前回のコラムで、REITの決算書の見方や、REIT投資の際の各種ファンダメンタル指標などについてご説明しました。

今回は、続編として、REITを投資対象とするETFやファンド(投資信託)の決算書を見てみたいと思います。

分散投資効果の高いREITのETFやREITファンド

前回のコラムでも申し上げましたが、個人投資家がREITの個別銘柄への投資判断をファンダメンタル分析で行うことは、意外と難しいのが実情です。そこで、複数のREITに分散投資することで個別銘柄のリスクを低減する方法として、「REITのETF」や「REITファンド」への投資が有効となります。

実は、REITのETFやREITファンドの決算書は、前回ご紹介したREITの個別銘柄の決算書とは全くその中身が異なります。そこで今回は、REITのETFやREITファンドの決算書の見方につきご説明するとともに、そこから浮かび上がってくる注意点をお話ししたいと思います。

REITのETFにも「決算短信」がある!

最初に、REITのETFの決算書からみていくことにしましょう。REITのETFとは、REIT指数に連動するよう運用される上場投資信託のことを言います。現在、日本のREIT指数に連動するタイプのものが5本、アメリカの不動産指数とオーストラリアのREIT指数に連動するタイプのものがそれぞれ1本ずつ上場しています。

上場していますから、REITのETFにも決算短信があります。ただし、通常の個別銘柄の決算短信に比べて、かなり簡素な内容となっています。

では、上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型(1345)の平成27年7月期の決算短信から、「貸借対照表」および「損益及び剰余金計算書」をみてみましょう。

上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型の貸借対照表

(出典:東京証券取引所 決算短信)

上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型の損益及び剰余金計算書

(出典:東京証券取引所 決算短信)

貸借対照表をみると、資産の大部分は投資証券です。これは、当該ETFの目的が、ETFを通じて日本国内のREITに投資することだからです。負債は分配金の未払い分や管理運用のため必要な報酬の未払い分などが大部分であり、その金額も資産に比べればわずかです。そして、純資産の部は投資家から出資された元本と、過去の利益(含み益含む)の蓄積である剰余金により構成されています。

次に損益及び剰余金計算書をみてみましょう。ここでは、営業収益に計上されている「受取配当金」と「有価証券売買等損益」だけ押さえておけば十分です。費用ももちろんありますが、収益に比べて非常に小さい金額のため、無視しても問題ありません。

受取配当金は、ETFを通じて投資しているREITから受け取る分配金です。また、有価証券売買等損益は、ETFが投資するREITを入れ替えたり、投資家がETF自体を売買することにより生じるREITの売買などで生じた損益です。通常、REIT指数が上昇基調にある場合は利益となり、逆に下落基調にある場合は損失となります。

REITファンドの決算書をみてみよう

次に、代表的なREITファンドの決算書をみてみましょう。REITファンドとは、国内外のREITを主な投資対象とする投資信託のことで、上場はしていません。

参考例としてラサールグローバルREITファンドを取り上げます。以下のURLより運用報告書「資産・負債・元本及び基準価額の状況」(9ページ)および「損益の状況」(10ページ)をみてみましょう。

http://www.nikkoam.com/files/fund_pdf/440477/file/u440477_z.pdf PDF

「資産・負債・元本及び基準価額の状況」(貸借対照表)をみると、資産や負債はREITのETFと同じような感じです。このREITファンドは、「マザーファンド方式」と呼ばれ、ファンドがマザーファンドへ投資し、マザーファンドが個々のREITに投資する形態です。このファンドは原則として世界REITマザーファンドのみに投資することになっているので、資産には「投資証券」ではなく「世界REITマザーファンド」という記載がなされています。

しかし、気になるのは、純資産総額(純資産)をみると、元本の60%もの次期繰越損失が生じているという点です。これについてはこの後でご説明します。

「損益の状況」をみると、配当による収益はありません。これは、投資先である世界マザーREITファンドからは配当が出ていないからです。実質的には受取利息と有価証券売買損益(ここにはファンドが投資するREITの含み損益も反映されています)から信託報酬を差し引いた額である「当期損益金」が、このファンドが支払う分配金の原資となります。

基本的に、REITのETFやREITファンドは投資家から集めた資金のみを使って運用し、別途借入をしたりすることはありませんから、REITの個別銘柄のように、安全性を気にする必要性はないといえます。

「REITのETF」と「REITファンド」の大きな違いとは?

さて、REITのETFとREITファンドの決算書を見比べて、何か気づくことはありませんか。実はそこに、現在人気の高いREITファンドが抱える問題点があるのです。

それは、貸借対照表の剰余金(繰越損益金)の金額を見れば一目瞭然です。

REITのETFでは、多額の剰余金が計上されています。一方、REITファンドでは、実に元本の6割もの金額の繰越損失が生じてしまっています。この差はどこから生まれてくるかといえば、分配金の支払いスタンスにあります。

ここには載せていませんが、REITのETFの注記をみると、毎回の分配金は、ETF自体が受け取っている配当の範囲内に収まっています。そのため、貸借対照表の純資産に計上されている剰余金は、REIT価格の上昇が素直に反映されて大きくプラスとなっています。

一方、上記で決算書を示したREITファンドの「分配金の計算過程」という注記をみると、ファンド自体が受け取っている配当相当額(「配当等収益」)を大きく上回る分配金が支払われています。確かに、REIT自体が数年でかなり値上がりしていますから、分配金の多さはその点を反映させたものともいえますが、実際は、配当と値上がり益をも上回る分配金を支払っています。そのことが、投資家から集めた元本の60%もの次期繰越損失(欠損金)を生じさせる要因となっているのです。

もちろん、REITファンドの中にも分配金を出さない、もしくはファンドが受け取った配当の範囲内に分配金を抑えるという方針のものもあります。しかし、近年個人投資家の人気の高いREITファンドは、その大部分がファンドの受け取る配当を大きく上回る分配金を出しているのです。その結果、「分配金」という名前はついているものの、実態は投資家が払い込んだ元本が戻ってきているだけ、という状況になってしまっているのです。

次回は、前回と今回でご説明したことを踏まえ、個人投資家がどのようにREITに投資していけばよいのか、筆者なりの答えをお話ししたいと思います。