今回は、PERが適正水準より明らかに高い銘柄の株価が、なぜそこからさらに大きく上昇するのか、その理由を紐解いていきたいと思います。この理屈が分からなければ、株価が大きく上昇する高成長株を買うことは永遠にできませんので、ぜひとも理解しておいてください。
なぜPER40倍という「割高」な水準からさらに株価が上昇したのか?
前々回のコラムで、日本M&Aセンター(2127)の株価が、PER40倍の水準からさらに1年で50%値上がりし、PER50倍にまで達していることをお話しました。
このように、投資の教科書でPERの適正水準とされる15~20倍をはるかに超える40倍という高PER水準からさらに株価が大きく上昇するというのは、初心者向けの投資の教科書を読んだだけでは絶対に理解できない理不尽なことです。でも、これにはちゃんとした理由があります。
前回のコラムでもご説明しましたが、PERには致命的な欠点があり、それが「当期の予想1株当たり当期純利益と同じ利益水準が今後も続いたと仮定して」PERが計算されているという点です。
日本M&Aセンターの業績の推移をみると、毎年増収増益が続き、さらに今期以降も引き続き増収増益が見込まれています。
日本M&Aセンター(2127)の業績推移(単位:百万円)
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | |
---|---|---|---|---|
2012年3月期 | 6,005 | 2,771 | 2,834 | 1,609 |
2013年3月期 | 7,214 | 3,405 | 3,437 | 2,074 |
2014年3月期 | 10,547 | 5,448 | 5,496 | 3,344 |
2015年3月期 | 12,227 | 6,098 | 6,310 | 3,950 |
2016年3月期 | 14,778 | 7,002 | 7,116 | 4,840 |
2017年3月期(予) | 16,880 | 8,000 | 8,000 | 5,430 |
ですから、足元のPERの水準が50倍であったとしても、3年後の利益が今の2倍にまで達すると市場参加者が予想していれば、3年後の利益をもとにしたPERは25倍にまで低下します。さらに、5年後の利益が今の3倍にまで達すると予想できるならば、それをもとにしたPERは17倍に低下します。
このように考えると、足元のPER50倍という、表面上高すぎるPERの水準が、将来へ向けた利益の伸びを加味して考えれば実は妥当な水準であると説明できるのです。
他にも7月15日時点でPERが80倍を超え、「万年高PER銘柄」として有名なエムスリー(2413)も、高PERが続いているにもかかわらず、月足チャートを見ると実にきれいな右肩上がりの株価を描いています。毎年増収増益かつ今後も増収増益見通しであり、将来の業績の伸びを考慮すれば株価は決して割高ではないという判断を市場参加者が下している表れといえるでしょう。
もちろん常に高PERが肯定されるわけではない点には注意
もちろん、注意点もあります。日本M&AセンターのPER50倍やエムスリーのPER80倍という株価水準が肯定されるのは、上で話したように、将来的に利益がさらに大きく伸びるという市場参加者の予想が前提です。
しかし予想というものはなかなか当たるものではなく、さらに市場参加者が予想する将来の利益水準自体も、刻々と変わっていくものです。さらには、株価がバブル的に買われ、足元の業績はそれほどでもないのに株価だけがどんどん上昇し、PERが100倍を超えてしまう、ということも十分に起こりうることです。
特に将来への期待感が大きければ大きいほどこの傾向は顕著になります。例えばバイオ関連株の代表銘柄の1つであるペプチドリーム(4587)は、一時はPERが300倍近くにまで達していましたが、株価は高値から40%近い調整をみせています。それでも7月15日時点のPERはまだ200倍近くあり、ここからさらに株価が調整してもおかしくないレベルです。
高PER銘柄は高成長プレミアの剥落に十分な注意が必要
このように、足元のPERが高い銘柄というのは、将来の利益予想によってある程度説明がつく部分と、それでは説明がつかないバブル的な予想が混在している可能性が高いです。そしてバブル的な要素が大きければ大きいほど、株価が調整したときの下落率は大きくなってしまう懸念があります。しかし残念なことに、個人投資家が、足元の株価にどの程度バブル的な要素が混ざっているかを正確に予想することは不可能です。
また、PERが高い好業績銘柄は、株価に高成長のプレミアが上乗せされていることもあり、「高成長なのだから多少の割高感も許される」という状態に置かれていることが多いです。こうした状態から、将来の高成長に少しでも陰りがみえてくると、この高成長プレミアが剥がれ落ち、株価は一気に急落する恐れがあります。最近では、ダブル・スコープ(6619)の株価急落をみるとそうした要素を強く感じます。
ダブル・スコープは5月10日の決算発表直後に株価が天井を付けた後、調整局面が続いていて、わずか2カ月で株価が60%も下落してしまいました。今期も増収増益が予想されているのですが、市場参加者が期待する水準を下回ったため、高成長プレミアがついていた分株価が大きく売られることになったと想定されます。
また、2016年3月期の業績が増収だったものの微減益となったシュッピン(3179)の株価が高値から60%値下がりしたのも、同様の理由によるものと思われます。
高PER銘柄は特に株価チャートとの併用で売買のタイミングを計るべき
ですから、実践的にはやはり株価チャートをしっかりとウォッチして、株価が下降トレンドに転じたら、高成長期待に陰りが出てきた恐れがあると判断して保有株を売却しておくのが無難です。
単に株価が一時的に調整したにすぎず再度上昇トレンドに転じたなら、その時点で買い直せばよいだけです。高PERの状態にまで株価が買われている銘柄はすでに株価水準がかなり高いところにある場合が多く、そうした銘柄がひとたび下落に転じるとダブル・スコープやシュッピンのようにあっという間に株価は半値以下になってしまいます。
実際に企業の業績発表や業績予想修正発表等で利益成長の鈍化が誰の目にも明らかになったときには、すでに株価は高値から大きく下落してしまっているのが通常です。最新の会社四季報を見る限りではそれほど業績に陰りが出ているように見えない銘柄でも、プロ投資家の目からは、すでに成長鈍化の傾向がはっきりと見えているはずです。
やはりどんなに好業績・高成長が期待できる銘柄であっても、特に株価が安値から大きく上昇した水準にあるときは、業績悪化の兆候が表れていないとしても、株価のトレンドに素直にしたがって売買するのが失敗を防ぐためには非常に有用です。
<まとめ>PERを使う上で最低限押さえておくべき重要なことがら
最後に、PERを使用する際に最低限おさえておくべき重要な点についてまとめておきます。
PERの計算式自体に問題がある
PERは、「当期の予想1株当たり当期純利益と同じ利益水準が今後も続く」という仮定で計算されています。そのため、来期以降の業績見通しについては一切反映されていません。同じPER20倍でも来期以降減益見通しであれば割高ですし、来期以降増益見通しであれば割安というように、来期以降の見通しで判断が分かれます。単にPERの数値のみで株価の割高・割安を判断するのではなく必ず将来の業績予想をチェックしたうえで判断するようにしてください。
PERは信頼性の低い指標である
①でお話ししたように、PERは来期以降の業績見通しは一切反映されませんから将来増益が見込まれる銘柄のPERは高くなり、逆に将来業績悪化が見込まれる銘柄のPERは低くなります。さらに、将来各銘柄がどの程度増益ないし減益になるかは市場参加者が単に「予想」しているにすぎません。この予想は相場環境、国内外の景気動向等により頻繁に変化していき、それに伴い株価も変動、PERも変化していきます。ですからPERの数値だけにとらわれることなく、株価のトレンドにも注視して売買のタイミングを計るべきです。
株価には先見性がある
株価には先見性があり、企業業績がピークに達するより前に株価がピークをつけることが多々あります。そして、企業業績の伸びが鈍化したことが明らかになったときには、すでに株価が高値から半値以下に値下がりしているケースも頻繁に見受けられます。
こうした株価の先見性から、株価の方が先に値下がりすることによりPERが表面上低くみえるケースが下落相場では多々見受けられます。しかし、PERからみて割安にみえたとしても、株価のトレンドを注視して下降トレンドの間は手を出さないようにすれば余計な失敗を防ぐことができます。
低PERランキングからは高成長銘柄は探せない
PERは将来の業績見通しが一切加味されませんので、将来の高成長が期待される銘柄のPERは、表面上非常に高くなります。でも、日本M&Aセンターのように、PER40倍、50倍の銘柄の株価が5倍、10倍になるのが今の相場です。こうした将来の大化け株は、低PERのランキングを見ていてもまず見つけることはできません。会社四季報や日経会社情報などで、過去の業績の推移と今後の業績見通しをみて、増収増益が続いている銘柄を自分で探す必要があります。
全3回にわたってPERの本当に基本中の基本についてお話ししてきまた。ここで書いたことに気を付けて実践していただければ、PERを用いた銘柄選びで大きな失敗をしてしまうことはほぼ避けられるはずです。PERについての論点はまだまだたくさんありますが、いつまでもPERの話ばかりするわけにもいきませんから、今後折を見て触れていきたいと思います。
<おしらせ>
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