個人投資家が大きな損失を生じる原因の1つに保有株の安値での「投げ売り」があります。逆にいえば、「投げ売り」をしないような投資手法を心掛けていれば大きな損失を防げるということです。

最近国内外の株式市場が調整色を強めてきましたので、当初の予定を変更して、「投げ売り」を回避するために筆者はどのようにしているかをお話ししたいと思います。

なぜ個人投資家は「投げ売り」をしてしまうのか

最初に、なぜ個人投資家は安値で「投げ売り」をしてしまうのか、その理由を考えてみましょう。

株式市場が大きめの調整局面にあるとき、その多くは投資家の「投げ売り」によって当面の底値をつけます。これは、心理的な要因が大きく、多少の下落は我慢できるものの、下落が大きくなって保有株の含み損が膨らむと、「このままでは損失がどんどん大きくなってしまう」「早く売って楽になりたい」という気持ちが強くなります。その結果、株価が大きく下がったところで我慢できずに保有株を売却してしまうのです。

また、信用取引をしている投資家は、物理的な要因もあります。含み損が膨らんで担保余力が低下すると、追加で証拠金を証券会社に差し入れなければなりません(追証(おいしょう))。しかし、手元に資金がなく、追証ができなければ、強制的に信用取引の建玉が決済されてしまいます。

投げ売りが発生するのは、こうしたメカニズムによるものです。

機械的に行動すれば「投げ売り」は回避できる

やはり投げ売りの大きな理由は、保有株の含み損が膨らみ「安値でもよいから売りたくなってしまう」という心理面にあります。ですから、そのような心理にならないようにすればよいのです。そのための1つの手法が、筆者が実践している「株価トレンド分析」です。

「株価トレンド分析」では、移動平均線(筆者が普段使うのは25日移動平均線)を株価が明確に割り込んだら保有株を売却、ないしはツナギ売りします。

通常、投げ売りが出るような状況となるとっくの昔に、ほとんどの個別銘柄は25日移動平均線を割り込んで下降トレンドに転換しています。そのため、「株価トレンド分析」を用いれば、投げ売りが生じる状況になる前に保有株の売却は終了し、株式への投資資金が極小化されている状態で投げ売りのシーンを冷静に眺めることができるのです。

筆者は今年の夏ごろから「ADA指数」を算出しています。これは、筆者の投資可能資金に占める保有株の金額の割合を日々集計しているものですが、12月2日のピーク時に79.2%あったものが、先週末(12月11日)の時点では32.6%にまで低下していました。これは、下降トレンドに転じた保有株を粛々と売却し、いまだ上昇トレンドにある銘柄のみを保有しているためです。(ADA指数の詳しい説明は「公認会計士足立武志ブログ」をご覧ください。)

株式投資では余計なことを考えると大失敗のもとになります。株式市場が調整局面に入り、下降トレンドに転じる銘柄が増加しているにもかかわらず、「おそらくもうすぐ株価は反発して再度上昇基調に戻る」と希望的観測をしていると、その後のさらなる下落で手も足も出なくなってしまいます。

全ての銘柄を売ればよいというものでもない

ところで、筆者が12月11日時点で投資可能資金の30%程度をまだ保有していることにつき、「日経平均株価が明らかに下降トレンドに転じているのに、なんで全部売らないのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。

ここが株式投資の難しいところで、これは下降トレンドに転じる銘柄が増えている状態で下降トレンドとなった保有株を売却しないとその後のさらなる下落で大損をする可能性があるのと裏返しなのです。つまり、下降トレンドに転じる銘柄が増えているからといって、上昇トレンドにある銘柄まで売却してしまうと、そこから再度上昇トレンドに転じたときに強い銘柄を手放した状態になってしまうということです。

筆者の投資手法は、大きな下落が起きたときに損失を最小限に抑えるためには非常に有効なものと自負していますが、そう頻繁に大きな下落が起きるわけではありません。

日経平均株価や多くの個別銘柄が下降トレンドに転じる中、上昇トレンドを維持している銘柄というのは「強い銘柄」です。そして、調整が終了し再度上昇に転じるタイミングで真っ先に大きく上昇するのはそうした「強い銘柄」なのです。

ですから、いつ株価が切り返して上昇に転じてもよいように、市場全体が調整局面にあろうとも、「強い銘柄」は上昇トレンドにある限り保有を続けるべき、と筆者は考えているのです。

朝から大きく下がりそうなときはどうするか?

先週末(12月11日)の欧米の株価は大きく下落、為替レートも円高に振れ、先週末時点のシカゴ日経225先物は、日経平均株価の週末終値より550円も下の水準で引けました。

確かに下降トレンドに転じたら速やかに売るのが原則ですが、ここまで朝から安く始まるような場合、午前中で当面の底値をつけてそこから反発するケースも少なくありません。そうなれば寄り付きで売却した結果、後で高く買い直す羽目になってしまいかねません。

そこで筆者は、朝から大きく下がりそうなときは、次のように行動しています。

  • 前日時点ですでに下降トレンドに転じている、もしくは下降トレンドに転じそうな銘柄は、寄り付きで売却。
  • 前日時点で上昇トレンドを維持している銘柄は、午前中いっぱいは静観。その上で、前場引けの段階で25日移動平均線を明確に割り込んでいるものは後場の寄り付きで売却。一時25日移動平均線を明確に割り込んだがその後戻して25日移動平均線近辺で引けた銘柄は、午前中につけた安値を割り込んだら売りとする逆指値注文を発注。上昇トレンドのままの銘柄はそのまま保有。

どうしても方針が決められないときは、半分は寄り付きで売却、残りは午前中いっぱい様子を見てから昼休みに判断する、という戦略もあります。

もちろん、午前中いっぱい安く、後場に入って急速に切り返すこともあります。そうなれば一旦売却した株を高く買い直す羽目になりますが、そんなことを気にしていてもきりがありません。損失の拡大を防ぐのが主目的ですから、ある程度の割り切りも必要です。

アベノミクス相場により日経平均株価が2倍以上、個別銘柄に至っては安値から5倍、10倍になったものがゴロゴロしています。筆者はまだ長期的な上昇は続くと思ってはいますが、どうなるか誰にも分からないのが株式市場です。

筆者の投資手法はある程度守りを重視していますので、上昇相場ではよりアグレッシブな手法の方が大きな利益を得られます。でも、筆者の投資手法を続けていれば、やがて訪れる長期下落相場の下落初期段階、かなり株価が高い水準で保有株を売却することができます。

「いかに大きく勝つか」より、「いかに大きく負けないか」が大事、これが株式市場の荒波を乗り越えてきた筆者の結論です。

<おしらせ>

「公認会計士足立武志ブログ」を立ち上げました。立ち上げて間もないためまだ試運転中の状態ですが、これから内容をさらに充実させていきます。文章が短いなどの理由で本コラムでは書くことができないテーマ、本コラムの補足説明やアフターフォロー、よりタイムリーな内容を取り上げていきます。株式投資のみならず、多くの個人投資家が関心をお持ちの相続対策についても最低限知っておきたい知識や情報をご提供したいと思います。ぜひ本コラムに加え、ご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

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