今回は、先ず読者の皆さまに御礼申し上げたいと思います。お陰様で、拙著 「株を買うなら最低限知っておきたい ファンダメンタル投資の教科書」(ダイヤモンド社・2012年4月発売)の再増刷が決定しました。ファンダメンタル分析の基礎知識はもちろんのこと、買い時や売り時の見極め方までフォローしているのが類書とは異なるおススメポイントです。筆者の実践も踏まえていて、読んだその日からすぐ株式投資に役立てる内容になっています。発売されて既に2年以上が過ぎているにもかかわらず再増刷決定のロングセラー化は大変うれしいです。

「ROE」とは何か

最近、新聞記事などでよくROEの話題を目にするようになりました。ROE自体は特に目新しい指標ではありませんが、近ごろ急速に注目を集めていることは確かです。

そこで今回は、ROEについての基本的な知識を学んでいきたいと思います。

ROEとは「Return On Equity」の頭文字をとったものであり、「アール・オー・イー」と読みます(「ロエ」と読む人もいるようです)。日本語では「自己資本当期純利益率」とか「自己資本利益率」といいます。

ROEは、企業が株主から預かった資金である自己資本をどれだけ効率的に活用して利益をあげることができるかを表す指標です。

ROEは、次の計算式で求めることができます。
ROE(%)=当期純利益÷自己資本 ×100

自己資本は、貸借対照表の純資産の部の、「株主資本」と「その他の包括利益累計額」の合計です。

数値例をあげてみましょう。自己資本がそれぞれ1億円のA社とB社があります。A社の利益が1,000万円、B社の利益は2,000万円だったとすると、両社のROEは次のように計算されます。
A社:1,000万円÷1億円×100=10%
B社:2,000万円÷1億円×100=20%

株主にとっては、同じ1億円の元手で1,000万円を稼ぐA社よりも、2,000万円を稼ぐB社の方が優れているといえますね。ROEはこうした事実を数値で表してくれます。ROEが高ければ高いほど、株主から集めた資金を元手にして利益をあげる能力が高いと判断することができます。

ROEは規模の異なる企業間の比較にも有効

上の例は、自己資本の金額が同じである2社間を比較したものですが、ROEは規模の異なる企業間を比較する際にも有効です。

自己資本が5,000億円で当期純利益が300億円のC社と、自己資本が10億円で当期純利益が1億円のD社があります。両社のうち、自己資本をより効率的に活用して利益をあげることができているのはどちらでしょうか。

両社のROEを計算してみると、それぞれ次のようになります。
C社:300億円÷5,000億円×100=6%
D社:1億円÷10億円×100=10%

利益の絶対額だけをみると、企業規模の小さいD社(利益1億円)は企業規模の大きいC社(利益300億円)に遠く及びませんが、資本の効率性という面からみれば、ROEの高いD社の方がC社より優れているという判断が下せるのです。

なぜROEが今注目されるのか

ROEの重要性は今に始まったことではありません。世界的に、ROEの重要性は以前から唱えられていました。

しかし、諸外国と比べると、日本株のROEは長年低い水準にとどまってきました。近年こそ日本株のROEは上昇傾向にありますが、それでも諸外国よりはまだまだ低い水準です。

日本株は、ROEが低い状況が長年続いてきたこともあり、ROEが株価に与える影響はあまり大きくありませんでした。そのため、PERやPBRなどといった株価指標に比べるとROEは軽視されがちでした。

ところが、最近になり、ROEが高い銘柄の株価が大きく上昇するようになりました。JPX日経インデックス400の銘柄選定基準にROEが導入されたことなども手伝って、今やROEは俄然注目を集めるようになったというわけです。

ROE使用上の注意点:過小資本銘柄には要注意

ROEを用いる際にはいくつか注意したい点があります。その1つは、過小資本銘柄への対応です。以下の例をご覧ください。

いずれも総資産が100億円のE社、F社があります。当期純利益はE社、F社とも5億円です。E社の自己資本は50億円、F社の自己資本は1億円です。

このとき、E社、F社のROEはそれぞれ次のようになります。
E社:5億円÷50億円×100=10%
F社:5億円÷1億円×100=500%

E社のROEが10%であるのに対し、F社のROEは500%と非常に高水準です。

この例のように、ROEの計算上、分母の自己資本が小さければ小さいほどROEは高くなってしまいます。しかし、これをみて「F社はROEが非常に高水準だから優良だ」と判断するのは早計です。

そこで、ROEだけではなく、ROA(総資産利益率)も併用するようにしましょう。ROAはROEの計算式の分母の自己資本を総資産に置き換えれば計算できます。ROAでみれば、E社もF社も5億円÷100億円=5%と同水準であり、F社の収益性がE社に比べて特段高いものではないことが分かります。

また、安全面にも注意を払う必要があります。F社の自己資本比率は1億円÷100億円=1%と非常に低い水準であり、安全性に問題があるといえます。

ROEだけをみれば優良企業に見えたとしても、それが過小資本によるものである場合は、他の指標も併用したうえで慎重に判断することが必要です。

ROE使用上の注意点:業種によりROEは大きく異なる

サービス業など、多額の資産を必要としない業種では、ROEをかなり高い水準にまで持っていくことができます。実際、ネット関連銘柄のROEが20%、30%と非常に高水準であることは珍しくありません。

一方、化学、鉄鋼、電力など多額の工場設備や固定資産が必要な業種(いわゆる「重厚長大産業」)では、どうしてもROEが低くなりがちです。

では、相対的に高ROEであるネット関連銘柄の株価が上昇を続け、低ROEの重厚長大産業の銘柄の株価が上がらないかといえば、決してそんなことはありません。相対的に低ROEの業種であっても、業績が向上すれば株価も上昇します。

あくまでもROEの水準にのみこだわって銘柄選択をするのであれば別ですが、ROEの高低はできるだけ同業種間での比較をするようにしましょう。

次回は、ROEとPBR、PERの関係性や、それらを用いたお宝銘柄の発掘法などについて取り上げたいと思います。