今回は節目の第300回。テーマについていろいろ考えました。しかし、筆者が本コラムで重視している「タイムリー性」、言い換えれば個人投資家の方の関心が最も高いものを取り上げるべきと考えました。折しも、世界同時株安の状態に陥っていますので、今回は「株価急落に負けないサバイバル投資術」として、株式市場から退場させられないための投資行動について筆者なりの考えをまとめることとしました。

(はじめに)連載300回を迎えるにあたっての御礼

2009年10月から続いている本コラムが、今回で第300回に達しました。これはひとえに楽天証券をはじめ関係者の皆様、そして何よりも本コラムを愛読くださっている個人投資家の皆様のお蔭です。改めてこの場を借りて御礼申し上げます。

さらに400回、500回、そして1,000回の連載を目指し、今後とも個人投資家の皆様に本当に役立つ知識・情報の提供に努めてまいりますので、変わらずのご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。

本コラムが重視しているのは「タイムリー性」。その時々で個人投資家の方が気になっていること、知りたいこと、困っていることについて筆者なりの回答やアドバイスをお伝えすることが何よりも重要だと考えています。

そんな折、先週末にかけて日本株が急落、金曜日のアメリカ株も過去9番目の下げ幅を記録、そして週明け月曜日の日本株も大きく下落するなど、今後の株式市場が一気に警戒モードに突入しました。個人投資家の皆さんも、「これからどうなってしまうのか」と心配されている方が多いものと思います。

そこで今回は、足元で株価が急落して世界同時株安の様相を見せている中、個人投資家が株式市場で生き残るためにどう行動していけばよいか、筆者の思うところをお伝えすることにしました。これは筆者が個人投資家の皆様にぜひお伝えしたい非常に重要な事柄の1つです。

内容が長くなりますので、今回と次回の2回に分けてお伝えすることにします。取り急ぎ今回は、先んじてお話した方がよいと思われる内容を優先いたします。

なぜ株価下落で不安に感じるのか、まずはその理由を考えてみる

まず皆さんにお聞きしたいのは、今回の世界的規模の株価急落を目の当たりにして、「これからどうなるのだろう」と強く不安に感じているのかどうか、ということです。

もし「不安で心配で夜も眠れない」という状態であれば、なぜそんな状態になってしまっているか、その理由を考えてみてください。

おそらくその最たる理由は、「ここから株価がさらに下がると、損失(含み損)がどんどん大きくなってしまう」ということだと思います。それなら、何はともあれ不安が解消されるような行動を起こすべきです。

精神的に追い込まれた状態で株式投資を行うと、正しい判断ができなくなってしまいます。冷静に判断ができるようにするため、まずは保有株の一部を売り、不安が解消されるレベルまで保有株を減らすことが必要です。

もちろん、結果的に安値で叩き売ることになるかも知れませんが、それは仕方ありません。とにかく、パニック状態に陥る前に精神状態を落ち着かせることが先決です。

そして、次回以降、同じ失敗を繰り返さないことが肝心です。具体的には、投資可能資金の大部分を投じない、不安に感じる前のもっと早い段階(株価が下降トレンドに転じた時点)で保有株を売却しておくようにする、といったことです。

筆者はどのように今回の株価急落に対応したか

株価が大きく下落するとき、➀損失が大きくなる前に保有株を売却して損失を抑えることができるケースと、➁そうでないケース(突発的な事件・事故等による急落)があります。今回の株価下落は➀のケースであり、十分に対応が可能でした。

もちろん筆者も、保有株がある状態で株価がどんどん下がるような状況は気持ちの良いものではありませんが、例えば日本株が急落してアメリカ株も急落した先週末(22日)の時点では、特に不安には感じていませんでした。なぜなら、21日の株式市場が終了した時点で、実質的な買い持ち(保有株からヘッジのツナギ売りを差し引いた残額)は、投資可能資金の約15%にまで減らしていたからです。

これは何も、今回の世界的規模の株価急落を事前に予測できていたからではありません。株価のトレンドに従い、下降トレンドに転じた銘柄を順次売却していっただけのことです。

当然、最近に買った銘柄は損切りとなりますし、含み益のあった銘柄もそれをだいぶ減らした状態で売らざるを得ない状況になってしまいました。でも、上昇トレンドだった保有株が移動平均線を割り込んで下降トレンドに転じたのであれば、仕方ないことです。下降トレンドに転じた可能性が高い銘柄については、これ以上の利益の減少や損失の拡大を回避する行動、つまり売却ないしツナギ売りの実行を速やかに行うだけです。

含み益を含めた利益がピークだった時点(日経平均株価が21,000円近くの高値に到達していた時点)と比較すると、利益は投資可能資金の8%程度減少しました。しかし、ここから株価がさらに大きく下落しても、さらに2%以内の減少で抑えることができる状態になっています。

もし、このような行動を取らずにリーマンショックのような暴落が起きたら、もしくは暴落は起きないまでもここから長期的な下落相場に転じたならば、利益の減少(ないし損失の増加)が30%、50%と拡大していくことも十分に想定されるのです。

これ以上株価が大きく下がっても利益がほとんど減らない状態にすることができている、これが、筆者が今回の株価急落を不安に感じていない理由です。もしここから株価が反発したならば、再度上昇トレンドに転じた時点で買い直せばよいだけです。

必要以上の「忍耐」「我慢」が取り返しのつかない損失を招く

筆者も仕事柄、色々な専門家・投資アドバイザー、FPなどのコラムを見ていますが、中にはこんなことを書いて大丈夫かと、こちらが心配になるような内容のものも少なくありません。中でも特に心配に思ったのが、「株価が大きく下落したとしても忍耐強く我慢すべき」と個人投資家にアドバイスしているものです。

おそらく、バイ・アンド・ホールドの長期投資を推奨しているのでしょうが、要は長期的に見れば株価は上昇するのだから、例え株価が大きく下落するようなことがあっても慌てず耐え凌げば、嵐が去ればまた株価は上がるという理屈のようです。

しかし、筆者に言わせれば、「長期的に見れば株価は上昇する」明確な根拠を示してもらいたいものです。もちろん、過去の経験則に照らし合わせて今後もそうなるだろう、というのは推測に過ぎません。それでは日本株がバブル崩壊から25年経っても高値の半値水準にとどまっていることに対する説明ができません。

つまり、筆者が言いたいのは、将来株価が上がるか下がるか正確に予測することなど不可能なのだから、もし株価が大きく下がる可能性が生じた時点、言い換えれば株価が下降トレンドに転じた時点では一旦保有株を売却しておき、大きな損失を未然に回避しておくべき、ということです。

もちろん、買った株が2%、3%下がったくらいで慌てて売ってしまうほど我慢できないのは論外ですが、保有株が値下がりしたとき、売却・損切りせずに必要以上の我慢をすると、株価がさらに大きく下がったときに取り返しのつかない損失を生じる恐れがあります。

株価というものは、下がるときはいともあっけなく下がります。高値から30%や50%の下落などあっという間です。もし、ここから長期的な下落相場に転じてしまえば、5分の1、10分の1まで下がってしまう銘柄が続出するでしょう。そして自分が生きている間には買値すら戻らないかもしれないのです。下手に株価下落を「忍耐」「我慢」した結果がそれではあまりに悲しすぎると思いませんか?

追証を発生させてしまうならば信用取引はやめるべき

信用取引をせずに現物だけで保有していたなら、適切なタイミングで売却できずに塩漬け株になってしまっても、財産が3分の1とか5分の1にはなりえますが、全財産がなくなることはありません。

しかし信用取引の場合は、今回のような株価急落時には、損失が大きくなる前に適切なタイミングで損切りして撤退しないと、財産の大部分を一瞬にして失うことになってしまいます。

例えば、信用枠いっぱいに信用買いをしていたならば、株価が買値から約30%値下がりしただけで証拠金は吹き飛びます。株価が急落する相場であれば、30%程度の値下がりは1~2週間であっという間に達成します。

通常は、追証(追加の証拠金)を入れなければそこまで値下がりする前に証券会社が強制決済しますから全財産を失うまでには至りません。でも、仮に今回は命拾いしたとしても、同じことを繰り返していればいつかは破産します。

そして全財産を失うだけならよいですが、下手をすると証券会社に対して借金を背負う羽目にもなりかねないのです。

実際、ITバブルのときに光通信株を信用買いしていたり、ライブドア・ショックの際にライブドア株を信用買いしていた個人投資家の中には、株価急落によって証拠金だけでは損失を精算できず、多額の借金が生じた人も少なくありませんでした。

信用取引は、うまく使いこなせれば利益をより多く得ることができるとても有効なツールですが、損失を拡大させないために適時の損切りが絶対に必須です。本来は、追証に陥る前に損切りを済ませておかなければなりません。追証を発生させてしまうような個人投資家の方は、信用取引からは手を引くのが無難です。

「押し目狙い」はいつか大失敗する

もう1つ、筆者が声を大にして言いたいのは、「押し目狙いを繰り返していると、いつか大きな失敗を招く」という点です(なお、ここでの「押し目買い」は、株価が下降トレンドにある中を買い向かう行動を指します)。

おそらく、21日や24日の急落時、「押し目買いの絶好のチャンス」と考えて、株価が大きく下がる中を買い向かった個人投資家は大勢いたことでしょう。でも、筆者はどうしてもそれをお勧めすることはできません。

例えば、リーマンショックのケースを当てはめてみると、今週8月24日の株価水準から、さらに日経平均株価が短期間で30%ほど下がる計算になります。指数が30%下がると、個別銘柄では50%以上下がるものが続出します。

そもそも8月24日のように、すでに株価が下降トレンドにあるにもかかわらず押し目買いをする投資家の方は、株価が下がったら「損切り」ではなく「買う」、という考え方と思われます。でもその行為は、買ったそばから株価がさらに下がって買値の50%(銘柄によってはそれ以上)の含み損をかかえるリスクがあるタイミングで買い向かっていることをぜひ理解していただきたいのです。

9勝1敗でも、1敗が大きければ資産を大きく減らしてしまう結果につながりかねないのが株式投資です。確かに8月24日のようなタイミングで買い向かえば、十中八九成功するでしょう。しかし、いつか来るであろう大暴落に巻き込まれれば、それまでの成功が一瞬で吹き飛ぶほどの損失を被る買いタイミングであることも事実です。

別に急落時を狙って押し目買いをしなくとも、株価が再度移動平均線を超えたのを確認できてから買っても決して遅くはありません。もちろん急落時の押し目買いよりも高い株価で買うことにはなりますが、株価がそこからさらに大きく下がった場合の損失を確実に回避することができます。嵐の中を買い向かうのではなく、嵐が過ぎ去るのを待つのが、大失敗しないための正しい選択です。