10月14日以降、くい打ちの不備が原因で横浜市のマンションが傾いているというニュースにより、一部の銘柄の株価が大きく動きました。この問題が発覚後10日余りたちましたが、事態は他の建築物に対するデータ改ざん等の有無という全国的な問題にまで発展しています。

そこで今回から3回にわたり事例研究として、マンション傾斜問題で株価が大きく動いた銘柄につき、どのように対応すべきだったか筆者の見解をご紹介したいと思います。

14日に突如急落した三井住友建設株にはどう対応すべきだったか

三井住友建設(1821)は、10月14日の寄り付きから大きく値を下げて始まり、結局は50円安(ストップ安)の109円でその日の取引を終えました。

三井住友建設(1821) 日足チャート

三井住友建設の日足チャートをみると、10月13日時点では25日移動平均線の上に株価が位置しており、上昇トレンドに転じて間もない状態にありました。ですから、問題発覚時において三井住友建設株を保有していること自体は間違ってはいません。

14日は、寄り付きから明確に25日移動平均線を下回って下降トレンドへの転換が濃厚となっていましたから、もし場中や昼休みに株価を見ることができた場合は、その時点で保有株の売却・損切りを実行すべきです。

また、場中や昼休みに株価をみることができないという方は、事前に逆指値注文を入れておくという戦略も有効でした。株価チャートで過去の株価をさかのぼってみると、9月29日と9月8日に141円を付けています。これが直近安値ですが、さらにさかのぼると8月25日に139円、7月9日に136円という安値があります。

ですから、例えば136円を割り込んだ135円を逆指値として保有株の売り注文を事前に出しておけば、135円近辺で売却することが可能でした。

ストップ安の日に何もできなかった場合?

仕事などで日中は株価をチェックすることができず、逆指値の売り注文も入れていなかったため、14日の場が引けた後に三井住友建設株がストップ安にまで急落していたことを始めて知った方もいらっしゃると思います。この場合は、株価がすでに急落しているとはいえ、25日移動平均線を明確に割り込んでいるわけですから、損失がどれだけ膨らんでいようとも翌15日に速やかに保有株を売却すべきです。

くれぐれも、株価が急落しているからこれ以上は下がらないだろう、といったような根拠のない希望的観測は決して持たないようにしてください。

なお、確かに14日の急落で悪材料を織り込んだ可能性もあるため、14日の安値109円を割り込むまでは売却しないという選択肢もあります。ただ、15日のように株価が大きく反発した場合は有難く一旦売却すべきです。その上で、25日移動平均線を超えた時点で改めて買い直しを検討する、という方がよいと思います。

売った後に株価が急回復しても「結果論」と思ってあきらめる

このように説明すると、「もし売った後で株価が急回復したらどうするのか」という心配も出てくるかもしれませんが、まず何よりも重要なのは、「損失を最小限に食い止めること」です。売った後に株価が急上昇することを心配するよりも、売らずに保有を続けた結果そこから株価がさらに大きく値下がりしてしまうことこそを心配すべきなのです。

実際、10月14日の場が引けた後、データ改ざんをしていたのは三井住友建設ではなく、旭化成の子会社の旭化成建材であることが判明し、翌15日の三井住友建設の株価は大きく上昇しました。もし14日のストップ安水準で売却せずに、15日に売却したら20%以上高く売ることができました。でもこの株価の反応は結果論であり、ストップ安水準で売却してしまったならば、「運が悪い」とあきらめるほかないのです。こんなことはそうそう頻繁に起こることではありませんし、株式投資を長年行っていれば避けられないことですから、あまり気にしないようにしましょう。

旭化成株についてはどう行動すべきだったか

旭化成(3407)についても、考え方は三井住友建設の場合と同じです。添付の株価チャートをご覧ください。

旭化成(3407) 日足チャート

旭化成の子会社の旭化成建材によるデータ改ざんが分かったのは10月14日の取引が終了した後でした。そのため、10月14日の旭化成株はほとんど値下がりしませんでした。そして、14日時点で旭化成株は、少し微妙ながら上昇トレンドにありました。

しかし、15日には寄り付きから株価は大きく値下がりし、25日移動平均線を割り込み下降トレンド入りが濃厚になりましたから即座に保有株の売却・損切りが必要でした。もし15日の場中や昼休みに株価をチェックできた場合は15日中、そうでない場合でも16日に売却すべきです。もし逆指値注文を事前に入れておくなら、9月29日の直近安値824.7円割れとします。

その後、20日の693.6円を底値にして反発していますから、693.6円割れを損切り価格として新規買いや買い直しをすることも一策ではあります。でも、筆者であれば、無理に底値狙いはせずに、25日移動平均線を超えるのを待って新規買いや買い直しの検討をします。(なお、新規買いや買い直しのタイミングについては次回のコラムを参考にしてください)

複数銘柄への分散投資が突然の不祥事から自身の財産を守ってくれる

では、今回の不祥事による三井住友建設株や旭化成株の株価急落を事前に予測することは可能だったでしょうか。答えはもちろん「否」です。とするならば、保有株の予期せぬ急落というリスクをできるだけ軽減しておくことが株式投資では重要です。

そのための最も簡単かつ効果的な方法が「複数の銘柄へ資金を分散して投資すること」です。

今回の急落を、急落前の株価から直近の安値までの下落率でみると、三井住友建設が3割強、旭化成が3割弱です。三井住友建設株のみに投資していて株価が3割下がってしまうとかなりのダメージです。

でも、10銘柄に資金を分散していて、その中に三井住友建設が含まれており、かつ株価急落の影響をもろに受けてしまっても、投資資金全体に対する影響は3%に過ぎません。資金の分散が30銘柄であればわずか1%の影響です。

30%の影響となれば致命傷に近いようなかなり手痛いダメージですが、3%とか1%程度の影響であればかすり傷程度ですからすぐに修復可能です。

株式投資とは、予測できない未来へ向かって資金を投じる行為です。何が起きても大きなダメージを受けないような準備をあらかじめしておくことが非常に重要なのです。

次回は、三井住友建設株を題材として、株価が急落した銘柄の新規買いや買い直しについて考えてみたいと思います。