1月29日に日銀から発表された「マイナス金利」の導入は、市場参加者に大きなサプライズを与えました。マイナス金利は日本にとって初めてですから、日本株に及ぼす影響は未知数です。しかし、筆者は過去の経験則が大いに役立つ可能性が高いのではないかと考えています。
そこで今回は、マイナス金利導入が決定された後の日本株の投資戦略について考えてみたいと思います。
マイナス金利で本当に貸し出しが増加するのか?
マイナス金利導入の目的の1つは、金融機関が日銀に預けている預金にマイナスの金利を付することによって、日銀に預けていたお金を新規の貸し出しなどに回し、企業の設備投資等を促し、経済の好循環を作り出すことにあります。
しかし素朴な疑問として、そもそもマイナス金利を導入すれば、本当に資金需要が増えて日本経済が活性化し、景気回復につながるのでしょうか。
残念ながら筆者はそうはならないと思っています。
今の日本では、いくら低金利にしたところで、お金に対する需要がありません。需要がある会社は安全性に問題のあるところばかりです。そのため、貸出先を増やそうにもなかなか増やせないのが実情です。現在は、資金需要があり焦げ付きの心配がない一部の優良企業に対し、金融機関同士が金利引き下げ競争を展開しています。これは当然金融機関の収益圧迫要因になりますが、マイナス金利導入後は、この傾向が一層強まるのではないかと危惧しています。
潜在的成長率が低いままでは資金需要は増えない
では、なぜ日本の資金需要が増えないのでしょうか。それは日本国内に魅力的な投資案件が少ないからです。
バブル崩壊後の日本は、潜在的成長率が1%前後と、非常に低い水準で推移しています。潜在的成長率とは、いわばその国の持つ経済の「実力」といえるものですが、これが低いままではいつまでたっても資金需要は増えていきません。
残念ながら日本政府は、この潜在的成長率を高める努力をすることなく、単に資金供給のみを増やすことで市中に回る資金を増やそうとしていますが、資金需要が盛り上がらなければそれは夢物語に過ぎません。
現在は、高度にグローバル化した世界経済により、日本だけでなく先進国は軒並み潜在的成長率が低下しています。つまり、世界中においてデフレの傾向が強まっているのです。デフレというのは一言でいえば「供給過多・需要不足」の状況です。需要がない状況で、企業が積極的に投資をするはずはありません。
そんな状態で、お金はどんどん出す、金利も限りなくゼロで構わない、と借り入れを促しても、想定しているような効果は見込めないのです。
金融機関は今後どのような行動が考えられるか
しかし一方で金融機関としては、今まで余剰資金は日銀に預けておけば0.1%の金利が受け取れていたのが、逆に0.1%を支払わなければならなくなります。となると日銀への預け金は減少せざるを得ませんが、ではそのお金をどこに振り向けようか、という話になるはずです。
前述のとおり貸出需要はそれほど増えないでしょうから、どこかに投資するほかありません。もちろん、あまりに高リスクのものへの投資はできません。となると、利回りの比較的高い外国債券や、REIT(不動産投資信託)といった利回り商品がその受け皿になるのではないかと思います。
外国債券の需要が高まると、それは円安要因となります。円安になれば、日本株は上昇する傾向にありますから、その意味ではマイナス金利導入は「円安→日本株高」の効果が大いに期待できます。
REITについては、足元で利回りは3~4%程度です。マイナス金利導入に伴い日本国債の利回りがさらに低下するなか、これだけの利回りを確保できるREITは金融機関にとって非常に魅力的に映るでしょう。仮に利回り4%のREITが2%水準まで買われるとなると、REIT価格は2倍になる計算です。無論REITがそこまで買われるかどうかは未知数ですが、可能性の1つとして頭に入れておくべきでしょう。
過去の金融緩和直後の株価の値動きから傾向を学ぶ
では、こうしたことを念頭に置いて、マイナス金利導入後の日本株の投資戦略を考えてみましょう。
「歴史は繰り返す」と言われますが、実は過去と同じような事柄が起こったとき、株価も似た動きをすることがよくあります。
今回のマイナス金利発表時と同じような状況が、2014年10月末の追加金融緩和の発表時です。マイナス金利も「金融緩和」の一手法であることに変わりはありませんから、この2014年10月末以降の株価の動きは大いに参考になるはずです。
まず注目すべきは、マイナス金利発表後に大きく株価が上昇した不動産株です。添付のチャートは三菱地所(8802)ですが、2014年10月は、金融緩和発表当日に株価は急上昇したものの、翌営業日にはすでに天井をつけてしまい、その後金融緩和発表前の水準まで株価は値下がりしてしまっています。
三菱地所(8802) 週足チャート
また、チャートは載せていませんが、例えば金利敏感株の1つである消費者金融株のアイフル(8515)やアコム(8572)も、金融緩和発表の翌営業日に株価はピークをつけてしまっています。
一方、金融緩和に直接的な影響はないと思われる好業績株はどうでしょうか。例えば日本M&Aセンター(2127)は、金利敏感株ではありませんし、円安メリット株でもありませんが、毎年増収増益が続いています。添付のチャートをみていただくと、2014年10月の金融緩和発表時は、ほとんど株価は反応していません。しかし、その後株価は右肩上がりに順調に上昇しているのが分かります。
日本M&Aセンター(2127) 週足チャート
このように、2014年10月の金融緩和発表直後は、不動産株など金利敏感株が急騰したもののその勢いは続かなかったこと、好業績銘柄は株価が長期間上昇を続けたことを事実として押さえておく必要があります。
なお、1月29日の後場は、マイナス金利による業績への悪影響を懸念して銀行株が大きく値下がりしました。現時点では銀行の業績への影響は限定的とは思いますが、マイナス金利という、これまでの金融緩和とは異なる手法によるものです。今後の株価の推移に注目し、下降トレンドが続くならばあえて手出しする必要はないと思います。
<まとめ>マイナス金利の最大の効果は「株式市場の安定化」
金融緩和に対する株式市場の影響をまとめると次のとおりです。
- 現状ではマイナス金利導入により資金需要アップ→景気回復となることは考えにくい
- 過去の金融緩和発表後は、株価上昇・円安の効果を一定期間もたらした
- 金融緩和発表直後は不動産株など金利敏感株が上昇するが長続きしないことが多い
- 金融緩和発表後は好業績株が長期間順調に株価を伸ばす傾向にある
実は、今回のマイナス金利を含め、金融緩和がもたらす最大の効果は、「株式市場の安定化」だと思っています。例えば、昨年8月~9月のいわゆるチャイナ・ショックや、今年に入ってからの株価急落局面では、好業績の銘柄を含め、ほぼすべての個別銘柄が下降トレンドになってしまっていました。しかし、1月22日以降のリバウンド局面の株価の動きをみると分かる通り、一旦下げ止まると、やはり好業績の銘柄が真っ先に先の高値近辺までで反発しています。
つまり好業績株にとっては、極端な下げ相場でない限りは好業績を好感した買いが入りやすくなり、その結果右肩上がりの上昇が続きやすいといえます。金融緩和により、当面は株価が下がりにくいと市場参加者の多くが考えるようになれば、好業績の銘柄を安心して買える環境が整い、好業績銘柄の株価が上昇することにつながっていくのです。
筆者が導き出した結論は、不動産株をはじめとした金利敏感株は短期的には急騰するものの長続きしないので高値掴みに注意すること、好業績株で上昇トレンドのものへ投資した方が、長期的には良好な投資成果をもたらす可能性が高いということです。
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。