想していることが多いのです。個人投資家から見れば「割高で手を出せない」、プロ投資家から見れば「まだまだ割安」という状態です。
プロ投資家はどのように企業業績を予測しているのか
では、プロ投資家はどのように企業業績を予測しているのでしょうか。まず企業が発信する情報を活用すること自体は個人投資家と変わりません。ただ、個人投資家が単に企業発表の業績予想の数字のみを参考にすることが多いのに対し、プロ投資家はそれよりはるかに詳細な情報を用います。
例えば、「アナリスト・機関投資家向け決算説明会」という、プロ投資家でないと参加できない決算説明会を多くの企業では開催していて、多くのプロ投資家が参加します。そこでは、足元の決算数値についての事業別・セグメント別の詳細な説明、今後の見通し、中期経営計画の内容や進捗状況など、詳細な情報が掲載された説明会資料が配布されます。
さらには、参加しているプロ投資家と会社とで質疑応答が行われます。質問をしなくとも、他のプロ投資家がする質問の内容と会社側からの回答を聞くだけで、投資判断のための大きなヒントを得られることもあります。そのため、アナリスト・機関投資家向け決算説明会の直後に株価が大きく変動することもあります。
そして、会社側が提示したそうした詳細な資料をもとに、プロ投資家はさらに独自に企業分析を行います。例えば、飲食店であれば今後5年間にどのくらいのペースで店舗を出店していくのか、1店舗出店するごとにどのくらいの利益が見込めるのか、カニバリ(店舗間の売り上げの食い合いのこと)による利益喪失はどの程度ありそうかなどです。これに、ライバル企業の動向や参入障壁の有無、ブーム終焉のリスク、景気の見通し、為替動向、金利動向が業績に与える影響など様々な要素を加味して、ピーク時の1株当たり利益を計算します。例えばピーク時の1株当たり利益の20倍を目標株価としてそれが3,000円、現時点の株価が500円だとしたら、今の株価は目標株価より明らかに低いので投資対象として新規に買い進める、という具合です。
では、個人投資家が「ほんのさわりの部分」のファンダメンタル分析ではなく、アナリスト・機関投資家が行うような本格的なファンダメンタル分析を行うことはできないかといえば決してそんなことはありません。でも、かなりの困難を極めることも確かです。
次回は、プロ投資家が行うファンダメンタル分析にも限界があること、そして個人投資家でもプロと対峙できるような実践的な手法をお話しします。
<おしらせ>
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