5月6日、日銀は年間3,000億円の別枠で買い入れるETFのもととなる3つの株価指数を選定しました。今後、該当するETFに日銀の購入資金が流入することになります。これらの内容と、個人投資家として特別な戦略を取る必要があるのかどうかを考えていきます。
「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」とは?
日本銀行は、ホームページにて、ETFやREITを毎営業日ごとにどれだけ買い入れたかを公表しています。このフォーマットが、今年の4月以降変わりました。何が変わったかというと、ETFの買い入れ額の欄が2列になり、そのうちの1つに「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」という欄が設けられたのです。これはいったいどのようなものなのでしょうか。
話は昨年の12月にさかのぼります。昨年(平成27年)の12月18日の日銀金融政策決定会合にて、日銀のETF買い入れ枠を従来の3兆円から3,000億円増加させることを決定しました。そしてその3,000億円の枠による買い入れ対象として、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式をETFへの投資という形で購入することとしたのです。
その結果、今年の4月以降、毎営業日12億円ずつ、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」を購入しているのが現時点での状況です。
新しい株価指数に連動するETFがいよいよ今月上場
現在は「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」そのものがないため、4月以降の毎営業日ごとの12億円は、JPX日経400に連動したETFの購入に充てているようです。そんな中日銀は5月6日、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」のもとになる株価指数として、以下の3つを選定したと発表しました。
- MSCI日本株人材設備投資指数
- 野村企業価値分配指数
- JPX/S&P設備・人材投資指数
さらに、上記3つの株価指数に連動するETFも近日上場予定となっています。①と②は5月19日、③は5月25日上場です。
- ダイワ上場投信-MSCI日本株人材設備投資指数(1479)
- NEXTFUNDS野村企業価値分配指数連動型上場投信(1480)
- 上場インデックスファンド日本経済貢献株(1481)
新しい株価指数は「アベノミクス政策」に応えている企業を対象?
ところで、企業の永続的な発展のためには、将来に向けての種まきが必要です。それが設備や人材に対しての積極的な投資です。そのため、設備・人材投資に積極的な企業を選択して、それらに重点的に投資することで、TOPIXといった日本株全体の値動きを示す株価指数よりも高い運用成果が期待できるという理屈は間違ってはいないでしょう。
その一方、なぜ今になってこうした株価指数を設定するかと言えば、やはりアベノミクスの政策を後押しするという意味合いが強いのではないかと個人的には思います。景気浮揚を目指したい安倍政権としては、企業に対して積極的に設備投資をしてもらいたいし、積極的に人材を登用して厚遇してもらいたいと思っているはずです。
企業側にとっては、日銀がETFを通じて設備・人材投資に積極的な企業の株式を購入したとしても直接的なメリットはありません。ただ、企業経営者としては株価は低いより高い方が良いのは確かですから、ETFを通じた資金流入という形によって株価の下支えという効果は期待できそうです。
個人投資家はどのように対応すればよいか
では、私たち個人投資家は、この新しい株価指数に連動するETFを積極的に投資対象として考慮する必要はあるのでしょうか。筆者個人的には、この新しいETFを積極的に買うまでのことはないと現時点では感じています。
新しく設定される3つの指数のうち、「野村企業価値分配指数」の構成銘柄および構成比率をみると、時価総額の高いいわゆる大企業にウェイトが高く設定されています。そのため、おそらく値動きはTOPIXなど、日本株全体を表す株価指数とそれほど大きく異ならないのではないかと思っています。また、年間3,000億円程度の金額では、大企業の株価を上げることは難しいと思われます。
大企業も、将来の生き残りをかけて積極的に設備・人材投資をすることは非常に素晴らしいことだと筆者も思います。しかし、それと株価とは別問題であり、すでに優良企業として出来上がっている企業が、さらに業績を大きく伸ばして株価を何倍にも高める、というのはなかなか難しい話です。
確かに、過去のバックグランドデータでは、新しい株価指数はTOPIXに比べてアウトパフォームしているという分析結果が出てはいます(そもそもそうならなければ新しい指数を作るメリットがないためアウトパフォームするのが当たり前です)が、過去の結果が将来も同じように続く保証はありません。
現に、鳴り物入りで登場したJPX日経400の例をみても、同一の運用会社による過去2年間のTOPIX連動型ETF、日経平均株価連動型ETFとJPX日経400連動型ETFを比べると、日経平均株価型、TOPIX型のいずれの運用成績をも下回っているのが実態です。JPX日経400の銘柄選定基準では、ROEなど収益性の高い銘柄を組み入れているという触れ込みにもかかわらずです。
現時点での筆者の結論としては、少なくともインデックスファンドではなく個別銘柄に投資している個人投資家にとっては、新しいETFが設定されることへの影響は無視しても問題なく、何か特別な対策をする必要もないと判断しています。
もし、日経平均株価やTOPIXに比べて明らかに良いパフォーマンスを叩き出すことが判明したなら、その時に買えばよいと思います。
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