3月決算企業の第3四半期決算の数値が出揃いました。プロ投資家は、この発表数値を吟味して、これからの投資対象を絞り込んでいきます。今回は、プロ投資家がどのように決算数値を読み取っているのか、その基本的な部分を解説します。

決算発表直後の株価の乱高下は「直観的」な反応

企業が決算発表を行うと、その直後から株価は大きく反応します。特に企業発表の業績予想や、市場参加者が予想していた業績見通しと大きくブレる決算が発表された場合、株価がストップ高やストップ安となることも珍しくありません。

しかし、こうした株価の乱高下は、決算発表の数値のいわば表面のみをみて「直観的」に反応したに過ぎません。

現に決算発表からしばらく経つと、大きく買われた株価が元の水準に戻ったり、大きく売られたものの間もなく反発して、結局は先の高値を更新する、といった銘柄が目立ってきます。

この原因を「業績が株価に織り込まれた」と表現する専門家もいますが、より実態に即して言えば、プロ投資家が企業の決算発表数値の中身をよく吟味した結果、決算発表直後の株価の反応とは異なる投資判断をしたため、と考えられます。

では、プロ投資家は第3四半期決算発表を踏まえ、どのような視点で決算数値を読み取っているのでしょうか。個人投資家にも簡単にできる作業として、以下の2つがあります。

読み方①四半期ごとの業績の推移をみる

先日発表した第3四半期決算の累計数値が好調で、前年比30%増益だったにもかかわらず株価が大きく下落してしまう、ということがあります。「この株価の反応は明らかにおかしい」と思ってしまいたくなるところですが、短絡的に考えてはいけません。実は、四半期ごと(3カ月ごと)の業績の推移をみると、株価下落のヒントが隠されていることがあります。

例えば第1四半期(4~6月)は前の四半期(1~3月)より35%増益、第2四半期(7~9月)は前の四半期(4~6月)より45%増益だったのに、第3四半期(10~12月)は前四半期比10%増益にとどまっていたならば、たとえ第3四半期累計(4~12月の9カ月間累計)が前年比で30%増益であっても、成長スピードが明らかに鈍化したと感じるでしょう。このことが、株価が大きく下落した要因だと推測できるのです。

新聞に掲載される決算発表や、ネットの決算速報では、主に9カ月間の累計の数値が発表されます。第3四半期だけの3カ月間の数値や、四半期ごとの業績の推移を知るには、自ら決算短信を見る必要があります。多少手間がかかりますが、3カ月間ごとの業績の推移は、最低でも3年間、できれば5年間はチェックしておきたいものです。この作業を四半期決算発表後にまとめて行うのは大変ですから、投資候補の銘柄について、時間のある時に過去の3カ月ごとの業績の推移をあらかじめ調べてまとめておくのが良いと思います。

読み方②前年同期比の業績の推移をみる

業種によっては、季節的な業績変動要因があります。例えば衣料品であれば夏よりも冬の方が売上が増えますから、夏の3カ月間と冬の3カ月間を比べても企業業績の実態は分かりません。

そこで、前年同期比の業績の推移を確認することも有用となります。比較対象とする「季節」を揃えるのです。第3四半期決算であれば、まず3四半期累計(4~12月の9カ月間)につき、当期、前期、前々期(必要に応じてそれ以上遡って)の業績を比較します。

そして第3四半期単独(10~12月の3カ月間)についても同様に、当期、前期、前々期と業績を比較していきます。

そうすると、例えば3四半期累計でみると毎年順調に業績を伸ばしているものの、第3四半期のみの単独(10~12月)でみると、当期の10~12月は前期の10~12月より減益になっている、という変化に気づくことができます。もし、その銘柄の株価が決算発表後大きく下がっていたならば、「好業績なのに株価が大きく下がるなんておかしい」のではなく、前年同期の3カ月間に比べて減益だから、という株価下落の真っ当な理由を見つけることができるのです。

そうすれば、好業績が続いているのに株価が上がらないのはおかしい、と買い向かってしまうことも避けられるはずです。

それでも株価のトレンドに逆らうのはやっぱり危険

四半期ごとの業績の推移をみても絶好調、前年同期比較でみても同じく絶好調、それでもなぜか株価は決算発表直後大きく下がったまま・・・というケースも時にはあります。こんなとき、私たち個人投資家が決して行ってはいけないのは、「誰がどう見ても業績絶好調なのに株価が下がっているのはおかしい」と判断して買い向かってしまうことです。

実はプロの目からみたら好業績ではなく期待外れの決算発表だったかもしれないからです。

例えば、その銘柄を「毎年40%成長は堅い」と独自に予想していたプロ投資家が、決算発表で蓋を開けてみたら20%成長だったとしたら、「あれ?予想と違うな」と思うはずです。そして、自らの予想と実際の決算数値のズレの原因を探りに行くはずです。

その結果、何か特殊要因があったために一時的に20%成長に落ち込んだだけだと分かれば、その銘柄を新規買いしたり、保有し続けることでしょう。そうすれば早晩株価は戻り、再び高値追いの動きになっていくはずです。

しかし、20%成長になった理由が特殊要因ではなく、根本的にその銘柄が手掛けているビジネスが成熟化してきているためだ、と彼らが判断したなら、新規買いはせず、保有株も売却に走るかもしれません。そうならば株価は下落を続けることになってしまうでしょう。

プロであればこのような投資判断ができますが、分析にかけることができる時間も知識量もプロに劣る個人投資家ではそこまでは難しいと筆者は思います。ですから私たち個人投資家は、株価の動きからこうしたプロ投資家の投資行動を推測するしかないのです。

自分自身が「業績絶好調」と思っていても株価が下がり続けるということは、プロ投資家は決して業績絶好調ととらえていないのだと推測できますから、株価の動きに逆らうことはせず、下降トレンドの間は手を出さないようにすべきなのです。

過去にも、リブセンス(6054)ファンコミュニケーションズ(2461)など、業績が好調にもかかわらず株価が早々と天井をつけてしまった銘柄はたくさんあります。もちろん自分自身で考える力は必要ですが、所詮私たちはプロではなく個人投資家です。最後は「株価は株価に聞く」という謙虚な姿勢が重要と思います。