先日、トヨタ自動車の株主総会にて、これまでにないタイプの種類株式の発行が可決されました。これについて、機関投資家の立場、既存株主の立場から否定的な意見も少なくないようです。しかし、私たちは個人投資家です。そこで今回のコラムは、個人投資家目線でこの種類株式について検証してみたいと思います。

最大の特徴はトヨタ自動車が「元本保証」してくれること!

まず、今回発行される種類株式の特徴につき簡単に説明しておきます。この種類株式は、「AA型種類株式」という名称がつけられ、何といっても最大の特徴はトヨタ自動車が「元本保証」をしてくれるという点です。具体的には、発行から5年経過後に、株主が請求すれば発行価格でトヨタ自動車が株を買い取ってくれるのです。

それ以外に、次のような特徴があります。

  • 発行は100株単位で、発行予定額5,000億円、発行株数は3,000万~5,000万株。
  • 配当金は1年目0.5%、2年目1.0%というように5年目までは年0.5%ずつ増加。5年目以降は2.5%で固定。
  • 5年間は原則として売却できない。
  • 5年経過後、普通株式に転換できる。
  • 5年経過後は、毎年4月にトヨタ自動車自身が株主から発行価格で買い戻せる。
  • 発行価格は、価格決定日(7/2~7/7)の終値の1.26倍~1.3倍。
  • 配当金は総合課税(ただし少額の場合は20.42%の源泉徴収のみで可)。
  • NISA口座や特定口座への組み入れ不可。

バブル期に流行した「転換社債」と似たような仕組み

筆者は、これらの特徴をみて頭に思い浮かんだのは、「転換社債と同じような感じだな」ということです。

今から25年ほど前のバブル期、上場企業の資金調達手段の中心的存在となっていたのが「転換社債」です。転換社債は、いわば株式と普通社債のいいとこ取りのようなもので、投資家から非常に人気を集めました。

転換社債は、社債として発行されますが、それを株式に転換することのできる権利がついているというものです。

もし転換社債を保有していて、その会社の株価が上昇して転換価格(転換社債を株式に換えるときの価格)を上回ったなら、転換社債を株式に転換して市場で売却することでキャピタルゲインを得ることができます。

逆に、転換社債を取得後その会社の株価が下落してしまっても、社債の満期まで持ち続ければ利息と元本を受け取ることができます。

このように、転換社債は、発行会社の株価が下がってもよし、上がればなおよし、というものだったのです。

このトヨタ自動車の種類株式も、株価が下がっていてもそのまま保有を続ければ配当金を受け取れますし、5年経過後は元本で買い取ってくれます。株価が上昇すれば普通株式に転換した上で売却すればキャピタルゲインを得ることができます。

転換社債と違うのは、「受け取るのは利息ではなく配当金であること」、「株主総会の議決権があること」、「非上場のため5年間は売却できないこと」「5年経過後にはトヨタ自動車自身が株主から買い取りができる」といったものです。

なお、会社が倒産した場合は、株主より社債権者への弁済の方が優先されるため、倒産リスクという点でみると、転換社債より種類株式の方が高くなります。

トヨタ自動車の種類株式は個人投資家にとって魅力的なものか?

では、トヨタ自動車の種類株式が個人投資家にとって魅力的なものであるかを検討してみましょう。

他のサイトでは、この種類株式を買うのであれば、トヨタ自動車の普通株式を買う方が有利だ、という意見が多いようです。それには筆者も同感します。筆者のように、投資元本割れのリスクは承知で、できるだけ高いリターンを目指すタイプの投資家であれば、わざわざ種類株式を買わずとも、普通株式を買えばよいのです。種類株式では、今後業績が伸びても配当金が2.5%で頭打ちになり、株価が1.26倍~1.3倍以上にならないとキャピタルゲインも期待できないのですから当然です。

でも、個人投資家の中には、「元本割れは避けたいが、できるだけ高い利回りの商品に投資したい」という方は非常に多いと思います。そうした方にとって、種類株式を普通株式と比較したところで意味はありません。この種類株式は転換社債のような性格を持っていますから、他の債券と比較して魅力的な投資対象かどうかを判断すべきです。

そこで、今回のトヨタ自動車の種類株式を、個人向け国債、そして個人投資家に大人気のソフトバンク社債と比べてみたいと思います。

トヨタ自動車の種類株式は他の社債や日本国債に比べると明らかに有利な条件

まず、債券への投資で重要なのは将来にデフォルト(債務不履行)、つまり元本や利息が支払われなくなるリスクがどの程度あるかを示している「格付け」です。

スタンダード&プアーズの格付けでは、ソフトバンクは「BB+」であり、投資不適格、いわゆる「ジャンク債」の扱いとなっています。トヨタ自動車と日本国債はともに「AA-」です。「AA-」の格付けは日本国内ではトップクラスの財務安全性を意味します。

この点を考慮して利回りを比較すると、6月18日に発行されたソフトバンク株式会社第47回無担保社債は、期間5年で、利率は1.36%です。対してトヨタ自動車の種類株式の配当利回りは、5年間のトータルを平均すると1.5%になります。なんと、国内トップクラスの財務安全性を誇るトヨタ自動車の種類株式は、格付けがトヨタ自動車よりも低い会社の社債よりも利回りが高いのです。

また、6月に発行された個人向け国債(固定5年・第50回)の利率は0.08%でした。日本国債と同じ格付けのトヨタ自動車の種類株式の5年平均利回り1.5%に比べて、スズメの涙ほどの利回りにしかなりません。

このように、トヨタ自動車の種類株式は、格付けが同じ国債の利回りよりはるかに高く、格付けがはるかに低い社債の利回りよりも高いということが分かります。

ですから、筆者の感想としては、トヨタ自動車が今後5年間で経営危機に陥るようなことがないという前提で考えれば、他の会社の社債や日本国債に比べると、明らかに非常に好条件であるといえます。発行価格は総額で5,000億円とのことですが、おそらく人気が殺到するのではないでしょうか。

今回のトヨタ自動車の種類株式は、個人投資家がリスク商品へ投資しやすくする環境を整備するための実験的な要素も強いように思えます。だからこそ、こんなにも好条件になっているのでしょう。今後も各社から様々なタイプの種類株式が登場し、個人投資家に様々な選択肢ができてくれることを期待したいと思います。

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