個人投資家の多くが株式投資でうまくいかない理由、その1つとして考えられるのが「自らが経営者ではない」という点があります。株式投資では経営者の視点から考える必要がありますが、「雇う側=経営者」と、「雇われる側=サラリーマン」とでは、考え方が根本的に異なります。そこで今回は、株式投資を「経営者目線」で考えてみたいと思います。

銘柄選びは「どの商品をいくらで仕入れるか」ということ

株式投資では、どの企業の株をいくらで買うのかを決める必要があります。これは、企業経営でいえば「商品の仕入れ」です。売ろうとしている価格よりもできるだけ安く仕入れることが利益を得るためには必要となります。

本来その企業が有する価値に比べ、明らかに割安な株価で放置されている銘柄があれば、その株を買って、株価が上昇するのを待って売れば「利益」を得ることができます。これはバリュー株(割安株)投資と呼ばれる方法です。

また、将来その企業の価値がさらに上昇すると予想できれば、そんなに安くなくとも現時点で買っておけば、その後企業価値上昇に伴って株価も上昇することが期待できますから、その段階で売却して「利益」を獲得できます。この手法をグロース株(成長株)投資と呼びます。

商売でも適当に仕入れをしていても儲からないのと同様、株式投資で利益を得るためには、ただやみくもに株を買うだけではうまく行きません。買った値段より高く売れる可能性が高い銘柄を買う必要があります。もちろん、マーケットの環境が良ければ何を買ってもうまく行きますが、そうでない時期の方が圧倒的に長いのが株式投資です。そのためには、ファンダメンタル分析を行ってより株価が上昇する可能性の高い銘柄を選択することが必要不可欠となります。

高く売れなければ早めの「見切り売り」が必要

商売でも株式投資でも、仕入れたものを仕入れ値より高く売れれば利益を得ることができるのは、当たり前の話です。

では、仕入れた商品を仕入れ値より高く売ることのできない場合、どうすればよいでしょうか。このときも、経営者目線で考えると合点がいきます。

もし、あなたが八百屋を営んでいたとします。100円で仕入れた野菜を、120円で売ろうと店頭に並べましたが、なかなか売れずに夕方を迎えてしまいました。そこで仕入れ値の100円に値下げしましたが、まだ売れ残りがかなりあります。閉店まであまり時間がありません。こんなとき、あなたならどうしますか?

「100円で売らないと損をしてしまう」と100円のままの値札で売り続ければ、結局売れ残り、仕入れ値の100円が丸々ムダになってしまいます。それでは経営者として失格です。

50円に値引きして売り切れば、仕入れ価格より安く売ることになりますから赤字ですが、100円のまま売り続けて全く売れないよりもはるかにましです。

さらに突き詰めて考えると、夕方の書き入れ時に、100円ではなく90円に値下げしていれば、赤字には変わりませんが、あとで50円に再値引きするよりもトータルの手取りは多く残ったかもしれません。

こうした考え方こそが株式投資における「損切り」なのです。損切りは損失が確定してしまうので実行したくない、という個人投資家の方は非常に多いのですが、損切りを躊躇しているとさらに株価が下がって結局は塩漬け株になってしまいます。

「損して得取れ」という言葉がありますが、100円のものを90円で売れば、それだけを見れば10円損してしまうものの、残った90円でより有利な投資先に投資して、最終的には利益を得られる可能性が格段に高まるのです。

テーマ株への投資は「流行を追い求めること」

銘柄選びの方法として代表的なのは上でお話しした「グロース株(成長株)投資」と「バリュー株(割安株)投資」です。これ以外にも、例えばマーケットで話題となっているテーマ(最近であればフィンテック、AI(人工知能)、遠隔医療など)に合致した銘柄、いわゆる「テーマ株」「材料株」への投資もあります。

これを経営者目線で考えれば、「流行を追い求めること」に他なりません。洋服店で考えてみると分かりやすいかもしれません。

あなたは洋服店の経営者として、今年流行が予想される夏服を大量に仕入れました。4,000円の仕入れ値で8,000円で売るつもりでしたが、当初予想していたほどは売れません。そこで半額セールを実施し、原価トントンの4,000円に値下げしました。それでも大量の在庫が残っています。

そこで、夏のバーゲンにて赤字覚悟で7割引きの2,400円で売ることにしました。夏のシーズンが終わり流行遅れになって全く売れなくなるよりはましだからです。

先の八百屋の例と結論としては同じです。ただし、八百屋は生鮮品を扱っているため、損をしても売り切った方が良いという結論には納得しやすいと思います。でも、洋服の場合は腐ったりするわけではないため、損をしてまで値下げするのではなく、売れるまで気長に待つという作戦も取れないわけではありません。

株式投資の場合、確かにその作戦は通常の銘柄、特に毎年増収増益を達成している好業績銘柄であればそれなりに通用するでしょう。しかし、テーマ株にそれを適用することは非常に危険であるといわざるを得ません。

テーマ株は「流行」ですから、ブームが終われば株価が大きく値下がりしてしまう可能性がかなり高いです。ファッションと同様水物なのです。したがって、流行が過ぎ去ってしまう前に、損をしてでも売り切ってしまわないと、その後はどんどん値下がりする一方となってしまう恐れがあります。

大事なのは、見込み違いだったことが分かったなら、できるだけ速やかに損失の拡大を防ぐ措置を取ることなのです。これが商売であれば損失覚悟の見切り売りであり、株式投資であれば早めかつ適時の損切りなのです。

利益を上げなければ企業経営も株式投資も成功しない

会社はなんのためにあるのでしょうか。もちろん、顧客のため、地域のため、従業員やその家族の生活のためにはなくてはならない存在であることには間違いありませんが、第一義的には「利益を上げるため」です。会社のことを別名「営利社団法人」といいますが、「営利」とは、利益を上げることを目的とする、という意味なのです。ですから、企業経営では、利益をあげることが至上命題なのです。

一方、株式投資の目的も、第一義的には「利益を上げるため」であることは疑いようがありません。

企業経営はいつでも順風満帆ではありません。自信を持って仕入れた商品が全然売れなかったり、高い値段で仕入れてしまったりすることは何度もあるでしょう。もう少し大きな視点でいえば、赤字続きの不採算事業については、できるだけ早い段階で撤退するという決断をしなければなりません。こんなとき、できるだけ失敗の損失を小さくできるかがその後の企業業績に大きく影響してくるのです。

株式投資もはっきり申し上げて失敗続きです。10銘柄買えば5銘柄は失敗が当たり前、相場環境が悪ければ買った10銘柄全て失敗ということだってあります。でもそんなとき、損切りを実行して失敗を最小限に抑えておけば、相場環境が好転し大きな上昇相場になったとき、損失を簡単に取り戻せるほどの大きな利益を得ることができます。

塩漬け株を作らず損切りを実行しておくことでチャンスを最大限に生かせる

アベノミクス相場が始まってから、外国人投資家が大きく買い越した一方、個人投資家は大きく売り越しました。アベノミクス相場での株価上昇の過程、特に2013年前半の初期段階では、個人投資家の多くは安値圏で買い仕込むことができなかったことを表しています。

損切りして身軽になっていれば2013年はじめのアベノミクス相場の初動に乗ることができました。しかし損切りせず塩漬け株を大量に抱えた状態では、アベノミクス相場の初動が来たことが分かっても、投資資金が塩漬け株の状態になっているため、投資したくても資金がなく投資できなかったのです。

株式投資は、いつでも利益が得られるわけではありません。特に、誰もが簡単に利益を得られるような相場は、5年~10年に1度ほどしか訪れません。人生に何度とないチャンスを確実にものにするためには、チャンスが来た時に投資資金を確保しておけるように、損切りを適切に実行して塩漬け株を作らないようにしておくことが重要なのです。